SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第172回 厚労省ウォッチング 出生率低下で年金給付水準50%はいよいよ困難か

第172回 厚労省ウォッチング 出生率低下で年金給付水準50%はいよいよ困難か

2021年の合計特殊出生率は1・30にとどまった。6年連続の低下で過去4番目の低さだ。厚生労働省内では「コロナ禍の影響が大きく響いた」との愚痴がこぼれるものの、出生率は一過性の新型コロナに関係無く低落傾向にある。社会保障政策への影響は避けられない。「もう少し緩やかな低下が続くと見ていたのに……」。危機的な出生率、81万1604人とまたも過去最低を更新した出生数を前に厚労省幹部は顔を歪めた。

同省の国立社会保障・人口問題研究所は5年に1度、人口推計を公表している。前回17年公表の推計では、21年の出生率を1・4、出生数を86万9000人(いずれも標準的なシナリオ)と読んでいたが、実績はこれを大きく下回った。

次の推計公表は来年前半。次期推計を踏まえ、25年度の年金制度改革に臨む厚労省年金局の幹部は「与野党から批判され、サンドバッグ状態になるだろう」と身構える。というのも、このままでは17年の人口推計を基に国民に約束した年金給付水準が大幅に下がってしまう見通しだからだ。

04年の年金改革の際、厚労省は厚生年金のモデル世帯の給付水準(現役世代の手取り額に対す↘る年金額の割合)について、「50%を維持する」と約束し、年金関連法の付則にも明記した。その後は5年に1度、年金財政検証を実施し、その都度「50%の維持は可能」と説明して来た。

しかし、今回の出生関係のデータは来春公表予定の人口推計に織り込まれる。その人口推計を反映させる次期年金制度改革では、策を弄さずに「50%維持」を謳うのは絶望的だ。厚労省年金局は早くからその事を想定し、何とか「50%維持」と説明出来る材料を模索して来た。

材料の1つは年金の伸びを物価の伸びより抑える「マクロ経済スライド」について、基礎年金のスライド終了予定(47年度)を33年度に前倒しする事(25年度終了予定の厚生年金は33年度に遅らせて基礎年金と終了時期を統一)、もう1つは国民年金の加入期間(20〜60歳になる迄の40年間)を5年延ばして65歳になる迄とし、より多くの保険料を払ってもらうというものだ。

基礎年金の水準が大きく下がらないうちにスライド調整を終えれば、50%水準はギリギリ維持出来る見通しだ。国民年金の加入期間延長にまで踏み込めば、50%の維持は更に実現可能性が高まる。

ただ、基礎年金のスライド調整前倒しには厚生年金の資金を一部充てる必要が有る。又、国民年金の加入延長は給付の増加に合わせて税負担も増し、財務省は早くも反発している。次の年金制度改革でスライドの終了時期統一は何とかなりそうでも、加入期間の延長は容易では無い。

「子ども真ん中社会を目指す」。6月14日、こども家庭庁の設置関連法案を可決した参院内閣委員会で、岸田文雄首相はそう語った。首相は子育て関連予算の倍増を約束し、司令塔役に来年4月にも発足する同庁を据える意向だ。

ただ、財源は「社会全体での費用負担の在り方を検討する」と言うに過ぎない。「消費増税は早々に首相が封印していて、財政の裏付けは何も無い」と厚労省幹部は頭を抱える。出生率の低下は後手後手の対策が招いた結果というのが実情だろう。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top