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日テレは「即謝罪」、正しい医療情報はネットから

日テレは「即謝罪」、正しい医療情報はネットから
番組を問題視する医師の意見がSNSで拡散

日本テレビのバラエティー番組「ザ!世界仰天ニュース」が取り上げた医療情報を巡り、日テレが翌週の放送で謝罪に追い込まれる事件が起きた。患者や医療者がこぞって抗議の声を上げただけでなく、日本皮膚科学会等の抗議がインターネットで急速に拡散された事を受けての素早い対応だ。これまで「流しっぱなし」が多かったテレビだが、ネットメディアの台頭と共にその勢いは低下。新型コロナウイルスの流行で医療情報を慎重に扱う事が求められる社会が、それを後押しする。今や、正しい医療情報を伝える〝主戦場〟はネットに移りつつある。

 猛抗議の対象となったのは、日テレが9月7日に放送した「ザ!世界仰天ニュース」。「衝撃の症状!謎の病SP」として、様々な病気を再現VTRで紹介し、その中にひどい肌荒れに悩む女性のエピソードがあった。「病院で処方されたステロイドを使っても肌荒れが治らなかった女性が、ネットを検索して『脱ステロイド療法』を試し、約400日後に元通りの肌になったという内容だった」(メディア担当記者)。

 ステロイドはアトピー性皮膚炎の治療を中心に広く使われており、抗炎症作用が期待されて新型コロナ感染症の治療にも用いられている。しかし、ワクチンと同じように、その安全性を不安視する声が定期的に流れる事でも有名だ。

「ステロイドバッシング」の〝前科〟

 「ステロイド外用薬を巡っては、副作用を過剰に報道する〝ステロイドバッシング〟の時代が1980〜90年代にあった」と都内の皮膚科医は振り返る。ステロイドの副作用を取り上げたテレビ朝日の報道番組「ニュースステーション(当時)」では、久米宏キャスターが「ステロイドは最後の最後ぎりぎりまで使ってはいけない薬」等とコメント。ステロイドは「悪魔の薬」として多くの患者に不安を与えた。「アトピー治療中の患者の多くがこうした報道に触れてステロイド恐怖症になり、ステロイド以外の治療を求めるようになった」と前出の皮膚科医は当時の様子を語る。

 こうした患者の不安に応えるように、「脱ステロイド」と呼ばれる不適切な治療が横行。番組が取り上げたのは、まさにこの不適切な治療法だった。では、「脱ステロイドで治った」という番組内容は嘘なのだろうか。幼少期からアトピーに悩んできたという40代の全国紙医療担当記者は「全てが嘘とは言い切れないが、明らかに誤解を与える内容だ」と憤る。

 この女性記者は中学生の頃、「ステロイドは悪魔の薬」と聞いた母親から、「ずっとステロイドを使ってきてしまってごめんなさい」と脱ステロイドと健康食品摂取を強要された経験を持つ。ステロイドをやめた事で発疹は一時全身に広がり顔もパンパンに腫れたが、症状はじきに収まり、悩んでいたアトピーも半年後には消失した。「健康食品が効いた、と私も家族もずっと、脱ステロイド療法と健康食品を信じてきた」という。

 しかし、医療担当記者になって取材してみると、ステロイドは現在もアトピーの標準治療として使われている。医師は「容量用法を守って使えばよく効くいい薬だ」と口をそろえる。「そういえば、私をまねてアトピーの友人達が何人も脱ステロイド療法と健康食品を試したが、誰も完治しなかった。本当に良い治療法なら多くの患者に効果があるはず。担当記者として医療の知識を深めた事で、私は自分の場合は成長に伴い体質が変化してアトピーが治ったのであって、脱ステロイドは関係ないと思うようになった」と語る。

 番組が取り上げたのも、この女性記者のような事例かもしれない。しかし、番組では明らかにステロイドに対する誤った情報も放送されていた。「ステロイドは本来体内で作られるが、ステロイド薬の使い過ぎにより体内でステロイドが作られなくなった」「再び体内で作られるようにするには、ステロイド薬を断つしかない」といった表現だ。

6学術団体と患者団体が連名で抗議

 この番組に反応したのは、アトピーに悩む患者や治療を行う医師達だ。すぐにツイッター等のSNSで番組を問題視する声が上がった。「新型コロナで医療に対する国民の関心は高まっている。日頃はコロナの情報を発信する多くのフォロワーを持つ医師が番組を問題視する意見を拡散し、番組への抗議の声は膨れ上がっていった」(メディア担当記者)。

  番組を監修したとされるクリニックの医師が、過去に脱ステロイドで患者の症状を悪化させたとして慰謝料を支払っていた等とする情報も広く拡散され、放送から7日後には、日本皮膚科学会、日本アレルギー学会、日本臨床皮膚科医会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本小児アレルギー学会、日本小児皮膚科学会の6学術団体と患者団体・NPO法人日本アレルギー友の会が連名で、日テレに抗議文を提出するまでに至った。

 こうした事態を重く見て、日テレはその日の同番組で「治療中の多くの患者の皆様とそのご家族、携わる医師の方にご心配及びご迷惑をおかけした」と謝罪。ホームページにも「ステロイド外用薬は、有効性と安全性が科学的に立証されている薬」等と記し、全面的に謝罪した。

 メディア担当記者によると、抗議を受けて日テレは、近畿大医学部の大塚篤司医師を招いた社員研修を実施。治療ガイドライン作成に従事した医師ら複数名に番組監修をお願いする等の再発防止策を打ち出した。同記者は「紙に残る新聞と異なりテレビ番組は残らないため、これまでテレビ局はこうした訂正や謝罪には消極的だった」と語る。

 唯一の例外が「放送倫理・番組向上機構(BPO)」から指摘された場合だったが、「今や、ネットの声はBPOに匹敵する影響力を持っている。長期化させるくらいなら、早々に謝罪して幕引きを図ろうと、テレビ局の姿勢も変わってきている」と担当記者は解説する。

 医療情報を伝える媒体として、ネットの重みは年々、増している。新聞やテレビといった一方的に情報を流すメディアと異なり、ネットでは誰でもが情報を流せる。それ故にこれまではその情報の真偽に疑問符が付いていたわけだが、新型コロナやHPVワクチンをきっかけに、心ある医師がその内容を検証し、誤っている場合はそれを指摘するようになってきたのだ。

 サイトの〝信頼度〟を維持するために、情報を掲載する側も対策を取るようになっている。例えば動画投稿サイト「YouTube」は、誰でも気軽に動画を投稿出来るのが売りだが、昨年10月から、新型コロナワクチンに関する誤情報の動画は削除する措置を取っている。措置は新型コロナ以外のワクチンにも拡大され、現在、反ワクチン派が自身の主張をするための動画投稿は許されていない。

 情報は全部ネットから入手し、既存メディアに触れる事がない若年層も増えている。政府の新型コロナ対策分科会会長の尾身茂氏が、インスタグラムのアカウントを開設し情報発信を始めたのも、こうした層を意識しての事だ。医療情報を届けるには、今やネットが主戦場だ。

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