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未来の会

2025年に向け「待った無し」の少子化対策

2025年に向け「待った無し」の少子化対策
「こども保険」が切り札となるか

出生数の減少に歯止めが掛からない為、岸田文雄政権は「全世代型社会保障構築会議」を立ち上げ、夏の参院選に向けて少子化対策を打ち出す方針だ。参院選後は新型コロナウイルスの収束を見据え、医療や介護分野での負担増の他、少子化対策の切り札としてかつて与党内で議論された「こども保険」の導入も検討されている。ただ、経済状況や政権基盤が安定している事に加え、保険料の負担増という「痛み」を伴う為、岸田首相の本気度が問われる。

 「全世代型社会保障構築会議」は昨年11月に初会合が開かれているが、当時は看護師や介護士、保育士の月給を3%程度引き上げる処遇改善について下部組織の「公的価格評価検討委員会」で議論されただけだった。親会議の設立趣旨は「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築する観点から、社会保障全般の総合的な検討を行うため、全世代型社会保障構築会議を開催する」と謳われおり、3月9日に開かれた会合が夏の参院選に向けた少子化対策のキックオフとなった。

 座長は清家篤・日本私立学校振興・共催事業団理事長、座長代理を増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授が務め、委員は社会保障制度や財政制度の専門家ら15人で構成する。メディアアーティストの落合陽一氏ら新進気鋭の論客が名を連ねているのが目を引くが、多くは学識有識者だ。

 ただ、財務省寄りの財政学者、土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授の他、厚労官僚出身の香取照幸・上智大学総合人間科学部教授が選ばれているのは注目される。香取氏は野田佳彦政権で消費増税と社会保障の財政健全化等に取り組んだ「社会保障と税の一体改革」で事務方として奔走した事でも知られ、霞が関界隈では「岸田政権は本気で社会保障改革に取り組もうとしているのではないか」と憶測を呼んでいる。

岸田首相の本気度が窺われる構成員

 こうした有識者委員を裏で「操縦」するのが、山崎史郎・内閣官房参与だ。1978年に旧厚生省に入省した山崎氏は介護保険制度創設に香取氏と共に携わった他、2010年には菅直人首相秘書官を務める等、社会保障分野での中心人物と言える。近著には『人口戦略法案』を上梓し、「私たちがここで行動を起こさなければ、この国は人口減少という巨大な渦の中に沈み続けていく」と訴えている。

   山崎氏の起用は、財務省出身で厚労担当の主計官を務めた事も有る宇波弘貴・首相秘書官が首相に入れ知恵したと言われている。宇波氏と香取氏は社会保障と税の一体改革時に重要な役割を果たした「キーパーソン」。厚労省OBは「宇波氏も山崎氏とは顔見知りだっただろうが、香取氏がより強く山崎氏を推したのではないか」と見る。

参院選の勝利を待って始動か

 とは言え、「参院選迄はローキー」(厚労省幹部)だと言う。先ずは自民党内で、少子化対策について議論してもらい、参院選の公約に掲げる為の弾込めをしている段階だ。児童手当や結婚支援金の増額等が俎上に載っている。自民党関係者は「結婚した際にお金が掛かり過ぎるので、その際の支援金を増やしたい」と意気込む程度で、直ぐさま負担増に切り込む気配は無い。

 と言うのも、厚労省が開会中の通常国会に提出した雇用保険法改正案ですら、自民党の参院幹部を中心に激しい抵抗に遭ったからだ。今回の改正案では、コロナ禍での雇用を下支えした「雇用調整助成金」の特例措置が幾度も延長された為雇用保険の財政がひっ迫した。この為、コロナ以降を見据え、失業給付等に支払う事業の保険料率を10月から労使折半で賃金の0・2%の所を0・6%に引き上げる内容だ。政府は当初、4月から施行しようとしたが、自民党の世耕弘成・参院幹事長らが中心となって反対し、半年間の延長を余儀なくされた。

 労働政策を取材する大手紙記者は「厚労省は財務省と調整しながら4月から引き上げようとしたが、参院自民党の他、自民党幹部からも『参院選に負けさせようとしているのか』と猛烈に反対され、実現出来なかった。0・2%から0・6%に上がると言っても多くの人は月額で数百円程度の負担が増えるだけだが、コロナ禍という事も有り反対する勢いは凄かった」と解説する。こうした状況も有り、先ずは参院選迄は水面下に潜伏させ、参院選で安定した議席数を確保する事で、本腰で改革に取り組む、というのが厚労省幹部の描くスケジュールだ。

子育て支援拡充に向けた「こども保険」

そこで浮上して来るのが、「こども保険」だ。これは、徴収した保険料を子育て支援に使う、というもので、具体的な制度設計は確定していない。働いている人と、企業が保険料を支払う為、年金保険料や雇用保険料に上乗せする事等が想定される。17年に小泉進次郎前環境相が提唱し、幼児保育の無償化の際に議論された試算では、月の年金保険料を0・5%引き上げると財源は1兆7000億円に達する、とされていた。

 この時は年金保険料に上乗せする形だったが、厚労省はこれとは別に、雇用保険財政の見直しに向け、育児休業給付と失業給付を分けて料率を算定する雇用保険法改正案を20年の通常国会に提出している。今迄は集めた雇用保険料を失業給付や育休給付の両方の支出に充てていたが、これを明確化したものだ。当時の改正に携わった職員は「『こども保険』を念頭に置いていた訳では無いが、結果的に育児給付部分を『こども保険』の様にして位置付けを明確化する事は可能だろう」と話す。山崎氏も「こども保険」の創設を提唱していると見られ、岸田政権の目玉政策になる可能性が有る。

 更に、24年に向けては診療報酬と介護報酬の「ダブル改定」が有る。団塊世代が75歳になり始める「25年」と団塊ジュニアが65歳以上になる「40年」の問題に向けて、医療と介護の連携を更に深め、窓口負担等の見直しが進む事が想定される。これから3年に1度の介護保険法見直しに向けた議論も厚労省内で始める見通しだ。

保険料引き上げの壁が立ちはだかる

 「こども保険」は、「雇用保険」を発展させる試みとも言えるが、こうした案に与党の一部には期待を寄せる声が有る一方で、冷めた声も有る。公明党関係者は「『こども保険』は公明党は古くから主張していたものなので、方向性は一致している」と話す一方で、自民党厚労族の一人は「そもそも雇用保険の料率を引き上げるにも相当苦労した経緯が有るだけに、そんなに上手く行くとは思えない。それに保険料を引き上げるのはもはや限界で、企業側の反対も予想される。消費増税しか無いのではないか」と懐疑的だ。

   しかし、消費増税は安倍晋三元首相が19年の参院選前に「10年間必要無い」と発言しており、政権基盤が盤石でない岸田首相としては安倍元首相の意向は無視出来ない。苦肉の策として生み出された「こども保険」も与党内の支持を得られずに実現が厳しいとなれば、少子化対策も「絵に描いた餅」になりかねない。

 厚労省が2月25日に公表した21年の出生数は速報値で84万2897人だった。この数字には外国人等も含まれており、確定値は3万人程度減る可能性が有るが、「80万人割れ」に陥る事態は避けられた。ただ、少子化対策は待った無しの状態と言える。先ずは参院選に勝利を収め、政権として安定的な基盤を築かないと本格的な社会保障改革には着手出来ないとの見通しが政府・与党内で強まっている。参院選が正念場だ。

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