新型コロナウイルス感染症の拡大は、医薬品を海外に依存している日本の課題を浮かび上がらせた。政府は国産ワクチンの開発支援に注力する意向だが、世界の製薬大手は既にウイルスの複数の変異に対応出来る汎用型ワクチン実用化にメドを付けつつある。厚生労働省の危機感は強い。
1月21日の参院本会議。3回目のワクチン接種が進まない状況に、岸田文雄首相は「産学官の実用化研究を集中的に支援する」と述べ、国内に世界最高水準の研究開発拠点を作る考えを示した。とは言え、日本の製薬企業が欧米に追い付くのは並大抵でない。
コロナワクチンに関し日本で先行するのは塩野義製薬だ。遺伝子組み換え技術を使い、今年度中の実用化を目指している。第一三共も近く、ファイザー製等と同じmRNAワクチンの最終試験に着手する。
それでもコロナワクチンはファイザー製とモデルナ製が席巻し、日本では国産開発用の治験参加者の確保すら困難な状態だ。欧米企業は先行しており、例えば独キュアバックと英グラクソ・スミスクラインは年内にも動物実験で既存ワクチンの10倍の有効性が有るとするワクチンを実用化するという。厚労省幹部は「国内産が実用化出来たとしても、各国で使ってもらえる状況にはならないのでは」と表情を曇らせる。
問題は「技術力」の差だけではない。コロナ禍ではマスクや消毒液に始まり、更には薬の海外依存も明らかになった。中でも医療関係者を凍り付かせたのは、人工呼吸器を必要とする重症患者向けの鎮静剤「プロポフォール」の不足だった。世界的パンデミックで製造元のドイツ企業の供給が追い付かず、綱渡りの治療を余儀なくされた医療スタッフは多い。
厚労省によると、2018、19年度に医薬品が「供給不安・欠品」に陥った例は計112件(製薬企業の自主報告)。うち後発医薬品は62件(55%)だった。後発品は原薬の材料の47%を国外から調達している等とりわけ海外依存度が高い。
日本では19年、原材料を海外に頼っていた事が仇となり、手術での感染症予防等に使う医薬品「セファゾリン」のひっ迫が深刻化した。そこで20年6月には国産化推進に向けて製薬企業への設備投資への支援を始めた。又、厚労省はこれに先立ち、20年3月に「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」を発足。同会議は21年3月に「確保すべき医薬品」として506成分を指定した上で、うち21成分を最優先すべき医薬品(カテゴリA)に分類していた。
厚労省は同会議での議論を踏まえ、サプライチェーンの複数化等の対策を打ち出した。岸田政権は今国会での成立を目指す経済安全保障推進法案によって重要性の高い医薬品を特定重要物資に指定する意向だ。
しかし、最優先で確保すべきとした21成分の中には、コロナ禍で不足が際立ったプロポフォールも含まれている。海外依存度の高い原材料を国内からの調達に切り替えるのは容易ではない。海外から安い原薬材料を仕入れなければ、利益を確保しにくい為だ。薬価を下げ続けて来た後発薬はそうした傾向が強く、厚労省は「ジレンマ」(幹部)に陥っている。
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