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未来の会

「見せしめ」のコロナ時短命令にNO!

「見せしめ」のコロナ時短命令にNO!

私権制限の慎重な運用求める

2年以上に亘る新型コロナウイルスのパンデミックから徐々に日常が戻りつつある中、感染拡大防止の為に行政が何処まで強権を振るえるかを問うた注目の裁判の判決が出された。東京地方裁判所が5月16日に示したのは、東京都が飲食店に行った全国初の「営業時間短縮命令」を違法とする判断。原告側の控訴により判決は確定していないが、今回の判断は再び訪れるかも知れないパンデミックの際に、行政を縛る足枷となるのだろうか。

 裁判で争われたのは、東京都が昨年3月、新↘型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき出した「時短命令」の是非である。連日、東京都内で数千人の感染者が確認されながらも日常生活が戻って来た昨今からすると信じられないが、昨年3月と言えば、1月に2回目の「緊急事態宣言」が出され、飲食店の多くが時間短縮営業を余儀無くされていた時期。だが、こうした流れに反旗を翻した飲食店が有った。都内を中心に「カフェ ラ・ボエム」「モンスーンカフェ」等の約40店舗を運営する「グローバルダイニング」である。

 「昨年1月7日に国が東京都等を対象に緊急↘事態宣言を出し、都は飲食店に午後8時迄の営業時間短縮を要請したが、グローバルダイニングは深夜迄の通常営業を継続した。同社は同日、長谷川耕造社長の名前で『代表・長谷川の考え方』とする文章をホームページに掲載した」(司法担当記者)

 この文章の中で、長谷川社長は「現在は緊急事態であるとは思えない」「ロックダウンを徹底している国で感染が下火にならず、時短や休業は感染をコントロールするのに効果が無い」「行政からの協力金やサポートでは、事業の維持、雇用の維持は無理」等と主張。通常の営業を続けると宣言した。↖

 一方、要請に従わない飲食店への対応を迫られた東京都は1月から3月迄の間、職員が飲食店9万4773店の営業状況を目視で調査。9万2522店が時短営業をしている事を確認した。実に98%の飲食店が時短要請を守っていた事になる。とは言え、都内の2000店舗以上は要請に従っていなかったのも事実だ。

営業継続宣言の1社を狙い撃ちした格好に

 この事態に、東京都は次の対応策を打ち出す。2月26日、グローバルダイニングに対して時短営業を要請。同社が応じなかった為、3月18日、同社の26店舗を含む飲食店27店舗に、特措法に基づき、要請よりも強い「時短命令」を出したのである。

 「営業する飲食店の多くがこっそり営業していたのに対して、グローバルダイニングは堂々と従わない事を宣言した。同社の主張を支持する人達も居る一方で、多くの飲食店が要請に従い我慢している中、同社だけが従わない事に反発する声も有った。都は同社の影響力を重視し、要請に従わない店舗が増える事を危惧したのだろう。最終的には、同社以外の飲食店も含め32店舗に時短命令を出したが、それでも都が同社を〝狙い撃ちした〟との印象は拭えない」と或る司法関係者は語る。

東京都は改正特措法で時短命令を実施

 2回目の緊急事態宣言中、〝強権〟を発動する為の強い武器が出来た事も大きかった。2月13日に施行された改正特措法により、従わない事業者に最大30万円の過料を伴う時短命令が可能となったのである。グローバルダイニングが受けた時短命令は、この改正特措法に基づく初の命令であった。

 「法律に基づく命令とあって、さすがの同社も従わざるを得なかった。命令を受けて時短営業をしたものの、命令が出された3月18日は政府が緊急事態宣言を21日に解除する事を決定した日でもあった。同社の時短営業は、宣言が解除される迄のわずか4日間に止まった」(司法担当記者)

 緊急事態宣言が解除された21日を以て時短営業命令の期間も終わった訳だが、同社は翌22日、時短命令は「営業の自由」や「表現の自由」を保障する憲法に違反するとして、東京地裁に提訴。約1年の係争を経て、東京地裁の判決が出されたという訳だ。

時短命令を違法とした東京地裁。その詳細は

司法担当記者が解説する。

 「判決は、小池百合子都知事の判断に過失が有ったとは認めず、損害賠償請求は棄却した。一方で、『不利益処分を課してもやむを得ないと言える個別事情』が有ったと迄は認められず、今回の時短命令自体は違法と判断した、言わば両者痛み分けの内容。尤も、時短営業命令と言う制度そのものは憲法違反には当たらないとしており、たまたま今回は、この命令を出す必要性が認められなかったという判断だ。主張が全面的に認められなかったグローバルダイニングは即日、東京高裁に控訴した」

 なんとも理解が難しいが、裁判所は先ず、時短命令は都知事の独断では無く、開催された都の審議会が「命令は適当である」と判断して書面で出されたものである為、都知事に過失は無いと判断。ただ、命令を受けた店舗が換気や消毒等の感染対策を行っていた事や、当時、都内の約2000店舗が要請に応じず夜間営業を続けていたのに、同社に対して実質4日間だけの命令を出した事に対して、「必要性について合理的な説明が無く、命令の基準について公平性の観点からも説明が無かった」と指摘したのだ。その結果、今回の時短命令は、「特措法の要件を満たさない違法なものだった」との結論に至った。

 この判決を、「特措法に基づき時短命令を出す場合は、行政側に相当、慎重な判断が求められるという事だ」と受け止めるのは、厚生労働省の関係者だ。新型コロナ特措法は、感染症の蔓延を防止する為、飲食店等に営業時間の短縮や休業を要請出来ると定めている。正当な理由無く応じなかった場合、都道府県は店舗に対して時短等を命令出来るとなってはいるが、今回の判決は、自治体が命令を出す必要性をかなり慎重に判断するよう求めた。

 原告のグローバルダイニングが受けた時短命令は、東京都が全国に先駆け最初に出した事例。その後、都だけでなく全国の自治体で、要請に応じない店舗に命令が出されている。今回の判決によって、こうした動きは難しくなるのか。又、近い将来、再び「未知の感染症」が広がった場合、自治体が今回の判例を頭に置いて、個人の権利制限に対して慎重になれるだろうか。

 この疑問について、前出の厚労省関係者は「日本人は法律より同調圧力を重んじる国民性なので……」と苦笑いしながらこう指摘する。

 「法規制でなく同調圧力だけで国民の多くがマスクを着用したり、感染拡大に繋がりかねない行動に目を光らせる〝自粛警察〟があらゆる場所に出現したりと、日本では時に、周囲の目が法制度より強い権力を発する事が有る。多くの国民が感染症を恐れているフェーズでは、過剰な自粛を求める声が大きく、自治体の対応をぬるいと批判する声も大きいだろう。そうなった時、今回の地裁判決は逆に、自治体の味方になってくれる。又、今回の新型コロナの様に、国民感情がだいぶ落ち着いて来た時期には、自治体は私権制限について冷静に判断出来るだろう」

 危機管理の世界には、国民の権利を制限する法制度については、非常時でなく平時に決めておくべきだという考え方が有る。国民の多くが過剰な自粛をしている時期には、自治体の〝強権〟を支持する声も大きくなりがちだが、行き過ぎた私権制限には常に目を光らせておく必要が有るという事か。

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