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ジェネリック原薬安定確保の障壁とは

ジェネリック原薬安定確保の障壁とは
低価格・品質の維持と安定供給は両立出来るのか

ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーでの不祥事を切っ掛けに、後発薬の品不足が問題となっている。この事で課題として浮き彫りとなったのが、品不足が予想出来ていても直ぐに対応出来ない医薬品業界の構造的な問題だ。特に、原薬と呼ばれる原材料等はその多くを輸入に頼っており、柔軟に輸入量を増やす事は出来ない。逆に、海外の原薬メーカーで不祥事やトラブルが起きると、国内の医薬品の生産がストップする事さえ有る。原薬の安定確保には、どのような課題が有るのだろうか。

国際分業が確立している原薬の製造

後発薬とは、特許が切れた新薬と同じ有効成分を含んだ医薬品の事だが、製造工程は新薬とはやや異なる。

新薬の開発は、それ迄存在していなかった化学物質等を生み出す事から始まる為、医薬品の有効成分を含む「原薬」は基本的に自社で開発し、製造も自社で行われる。自社で製造が難しい場合は、他社への委託製造も行われるが、勿論、製造法や技術等は厳しく管理、保護される。

一方、後発薬は原薬を製造する原薬メーカーと、原薬を基に製剤化する製剤メーカーが分かれており、ほぼ分業体制が確立している。原薬メーカーは日本にも在るが、原薬のほぼ半分は輸入に頼っている。この他、輸入品を国内で精製したり反応加工したりするケースもあり、国内のみで製造される原薬は、供給量全体の約40%程度に留まっている。

海外への依存度が高いと、当然、世界情勢や相手国の事情で原薬の調達が滞る事がある。世界情勢とは、例えば新型コロナ禍のようなパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻のような紛争等の事である。実際、コロナ禍やウクライナ侵攻は生産体制の縮小や調達コストの上昇という形で原薬の輸入に大きな影響を及ぼしている。

又、輸入相手の会社で事故やトラブル、法令違反等の不祥事が起きて生産に支障を来す事も有るし、相手国での法令改正、規制強化等も原薬確保の障壁となる。実際に、海外企業で起きた異物混入や外国政府の規制強化によって、医薬品の製造が出来なくなるという事態に迄発展したのが、2019年の日医工のケースだ。日医工で製造販売していた注射用抗生物質セファゾリンの原薬の調達が18年末から難しくなり、日医工は19年2月に供給を停止した。

20年9月15日付日本経済新聞オンライン版によると、同社は原薬をイタリアの会社から輸入していたが、異物混入が発覚し調達が困難になった。更に、原薬の前段階である出発物質を製造していた中国メーカーが当局の環境規制を受け、工場の稼働を停止した。この出発物質を製造しているのは、現在中国のみだともいわれている。

セファゾリンは、細菌感染症治療の他、手術の際の感染症防止の為にも広く使われている。しかも、日医工の製品は国内の約6割のシェアを占めていた。この為、全国の医療機関が、在庫や代替品の確保等の対応に追われた。

この頃から、危機管理としての「医薬品の安定供給」の必要性が意識され始め、製薬業界でも複数の調達先を確保する等の対策や、国内調達先の確保が議論されるようになって来た。

しかし、原薬と製剤の分業が確立し、しかも原薬の約半分を海外に頼っている後発薬では、国内メーカーの努力だけでは課題に対応し切れず、「安定供給」は容易な事ではない。

価格競争で劣勢に立たされる日本企業

製剤メーカーの立場から言えば、安定供給の為に原薬を複数の会社から調達すれば、それぞれの原薬に合った製造工程を用意しなければならず、在庫管理にも手間が掛かる。同じ有効成分を持つ原薬とは言っても、違うメーカーの原薬を同じように使う訳にはいかずロスも生じる。勿論、原薬の安全性の確認の手間も2倍になる。

又、国内調達を増やすといっても、国産原薬は製造コストが高く、海外の原薬に比べて割高になる。品質の高い国産原薬を使うメリットを考えても、薬価基準によってコストを反映出来ない以上、海外の原薬を使用せざるを得ない事も有るという。

原薬メーカーは更に厳しい状況に置かれている。そもそも原薬の原料となる出発物質は殆ど輸入に頼っており、特に中国への依存度が高い。先述のセファゾリンの供給停止は、正にこのリスクを突かれた形となった。

医薬品の原料が中国頼みになっている現状については、世界各国で危機感を抱いており、米国やEU等では、国産化を進めたり備蓄を増やしたりしているという。インドでは、中国に対抗して強力に国産化を推進しており、日本はインドの取り組みに期待を寄せているというのが実情だ。

中国が駄目ならインドで、と言うのは、如何にも情けないが、日本にも国内調達を増やせない事情が有る。日本医薬品原薬工業会(原薬工)に加盟する原薬メーカーは現在約100社有るが、市場規模はおよそ4550億円。中小企業が多い為、大規模な設備投資も出来ず、海外との価格競争に敗れるケースも有るという。原薬の国内依存度を高める道筋は、なかなか見えて来ない。

コストが上昇する一方で引き下げ続く薬価

こうした危機感は、国や医療機関、医薬業界全体で共有しており、後発薬の安定供給に関する議論の中でも原薬調達は重要課題の1つとなっている。

22年8月6日、7日に開かれた日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会でも、原薬の品質確保と安定供給がシンポジウムのテーマとして取り上げられた。

シンポジウムでは、製剤メーカーや原薬メーカー、輸入商社の代表者らがそれぞれの立場から、海外との取引の難しさや、分業が確立しているが故の制約が語られた。その中で、「現状の生産態勢で日本で国産化を進めようとすれば、どの程度のシェアまで可能なのか」と質問された桂化学・桂良太郎社長は「価格を考慮せずに頑張れば、半数を超えるくらいでしょう」と答えた。

「過半数」をどう評価するのかは難しい所だが、よく使われる抗生物質の原薬を国内調達するには、新たな生産設備を整備しなければならず、現実的では無いという。その上、原薬の材料となる出発物質や中間体の製造には、化学メーカー等の協力も必要で、国産化のハードルは更に高い。

桂社長は「後発薬には低価格が求められる為、原薬にコストを掛けられないという現実から、海外の安い原薬に頼らざるを得ない部分は有る。又、安全な医薬品を提供するには、ただ安い原薬を輸入すれば良い訳では無く、品質のチェックや選別も必要となり、そこにもコストが掛かる」と述べ、低価格で品質の良い医薬品を供給する事の難しさを語った。

一方、一定のコストを容認して欲しいと訴えたのが、原薬メーカー、白鳥製薬・白鳥悟嗣社長だ。白鳥社長によると、原薬製造のコストは、ここ数年上がり続け、原料費は16年から1.5倍近くになっているという。これは中国での人件費の高騰や環境規制の強化等が原因で、中国企業もこれ迄の様に低価格での輸出が難しくなっている。世界シェアが高い中国企業が、価格交渉で強気の姿勢を見せる事も増えたという。最近は電気代の高騰や円安も追い打ちを掛けている。その一方で、薬価の引き下げが続いており、コストへの転嫁が難しい状況が続いている。

白鳥社長は「医薬品を適切な品質と価格で安定供給を行う事は医薬品メーカーの使命」としながらも、「価格で原薬を選んでしまうと、安定供給の面からも品質の面からも問題が生じる。品質の確保にコストを掛けて、しっかりやっている会社が評価される事も大切だ」として、コスト競争に陥らないよう国や医療関係者等に訴えた。

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