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第147回 浜六郎の臨床副作用ノート 経口コロナ剤試験の深刻な欠陥

第147回 浜六郎の臨床副作用ノート 経口コロナ剤試験の深刻な欠陥

 経口COVID-19用モルヌピラビル(ラゲブリオ)の早期承認の危険性を指摘したBMJのEditorial1)に対して、「薬のチェック100号」や本誌22年3月号などで指摘したことを元に、他の試験の問題点なども加えてコメントしたところ、letterとしてBMJに掲載された2)。この記事は、アクセスフリーである。なお、日本語訳を、「薬のチェック速報No204」3)に掲載したが、翻訳全文を本誌でも紹介する。

早すぎる承認——モルヌピラビル臨床試験における背景因子の偏り

 Editorial1)は早期終了した試験1件だけに基づいて承認の決定を下す危険性を強調した。モルヌピラビル試験には、さらにいくつかの問題がある。

●モルヌピラビルに関連した入院または死亡のリスク減少は、性別で調整した場合、全ランダム割付集団では有意でなかった(ハザード比0.69、95%信頼区間0.48〜1.01)。

●中間解析では有効との結果が示されたが、中間解析後はCOVID-19を悪化させる可能性がある。中間解析の対象にならず、最終解析の対象になった集団について、入院または死亡のリスクを単純計算すると、モルヌピラビル群(6.2%)は、プラセボ群(4.7%)に比べて有意ではないが多い傾向があった。

●Move-Out試験には、背景(試験開始時)の危険因子に、モルヌピラビルに有利な深刻な偏りがある。慢性閉塞性肺疾患の患者の割付が、モルヌピラビル群に有意に少なかった(オッズ比0.31、P = 0.0043)。肥満以外の危険因子を有する対象者の割合の合計は、プラセボ群(51.8%)よりもモルヌピラビル群(43.4%)で有意に少なかった(OR 0.71、P = 0.019)。 4つの危険因子(糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、活動性癌)に限定すると、背景のリスクはモルヌピラビル群でほぼ40%低かった(OR 0.61、P = 0.0043)。これらの結果は、中間解析の前に、(二重遮蔽の)遮蔽が外れていたことを示唆する。

●全ランダム割付集団でも、重大な偏り(肥満を除く)がある(OR = 0.79、P = 0.0314)。このことは、公正なランダム化がなされたのか疑問を投げかけるに十分な理由となる。

●中等症から重症のCOVID-19を対象とした試験においては矛盾した結果が見られる。サブグループ解析では、モルヌピラビルは中等症のCOVID-19患者に有意に有効であるように見え、効果の程度は、軽症COVID-19患者よりも大きかった。しかし、中等症のCOVID-19を対象とした2件のランダム化比較試験は、無効が予測されたために中断されていた。

●Move-In試験では、試験開始前のCOVID-19の重症度に深刻な偏りがある。スコア6のCOVID-19(入院し、非侵襲的人工換気または高流量酸素療法)の患者は、プラセボ群(8.0%)よりもモルヌピラビル群(2.3%)で有意に少なかった(OR 0.27、P = 0.025)。しかし、死亡リスクは、プラセボ(2.7%)と比較して、有意ではないがモルヌピラビル群(6.0%)に高かった(OR 4.69、P = 0.105)。開始時重症度スコア6のオッズ比に対する死亡オッズ比の比(ratio)は、Kolassaの方法で計算すると17.38(95%信頼区間1.6から188.8)であった。

●モルヌピラビルは、イヌで不可逆的な骨髄抑制が生じ、DNA損傷、骨髄毒性、およびヒトの突然変異と関連がある。Move-In試験で観察された死亡は、骨髄毒性と関連していないだろうか?

 モルヌピラビルやレムデシビルなどの抗ウイルス剤の臨床試験報告書を全面開示する必要がある。そして、ノイラミニダーゼ阻害剤の系統的レビューで実施されたように、再解析が必要である。

参考文献

1) BMJ 2022;376:o443. doi: 10.1136/bmj.o443
2) BMJ 2022;377:o977  https://www.bmj.com/content/377/bmj.o977
3) 薬のチェック速報204  https://www.npojip.org/sokuho/220428.html

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