パロキセチンなど抗うつ剤は一般的に、「選択的」セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)と呼ばれているが、ドパミンも増加させる作用がある点などから筆者は、セロトニン再取り込み阻害剤(SRI)としている。SRIやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)などSRI系抗うつ剤はすべて、消化管出血、脳出血、分娩後異常出血など出血のリスクを高める。薬のチェック101号では特に分娩後異常出血の問題を取り上げたので、概略を紹介する1)。
高用量で分娩後異常出血が約2倍に
2020年に2件のコホート研究が発表された。1件めは米国の研究で、健康保険データベースで2万7621件の妊娠のデータを分析した。分娩後異常出血の割合は、妊娠期間中うつはあるが抗うつ剤を使用しなかった女性は3.4%、不安があるが抗うつ剤を使用しなかった女性では2.7%であった。一方、高用量の抗うつ剤を使用した女性は7.3%であった。
低用量の抗うつ剤を使用していたが妊娠初期に中止した女性と比較し、調整後の分娩後異常出血のリスク比(RR)は、フルオキセチン10mg/日と同等の抗うつ剤に曝露された女性で1.32(95%CI:1.05-1.66)、75mg/日と同等の抗うつ剤に曝露された女性で2.51(1.69-3.71)と用量依存性があった。
スウェーデンの公的妊娠登録制度のデータを用い、20年に発表されたコホート研究でも同様の結果が得られていた。この研究は、13年1月から17年7月に出産した女性30万人以上を対象としていた。分娩後異常出血は、分娩後2時間以内の1000mlを超える出血と定義された。この定義による出血が、精神疾患はあるがSRIを使用しなかった女性の7.6%、精神疾患がなくSRIも使用していない女性の7.0%にみられたが、SRIを使用した女性では9.1%であった。精神疾患がなくSRIを使用していない女性に比べて、妊娠中にSRIを使用した女性は、オッズ比1.34(1.24-1.44)と統計学的に有意に分娩後異常出血のリスクが高まっていた。
セロトニン取り込み阻害が出血に関連
出血の機序は、血小板によるセロトニン取り込みを阻害し、出血が起こっても、セロトニンが欠乏した血小板から、他の血小板を活性化するためのセロトニンが十分に放出されず、出血が長引くことが想定されている。暴露時期が妊娠満期に近いほど、また高用量ほど、分娩後異常出血のリスクは高まる。
添付文書に記載が必要
分娩後異常出血は、妊産婦死亡の主な原因であるため、SRI系抗うつ剤の深刻な害である。日本で販売されているSRI、SNRIの添付文書には、そのほとんどで出血傾向を助長させることは記載されているものの、分娩後異常出血という文言が記載されているものは皆無である。添付文書に記載し、出産に携わる産科医、助産師への注意喚起を要する。
実地診療では
SRI系抗うつ剤には、そのほかにも重大な害作用多い。例えば、新生児呼吸窮迫症候群など新生児毒性(neonatal toxicity)、離脱症状、遅発性離脱反応として凝固亢進に伴う肺動脈性肺高血圧症、形成異常(「奇形」改め)や、長期的な精神神経障害の発症など、児の生涯に及ぶ大きな害が起こりうる。
一方、うつ病に対する薬物治療はそれほど有効ではないため、上記の害にも関わらず、SRI系抗うつ剤の使用が正当な状況は考え難い。認知行動療法(CBT)などの非薬物療法で対処すべきである。
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