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厚労省ウォッチング 第166回 「少子化対策」へ不妊治療保険適用今春スタート

厚労省ウォッチング 第166回 「少子化対策」へ不妊治療保険適用今春スタート

 今春スタートする不妊治療への公的医療保険適用に関する政府案が固まった。適用対象になる女性の体外受精開始時の年齢を「43歳未満」とする等菅義偉政権時代の助成制度拡充に沿った内容で、厚生労働省は「相当程度の前進」(幹部)と受け止めている。それでも却って使い勝手が悪くなる側面もあり、当初目的の「少子化対策」にどれほどの効果を上げられるかは見通せない。

 「不妊治療分と看護師の賃上げ分は最初から財務省も認めていたからね」。昨年末、2022年度の診療報酬改定を巡って「本体」部分を0・43%アップで決着させる事が決まるや、厚労省幹部はそう呟いた。0・43%のうち不妊治療に充てられるのは0・2%分、国費ベースで約100億円増(改定時の財務省公表値)だ。

 不妊治療費は人工授精が1回平均3万円程度で、体外受精は50万円前後かかる。子供を欲しくとも授からないカップルには決して軽くない負担だ。そこで前菅政権は21年1月、少子化対策として不妊治療の助成制度を拡充した。「夫婦の合計所得730万円未満」との所得制限を無くし、事実婚も対象とした上で、助成額もアップ。更に子供1人当たりに付き妻が40歳未満なら6回迄、40〜43歳未満は3回迄助成するといった内容だ。

 19年に不妊治療の体外受精で生まれた子供は6万人強と過去最多。14人に1人は不妊治療によって生まれた計算で、少子化対策としても一定の成果を上げている。今回はこの助成対象をそっくり保険適用対象に切り替える方向で、その場合自己負担は原則3割になる。

 日本産科婦人科学会によると、不妊治療による出産率は32歳で22%(19年)。但し年齢が上がるに連れて出産率は低下し、40歳で9・8%、43歳では3・6%に下がる。又9割の女性は6回迄の治療で出産する一方、40歳を超えると効果が見えにくくなるとの調査結果も有る。「43歳未満」「6回迄」を保険適用の対象とするのはこうしたデータに基づいている。

 ただ、課題も少なくない。今の助成は今年度末で廃止される。最も懸念されるのはこれまで受けていた治療が保険適用対象になる保証が無い事や、現行の助成より自己負担が増える可能性が有る事だ。

 保険適用対象は体外受精や顕微授精等、日本生殖医学会がガイドラインで「推奨」するものに絞られる見通しとなっている。

 一方、不妊治療は医療機関がそれぞれ工夫し、患者に合った「オーダーメード医療」に近い形を取る事も多い。その点、保険適用になるのは「標準的な治療」に限られる。基準が明確になる反面、そこから外れると「自由診療」となってしまい、保険が利かない。厚労省幹部は「様々な治療を組み合わせて最適の方法を探るような事は、保険治療では難しい」と漏らす。

 保険適用の治療と、自由診療を併用する「混合診療」は原則禁止されている。組み合わせた場合は保険が利く部分も含めて全額自己負担になる可能性が有る。厚労省は一部の不妊治療については例外的に混合診療を認める「先進医療」に含める事を想定しているものの、まだ検討段階だ。専門医の間からは「6回の制限は厳し過ぎる」といった指摘もなされている。85万人にまで減少した2019年の出生数は、これまでの少子化対策が不十分だという事の証左だ。朝令暮改でも構わない。少しでも出産を希望する女性に沿う支援が急務だ。

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