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未来の会

第56回 亡国の経営者・長谷川閑史が進める政策の「成果」

第56回 亡国の経営者・長谷川閑史が進める政策の「成果」
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
亡国の経営者・長谷川閑史が進める政策の「成果」

 「2015年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比39%減の650億円になる見通し」──武田薬品工業が2月5日に発表した内容だ。従来予想を200億円下方修正。海外で血液がん治療薬「ベルケイド」などが伸びているといわれる中、なぜ純利益を減らす結果となったのか。

 研究開発費の税務上の処理方法を見直し、税負担が増したからだという。年間配当は180円に据え置く。

 そもそも武田の収益構造は完全に海外依存型。売上の半分以上は海外市場からもたらされている。現に米国市場では昨年発売した潰瘍性大腸炎などの治療薬「エンティビオ」などの新薬が存在感を示している。

 だが、それだけで「売上高2%増の1兆7250億円で据え置き」「営業利益は22%増の1700億円の見込みで、従来予想を200億円上回る」といった発表ができるものだろうか。

売国円安政策で特許切れの減収を糊塗
 武田にとって追い風になっているのはずばり「アベノミクス」効果である。それも「日本医療研究開発機構」(AMED)が牽引するとみられる医薬品研究開発による「成長戦略」のためではない。為替が円安だったおかげである。

 経済同友会代表幹事として今なお政治ごっこに余念がない会長兼最高経営責任者(CEO)・長谷川閑史はどう言い逃れるつもりか。研究開発と財務という製薬企業の根幹を外国人に明け渡したばかりか、主力製品の特許切れという失策を通貨安誘導の政策で糊塗する。これでは「亡国の製薬首位」と呼ばれても仕方ないだろう。

 果たして円安で輸出量は増えたのだろうか。ご存じの通り、ジリ貧のままだ。武田をはじめ、国内企業で働く労働者には還元などほとんどない。

 武田のように海外進出した売国大企業の利益を帳簿上で円換算したときに増益を示すだけのことだ。なけなしの利益は海外投資家や長谷川ら国内の一部資本家に持っていかれる。

 日本全体で見れば、通貨安による輸入インフレは疑いようもない。国民の実質可処分所得は減少。消費が冷え込み、景気は悪化している。

 一国の通貨価値は労働の対価のストックだ。長年にわたって働く者が積み上げてきた貴重な資産である。それを通貨安誘導であっという間に減価する。こんな無謀が許されていいのか。

 長谷川の政治ごっこはこの円安誘導政策にどのような影響を与えているのだろう。

 「円安が持続すれば、製造業の国内回帰も期待できる」──そんな読みを披露する専門家もいる。海外依存を高める武田にとって、ずいぶんと皮肉な話ではないか。

 痛風治療薬「コルクリス」には競合製品が発売。将来の売り上げ予想を引き下げた。結果として、あらかじめ負債計上していた費用の一部を取り崩し、利益計上している。足腰にはまだまだ不安が残っていることは明らかだ。

 武田の財務部門を牛耳る最高財務責任者(CFO)、フランソワ・ロジェは経済紙の取材に応え、こんな見通しを示している。

 「純利益は16年3月期に反転する可能性が高い」

 糖尿病治療薬「アクトス」をめぐる米国での製造物責任訴訟について武田は法廷で争う姿勢を崩していない。だが、ロジェは和解の方向性も示唆し始めている。

 同日発表の14年4〜12月期の連結純利益は前年同期比40%減の797億円だった。金融資産の売却益減少も響いたとみられる。

残業代ゼロ制度導入に道を開く
 〈昨日の日経「脱時間給、商社や金融が意欲」残業代ゼロ制度は野村證券、大和証券、三井住友銀行、みずほFG、住友商事、伊藤忠商事、武田薬品が導入を検討。残業代、休日手当がゼロになれば簡単に賃下げ可能。でも残業代不払いの合法化はおかしい〉──民主党の山井和則衆議院議員のツイートである。

 安倍晋三政権が導入を進める「ホワイトカラーエグゼンプション(WCE)」に反対の旗印を鮮明にしたといっていい。WCEとは一定の裁量で労働時間を自らコントロールし得るホワイトカラーを対象に、時間外の賃金割増など法律の条文の適用除外(エグゼンプション)にするというものだ。

 山井氏も指摘している通り、武田はこの制度の導入を検討している。当然だろう。長谷川が強力に推薦してきた制度でもあるからだ。

 そもそもこの制度を最初に提唱したのは第一次安倍内閣である。小泉純一郎内閣の労働規制緩和路線の延長で「労働ビッグバン」を提唱した。

 WCE導入の法案要綱はその一環として浮上している。当時は「残業代ゼロ法案」との批判に加え、長時間労働を助長する「過労死促進法案」との声まで上がった。第一次安倍内閣は導入断念に追い込まれている。

 政権を再び手にした安倍は再びこの制度の導入に意欲を見せ始める。政府の規制改革会議は2013年12月、労働時間と賃金とを切り離して考える「新しい働き方」の制度づくりを提言。

 働いた時間では成果を測れない職種に対応しやすい仕組みづくりだと説明するが、WCEと同じ制度としか思えない代物だ。

 同年同月、長谷川はこんな「アイデア」を公表している。「日本型新裁量労働制」として、労働時間と賃金を切り離し、深夜や休日に働いても割増賃金を払わなくてもいい労働時間規制の適用除外を提唱。国家戦略特区法や産業競争力強化法の枠組みを使って「先進的優良企業」で試験的に導入する──。長谷川は当時、政府の産業競争力会議の雇用・人材分科会で主査を務めていた。

 長谷川ら経営側がこの制度導入を求めるのはなぜなのだろうか。狙いは「労働生産性の引き上げ」に他ならない。

 「ホワイトカラーは働き方に裁量性が高く、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しない」

 こんな認識は経済団体の一部幹部の間にいまだ根強くある。労働時間に対して賃金を支払うのではなく、成果に対して払う仕組みが必要というわけだ。

 だが、本音は別のところにある。成果制とはつまり、企業の業績に応じて賃金を払う制度。経営側にしてみれば、「使い勝手」の良さをさらに強化する打ち出の小槌そのものだ。

 武田のホワイトカラー社員は会長の「活躍」ぶりをどんな思いで眺めているのだろうか。

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