厚生労働省の事務次官人事が10月1日に発令され、幹部の陣容が固まった。事務次官は大方の予想通り、吉田学・内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長(1984年、旧厚生省)が「昇格」した。前編となる今回は、キャリア官僚の人事を取り上げ、医系技官中心の後編と2回に分けて、幹部人事の狙いを読み解きたい。
昨秋に着任した樽見英樹・事務次官が1年限りで退任したのは、83年入省同期の鈴木俊彦・前事務次官が2年務めた事もあり、「83年入省組で合計4年務めるのは長い」(中堅職員)という判断があった。ただ、政府によるコロナ対策はしばらく続くとみられ、コロナ室長の他、医政局長も歴任した吉田氏は適任だ。
注目される人事としては、医政局長に伊原和人・政策統括官(87年、旧厚生省)を抜てきした事だ。社会保障制度全般に詳しい伊原氏だが、医政局での勤務経験は乏しい。省内では総務課長経験がある土生栄二・老健局長(86年、旧厚生省)を推す声もあったが、「今冬の医療提供体制を新たに構築するには土生ではなく伊原の手腕が必要だ」(幹部)との判断で起用が決まった。
省内の要となる官房長には、渡辺由美子・子ども家庭局長(88年、旧厚生省)が順当に選ばれた。渡辺氏は会計課長の経験もあり、官房3課長(総務、人事、会計)の経験者という官房長就任の要件をクリアしているが、族議員や業界団体への説明能力や調整能力が評価されたとみられる。官房長として23年度にも創設が見込まれる「こども庁」の議論に引き続き関わっていきそうだ。
今後の社会保障制度改革を担う政策統括官には、大島一博・官房長(87年、旧厚生省)が登用された。大島氏は老健局介護保険計画課長や保険局総務課長の他、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長なども歴任する等、「社会保障制度全般に詳しく適任」(幹部)と評価されており、順当な人事となった。
また、社会・援護局長に内閣人事局に出向していた山本麻里・内閣官房内閣審議官(87年、旧厚生省)が抜てきされる等、女性登用を意識した人事も行われた。子ども家庭局長には手堅い仕事ぶりが評価されている橋本泰宏・大臣官房審議官(社会、援護、人道調査、福祉連携担当)事務取扱(87年、旧厚生省)が就いた。
一方、留任する幹部も目立った。濱谷浩樹・保険局長(85年、旧厚生省)は一時、コロナ室長として吉田氏の後任と目されていた。年末に診療報酬改定が控えている事に加え、「コロナ対応をしてきた経験がなく、濱谷氏では難しい面があった」(幹部)という事情も影響したとみられる。医政局長就任の芽がなくなった土生氏や、次期年金制度改革への下準備が期待される高橋俊之・年金局長(87年、旧厚生省)も留任した。
労働系では、土屋喜久・厚生労働審議官(85年、旧労働省)が退任し、同期の坂口卓・雇用環境・均等局長を起用する等、順当な人事が目立った。コロナ禍もあり、事務次官を取り戻すまでには至らず、「当面は無理だろう」(労働系の幹部)という声も漏れる。
LEAVE A REPLY