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未来の会

不祥事が招いた日医「次期会長選」水面下の攻防

不祥事が招いた日医「次期会長選」水面下の攻防
何事もなかったかのような日医代議員会で逆に露わに

日本医師会(日医)を二分する戦いとなった会長選からちょうど1年となる6月27日、東京・本駒込の日本医師会館はエントランスの車寄せも締め切られ、ひっそりとしていた。午前11時からの定例代議員会は、新型コロナウイルス感染拡大に配慮し、執行部だけが3階の小講堂に集まり、全国47都道府県医師会の代議員とインターネットで繋ぐ異例のテレビ会議形式となった。

 冒頭に池田秀夫議長(元佐賀県医師会長)が「重要案件について慎重にご審議くださり、かつ議事能率の向上に格段のご理解とご協力を」と念押しして代議員会はスタート。続いてあいさつに立った中川俊男会長は、準備した文書にしきりに目を落としながら「本来であれば先生方と大講堂で日本の医療のあるべき姿について熱い議論を交わしたいところですが、本当に残念でなりません」とした上で、事前に各ブロックから寄せられた代表質問への答弁と再質問は、テレビ会議で都道府県医師会館に長時間、多数の関係者が集まる感染リスクを考慮し、その場では行わない事を淡々と説明した。

 代表質問への回答は書面回答とし、追加質問についても「いつでも執行部にお問い合わせいただければ」と低姿勢で強調し、この1年間の実績アピール等へと話題を移していったのだった。

〝不祥事〟続発に日医は危機感

 中川氏のあいさつの後、事業報告や議案の採決が行われ、代議員会は約1時間で終了。ただ、舞台裏では代議員会でハプニングが起きないよう、中川氏が奔走した姿がうかがわれる。代議員会が近付くにつれ、日医内には「中川会長の不信任動議が出される」「一連の不祥事対応への説明が不十分な場合は臨時代議員会の開催要求が出る」といった不穏な噂が出回ったからだ。

 当初は中川氏のあいさつ等への質問を当日受け付ける予定だったが、中川氏は急遽方針を転換。代議員会の前日に議事運営委員会を開き、当日の質問は受け付けない事を決めた。

 前日の26日夕、日医総務課から全国の都道府県医師会に送られた通知文には「仮に多数の質問が挙げられた場合、時間的な制限により、十分な質疑が尽くされない可能性があるのはもちろんのこと、感染リスクの低減という目的が達することができないことが危惧される」との理由が明記されていたが、実は質問封じが目的なのは明らかだった。

 中川氏が代議員会で批判が噴出する事を恐れたのは、ここ数カ月で日医を巡る不祥事が相次いだためだ。日医の政治団体、日本医師連盟(日医連、委員長・中川日医会長)の組織内議員である自見英子・自民党参院議員の政治資金パーティーを今年4月、東京都に「まん延防止等重点措置」が適用されている中、後援会長の中川氏が発起人となり開催。日医の常勤役員全員の他、東京都医師会の尾﨑治夫会長ら日医関係者100人以上が参加した事を『週刊文春』にスクープされた。

 追い打ちをかけるように『週刊新潮』も、中川氏が昨年8月、懇意にしている日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の主席研究員の女性と、高級すし店でシャンパングラスを傾けながら会食している姿を写真入りで報じた。

 毎週水曜日の定例記者会見で、中川氏が国民に対して厳しい自制を求めていただけに、これらの週刊誌報道は日医への厳しい非難となってはね返ってきた。

 日医には抗議電話が殺到し、民放のワイドショーで中川氏の発言が取り上げられる事も激減。風当たりの強さは地方医師会にも波及している。茨城県ひたちなか市で今年8月に開催予定だった野外イベント「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル2021」を巡り、中止になった理由に茨城県医師会の中止・延期要請が挙げられたため、県医師会に批判が相次ぎ、脅迫容疑で逮捕者が出る事態にまで発展した。

 世論の厳しさは、日医連の政治活動にも影響を与える。今年は秋までに衆院選が予定されている他、来年夏には自民党の比例代表に組織内候補の自見氏を擁立する参院選も控える。国政選挙は政治献金や集票力によって、診療報酬改定をはじめとする医療政策に圧力をかける絶好のチャンスだが、一連の不祥事は積極的に政治への働き掛けを行う機会を自ら失わせる事になりかねない。

 日医連は、自民党の政治資金団体「国民政治協会」へ2019年に2億円を寄付し、数ある業界団体の中でもトップクラスの献金額を誇る。個別の国会議員に対しても、日医への〝貢献度〟に応じてパーティー券の購入額等に強弱を付けながら支援を行っており、政治献金は政界工作の有力なツールとなっている。

 一方、集票力については、年を追うごとに影響力が低下している。ここ数回の参院選比例代表で組織内候補の得票数を見てみると、13年の羽生田俊氏は24万9818票と自民党で6位だったが、16年の自見氏は21万562票で9位、19年の羽生田氏に至っては15万2807票と激減し、全体の順位も16位(特定枠を含む)まで落ち込んだ。19年は社会保障業界をバックグラウンドとする候補者が比例代表に乱立したため、少なくとも医療系議員の中ではトップを目指していたが、羽生田氏個人への評価がイマイチだった事もあり、日本看護連盟、日本薬剤師連盟の組織内候補の後塵を拝する始末だった。

 来年夏の参院選は、今回のスキャンダルの口火を切った政治資金パーティーの主役である自見氏が出馬するため、早くも苦戦が予想されている。常々「政界人脈が弱い」と言われる中川氏にとって、集票力を政治に誇示出来ない事態は、今年末の診療報酬改定率を巡る交渉等でボディーブローのように効いてくる事になりそうだ。

逆風下でも〝強気不変〟の中川会長

 ただ中川氏は、こんな逆風下でも強気な姿勢を崩そうとはしていない。「少しでも弱みを見せたら、反中川派に一気に攻め込まれる」(地方医師会幹部)というのだ。

 代議員会でも、会議後に書面で追加質問を募ったところ、会長あいさつを巡り、昨年の会長選で横倉義武・名誉会長を推した秋田、大阪、福岡の3府県医師会が質問を提出。「マスコミの日医に対する報道は日々強くなり目を覆うばかり」(秋田)、「日医は国民からの信頼を一気に失墜した」(大阪)、「中川会長の発言は『言行齟齬』『日医は医師を代表する団体ではない』という最悪なイメージを国民に植え付けてしまった」(福岡)といった辛辣な言葉が寄せられた。

 これに対し中川氏は、書面回答で全く反省の言葉は示さず、一連の週刊誌報道を「事実と異なる」と一蹴。逆に「多くの国民や会員の先生方から激励の声をいただいている」と反論し、「事実と異なる報道に対しては、毅然とした姿勢でいることが、結果的に国民の信頼につながる」と強弁する始末だ。

 昨年の会長選で激戦を繰り広げた横倉氏は、日医の将来を憂いて「親心」(周辺)から月刊誌等のメディアを通じて、中川氏に「自身の団体の要望・要求を声高に叫ぶだけでは国民の理解は得られない」(『文藝春秋』21年8月号)等と謙虚になるよう呼び掛けているが、中川氏の心を動かすまでには至っていない。

 代議員会では全会一致で賛成が通例の決算報告に、一部地方医師会が反対に回った。日医会館に入館ゲートを設置する等、守りを固める姿勢をアピールする中川氏だが、次期会長選は早くも動き始めている。

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