場当たり的な中等症自宅療養、AZワクチン接種推進
東京都では新型コロナウイルスの1日の新規感染者が5000人を突破、自宅療養者も2万人を超え、入院者・重症者も増加、通常医療にも影響が出て、逼迫化している医療体制。政府は8月2日、中等症以上の患者の「原則入院」を見直し、重症患者以外は自宅療養を基本とする方針に転換した。
これに対し、医療現場からは「重症者リスクを誰がどう管理するのか」「患者を切り捨てる政策だ」等の批判の声が上がった。与野党からも撤回要求が出たり、全国知事会からは「中等症で入院対象から外れる場合の客観的な基準を示してほしい」との要望があったりした。
その後、菅義偉首相は、中等症患者のうち酸素投与が必要な人や重症化リスクのある人は入院対象とし、医師の判断で行っていくとの考えを示した。しかし、入院するにしても病床数が不足しているという堂々巡りは続く。
また、中等症患者の自宅療養で必要になる事が少なくない酸素吸入器や、自治体が無償で提供している食料品が不足している。自宅療養者は酸素吸入が必要になるような症状の悪化を早めに把握する事が重要だが、保健所等から届く血中の酸素飽和度を測る「パルスオキシメーター」も不足している。保健所や地域の医療機関が増え続ける自宅療養者をフォロー出来るのか。ある医師は「自宅療養を増やすにしても、自宅療養が出来る態勢が整っていない。以前から準備出来たはずなのに、それを怠ってきたツケが今回ってきている」と指摘する。
新型コロナ感染者は、発症からの日数と経過を概括すると、1週間は軽症(約80%)、1週後から10日位は中等症(約15%)、10日以降は重症(約5%)となる。中等症はⅠとⅡに分かれ、自宅療養だと、中等症Ⅰ(息切れ、肺炎所見)の場合、入院していれば投与出来る抗ウイルス薬「レムデシビル」が使用出来なくなり、中等症Ⅱ(呼吸不全)の場合、重症化を防ぐ抗炎症薬の使用が遅れると、救える命も救えなくなる。中等症感染者を見捨てないためには、入院の必要性がある人を早く見つけて入院させる体制を築く必要があるが、今後、感染者が爆発的に増えて自宅療養中に重症化する人が増加した場合、発見が遅れたり入院先が見つからなかったりするケースも増えてくるだろう。実際このような状況は第3波では東京で、第4波では大阪で既に起きており、自宅で亡くなっている人もいる。
特に今回の第5波では、若年者等にいつ重症化するか分からない中等症Ⅱの患者が増えている点が問題になっている。背景にあるのは、感染力の強いインド型変異ウイルス「デルタ株」の感染拡大である。ある医療人は「感染を抑える対策が効果を上げていない中では、根本的に解決しない問題だ。そのような状況下での今回の政府の方針転換には、果たしてエビデンスがあるのだろうか」と疑問を呈する。
十分な説明のない新型コロナ政策の転換は、アストラゼネカ(AZ)製ワクチン接種を原則40歳以上に進める方針にも言える。AZ製ワクチンは接種後、まれに血栓症が生じる懸念が報告され、国民の間にはマイナスイメージが強い。自治体からは「住民の接種に使わない」との声も上がった。AZ製ワクチンの接種を進めるならば、マイナスイメージを払拭するプラスの情報が必要だ。安全性のエビデンスや副反応対策を示したり、AZ製ワクチンと他社製ワクチンとの交差接種をすると高い水準の抗体が出来るという研究を検証してみたりする事も必要だろう。
休業要請や緊急事態宣言等でも論理的根拠を示せないまま、医療人や国民に要請するばかりの管政権。エビデンスを示し、納得のいく説明と強いメッセージを発する事が必要なはずだ。コロナ対策の失政を医療人や国民に責任転嫁するようでは、行動を促すのは難しい。
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