日常生活や仕事、学業にも及ぶ大きなダメージ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡り、後遺症に関するデータが徐々に蓄積されてきている。後遺症として確認されている症状は、200種類以上にのぼるという。主な症状は睡眠障害等の精神神経症状、筋力低下等の全身症状、呼吸苦等の呼吸器症状、胃腸害等の消化器症状、そして味覚障害や嗅覚障害、脱毛等だ。
中でも比較的若い世代でも増えているのが「ブレインフォグ」だ。脳に霧がかかったような認知機能障害の一種で、主な症状としては記憶障害、集中力不足、精神疲労、不安等の症状が挙げられる。コロナ感染により脳に炎症が起きてアルツハイマー病に起こるような変化が脳細胞に生じ、脳機能が低下、認知機能障害等が起きると見られている。
社会的・経済的な影響も大きい。昨年8月にCOVID-19の症状が出た30代女性は、何か作業をするとすぐに頭痛が生じ、店で考えながら買い物をしただけで疲れて寝込む事もあるという。今年5月に症状が出た40代女性は文章が書けなくなったり、文字は読めても内容が理解出来なくなったりして、会社を退職した。
フランスの大学病院が実施したコロナ入院患者への調査によると、患者の38%が入院から4カ月経過後も認知障害があるという結果が出た。一方、キングス・カレッジ・ロンドンが昨年12月〜今年7月までの約220万人のデータを分析したところ、ワクチンを2回接種した場合、後遺症リスクは49%減少したという。また、 LongCovidSOSによると、4月にワクチン接種を受けた約900人を対象に調査したところ、後遺症があっても57%が改善したという。後遺症のメカニズムはどの症状も解明途上にあるが、これらの調査によると、コロナ後遺症の転帰に関しては「ワクチン接種」が1つの重要なカギを握るようだ。
「コロナ後遺症外来」を設置している都内のクリニック院長は「COVID-19は男性の方が重症化しやすいと指摘されているが、後遺症については20〜40代の女性が多い。世界的に見ても、女性は男性の約1.5倍多くなっている。女性に自己免疫系疾患が多い事と関連しているのかもしれない」と話す。
東京・世田谷区がコロナ感染者を対象に7〜8月に実施した調査によると、回答があった3710人のうち48.1%が「後遺症がある」と回答。年代別では10代で30%、10歳未満でも14%等若い世代や子供でも後遺症が見られた。全体で最も多かったのは嗅覚障害(54%)で、次いで全身の倦怠感(50%)、味覚障害(45%)等が続き、「ブレインフォグ」と見られる集中力の低下(24%)や記憶障害(10%)を訴える人もいた。10歳未満の後遺症3位は「集中力の低下」だった。前出の院長は「後遺症に気づかない家族や教師が『だらけないで勉強しなさい』等と発破を掛ける事で、子どもが無理に心身に負担を掛けた後に後遺症が悪化するケースもある」と言う。
また、昨年1月〜今年2月に入院した525症例を対象にした厚生労働省アドバイザリーボードの研究の中間報告では、退院時までに疲労感・倦怠感、筋力低下、息苦しさ、睡眠障害、思考力・集中力の低下等の症状があった患者の3割以上で、6カ月後にも同じ症状が認められた。
世田谷区、厚労省の調査・研究のいずれにも、記憶障害や思考力・集中力が低下するブレインフォグの症状が認められる。症状の類似性から筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)との関連も指摘されているように、COVID-19の後遺症は様々な要因の症状が同時多発的に起きている。しかも影響が多岐にわたる懸念があり、原因解明に向けたサーベイランスや、後遺症治療のための地域医療体制も必須である。一命は取り留めても、その後の社会生活を困難なものに変える懸念をはらむコロナ後遺症。長期的経過を注意深く見ていく必要がありそうだ。
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