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集中OPINION 北里柴三郎から100年。医師や患者の課題解決を追究して行く

集中OPINION 北里柴三郎から100年。医師や患者の課題解決を追究して行く
佐藤 慎次郎(さとう•しんじろう)1960年東京都出身。東亜燃料工業(現・JXTGエネルギー)、朝日アーサーアンダーセン(現・PwC Japanグループ)を経て2004年にテルモ入社。同社執行役員・経営企画室長、上席執行役員、常務執行役員を経て17年4月から代表取締役社長CEO。

新型コロナ感染症による重症患者の治療に使われる機器として、広く注目される事になった医療機器の1つにECMO(エクモ)がある。このECMOの研究開発と実用化及び普及に貢献したとして、医療機器メーカーのテルモが、2021年の「日本医療研究開発大賞」の内閣総理大臣賞を受賞した。北里柴三郎らが発起人となって設立されて約100年。これ迄多くの医療機器や医薬品を世に送り出し、医療現場を支えて来た。又、02年には医療関係者向けの研修施設「テルモメディカルプラネックス」も開設し、最新の医療技術の開発や普及にも取り組んでいる。メーカーとしてどのように医療と関わって来たのか、同社の佐藤慎次郎代表取締役社長CEOに話を聞いた。


——ECMOの開発及び実用化での内閣総理大臣賞受賞、おめでとうございます。

佐藤 有難うございます。新型コロナウイルス感染症が広がる中で、我々がどの様に医療に貢献出来るのかを考えた時、最初に考えたのは体温計でした。これは必ず役に立つと。しかし、直ぐに重症患者の治療にはECMOが必要だと分かりました。ECMOは人工肺とポンプを使って心臓や肺の機能を一時的に代行する医療機器で、通常は心停止等の緊急時にしか使われません。しかし、新型コロナウイルス感染症では、重症化すると肺の機能がやられてしまうので、肺を休ませる為にECMOが使われます。我々は国内で7割〜8割のシェアを持っていますから、「ECMOと言えばテルモ」とテレビでも大きく取り上げられました。

——ECMOは元々テルモが開発したものなのですか。

佐藤 90年代に、テルモが世界に先駆けて開発しました。ベースとなっているのは、心臓手術の為に開発した人工肺の技術です。心臓手術では、一旦心臓を止め、人工肺が代わりに血液中のガス交換を行います。テルモが80年代に、これ迄より長時間使用できる人工肺の技術を開発した事で、ECMOという治療が可能になりました。大変難しい技術を使い作り上げた機器なのですが、日常の医療現場では滅多に使われないので知名度は低く、ビジネス的に小さかった為、社内でも話題に上る事は殆ど有りませんでした。それが今では、日本中の殆どの人が知る医療機器になりました。ECMOの開発や販売に携わっていた社員は、突然奥さんに「あなた、こんな大事な物を作っていたの」と驚かれたそうですよ。大きな売上を上げて注目を浴びる製品ではありませんが、コロナ重症患者の治療の最後の砦として脚光を浴びる事になり、そうした社員の苦労が報われた様な気がします。

——ECMOの技術の普及に努めた竹田晋浩先生との共同受賞でした。

佐藤 竹田先生はインフルエンザ治療にECMOが有効な事を長年訴え、NPO法人を設立してECMOを扱える人材の育成にも取り組んで来られました。やはり一定のトレーニングを積まないと扱えない機器ですので。ECMOが知られていない時代から、そうした普及の為のネットワークを作って頂き、そうしたインフラが有ったからこそ、今回の新型コロナにも対応出来たのだと思います。そんな竹田先生と一緒に受賞出来た事を、非常に嬉しく思います。

——2021年度の決算も過去最高となりました。

佐藤 はい。20年度は、コロナ禍の影響もかなり出ましたから。医療業界はコロナ特需が有ると思われるかも知れませんが、それは僅かでネガティブな影響の方が多い。殆どの病院がコロナ対応の緊急シフトを敷く為に、急がない手術が延期されたり、患者さんが減ったりしたので、我々の売上も減る訳です。20年度前半はかなりの打撃でした。ようやく医療体制も整い、日常生活も元に戻りつつあるので、それに応じて落ち込んでいた部分の業績も回復して来たという所です。3カンパニー制で8つの事業をやっていますが、3カンパニーとも基本的に、成長軌道に戻りつつある事が数字でも裏付けられたのだと思います。

医療関係者の為の研修施設を整備

——研究開発費の比率が他社に比べて低いとも言われますが、その中で効果的な開発をされているイメージが有ります。

佐藤 今7%位ですので決して低くは無いと思っています。医療業界の中で最も研究開発費が多いのは新薬メーカーで、医療機器メーカーはそれより少し下がるんですね。医療機器の中でも、高度治療に特化している会社は10%を超えますが、我々の場合は注射器や注射針等、多くの研究開発費を必要としない商品も有るので、全体で7%位に落ち着くんです。高度な治療機器の開発に関しては10%を超える様な研究開発費を注ぎ込んでいます。

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