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第57回 「CASE‐J」事件で京大も大甘の調査報告書

第57回 「CASE‐J」事件で京大も大甘の調査報告書
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
「CASE‐J」事件で京大も大甘の調査報告書

 ただでは済むまい。そんな予感はあった。それにしても、である。武田薬品工業会長・長谷川閑史は今年3月いっぱいで最高経営責任者(CEO)の任から外れる。同時にこれまで務めてきた経済同友会代表幹事も交代。長谷川に残されるのは代表権付きの同社会長職のみのはずだった。

 ところが、3月17日、長谷川に新たな「ポスト」が当てがわれることが発表された。東京電力社外取締役。6月に開催予定の定時株主総会後に就任するという。

政権への忠誠ぶりが際立つ長谷川
 東日本大震災と東電福島第一原子力発電所危機から4年あまり。あまりにも露骨な人事といっていいだろう。

 長谷川は3・11直後から原発再稼働を容認する姿勢を鮮明にしてきた。代表的な発言を引く。

 「幸い今夏は乗り切ったが、冬の方が電力需要の多い地域もある。政権も、原発について、縮小はするが、新しい安全基準をクリアしたものについては再稼動を行う姿勢であるし、私も当面必要であると思っている。電力料金がさらに上がることも考えられ、報道によると、40年以上もたつ火力発電所を、相当な無理をして稼働を続けており、何かトラブルが生じれば停電に直結しかねないが、技術者の懸命な努力で乗り切っているようである。それらを考えると、(新安全基準をクリアした原発の再稼働は)当面避けて通れないと思う」(経済同友会ウェブサイトより)

 2013年、関西電力・大飯原子力発電所4号機が稼働を停止したことで、国内における原発の稼動数はゼロの状況に戻った。この談話は経済同友会が同年9月に行った記者会見でそのことへの所感を求められた際に飛び出したものだ。

 一読して分かるように、この発言に日本を代表する製薬企業と経済団体のトップとしての矜持はみじんも感じられない。原発再稼動に向けてまい進する安倍晋三政権のお先棒を担ぎたい──そんな意図があからさまに透けて見えるだけだ。

 何しろ長谷川は3・11から間もない時期に同社「湘南研究所」(神奈川県藤沢・鎌倉両市)への移転を強行した「実績」がある。被災地・福島県を中心に東日本が懸命に節電の努力を続けている中にもかかわらず、だ。長谷川の頭には被災者の苦境への共感は毛頭なかった。電力不足によって既定の移転計画に支障を来してはならない。そんなな経営至上主義があっただけだ。

 〈武田は湘南への移転を急いでいます。東日本では今必死で節電の努力をされているのに、移転はさらに前倒しを計画しています。恐らく前提を作らないと、今後電力が逼迫して移転できなくなることを恐れているのだと思います〉

 当時、本誌に寄せられた武田社員からの内部告発の一節である。こうしてみると、今回の人事はかなり以前から決まっていたのではないか、と勘繰りたくもなる。現に長谷川が東電社外取締役に浮上との報道は昨年末に出回っている。

 長谷川の前任者・三菱ケミカルホールディングス社長の小林喜光は3月末で退任。4月からは経済同友会の代表幹事に就任することが決まっている。いわばたすき掛けの人事。長谷川は東電会長の数土文夫や同社社外取締役のLIXILグループ社長・藤森義明とも経済同友会での活動を通じてであることが広く知られている。

 人材が払底しているのか、公私の区別もつかないほど感覚がまひしているのか。あるいは、その両方か。国のエネルギー政策の行方にも関わる役職の決め方としてはあまりにもお粗末だ。

 長谷川は16年に実現する電力小売り全面自由化に向けた戦略策定や執行の監督に当たるという。東電は長谷川の就任以前から全面自由化に向けた足掛かりを築こうと動きだしている。すでに自由化されている大口向けの電力小売り事業を所轄地域以外にも広げ、子会社が関西や中部に営業拠点を構える計画も立てている。

 長谷川はこうした施策の延長線上で東電の既得権益を護持するため、政権への忠臣ぶりをこれでもかとアピールするつもりなのだろうか。国策企業・東電はまさに適任の社外取締役を得たのかもしれない。

 武田の降圧剤・プロブレスを使った医師主導臨床研究広告をめぐる「CASE‐J」事件についてはすでに詳報した。この臨床研究はプロブレスの効果を他者製品と比較するもの。01〜05年に実施し、約4700人の患者が参加した。試験結果では薬の効果に差は出ていない。にもかかわらず、武田は宣伝用パンフレットにプロブレスの優位性を印象付ける試験データを盛り込んだ。08年に医学誌で発表した論文のグラフとは異なる。

ノバルティスとは好対照の武田・京大
 臨床研究に参加した京都大学は2月27日、調査結果を公表した。武田の調査委員会から半年も遅れての発表である。あろうことか、「不正はなく、問題は認められない」とする内容。一方で、武田が自社製品を誇大に表現しようとすることは想定できたとも指摘している。責任者だった研究者2人が「口頭厳重注意」の処分を受けた。これで幕引きと考える方がどうかしている。

 プロブレスは国内市場に限っても1000億円以上を売り上げてきた。武田はCASE‐Jに約37億5000万円の奨学寄付金を計上。京大には約28億円が流れている。

 医師主導臨床研究にもかかわらず、武田は資金や人員を提供することで実質的に差配していた。研究の公正性はどうなるのだろうか。利益相反を疑って当然の局面といっていい。

 今回の調査報告書では〈今日の基準では、利益相反の懸念を第三者から表明されかねない事態〉と認めている。だが、責任の所在はうやむやにされた。武田に続いて京大までも大甘の調査でお茶を濁そうとしているのは明らかだ。

 薬害オンブズパーソン会議が動いても不思議はあるまい。武田・京大の両者に調査に関する当事者能力がないことは明白となった。

 武田・京大の対応はノバルティスファーマと対照的である。同社は14年3月、医師主導臨床研究における「不適切な行為」を受けて、ノバルティスファーマ社長、同常務取締役オンコロジー事業部長、ノバルティスファーマホールディングス社長の3トップを交代させた。その上で、第三者による包括的調査の実施と医師主導臨床研究の一時的停止を行うと言明している。

 武田・京大には格好の前例だったが、残念ながら他山の石とはならなかったようだ。

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