75歳以上のうち、一定の収入がある高齢者の医療費の窓口負担割合(原則1割)を2割に引き上げる高齢者医療確保法改正案が、6月4日に成立した。
ただ、主眼だった現役世代の負担軽減の効果はごく限定的だ。
法案が衆院を通過した5月11日、閣議後の記者会見に臨んだ田村憲久・厚生労働相は「非常に申し訳ないが」と前置きした上で、「国民皆保険制度を守るには、負担能力がある方々に一定程度のお願いをしていかなければならない」と踏み込んだ。
75歳以上の人の負担割合は1割が基本だが、年収が383万円以上の人(単身世帯の場合)等、全体の7%の人は既に現役と同じ3割負担だ。法案は新たに「2割」の区分を設ける内容で、対象者を「年収200万円以上」(単身の場合。夫婦とも75歳以上の世帯は年収計320万円以上)としている。該当するのは全体の2割に相当する約370万人で、2022年秋頃に施行される。
ただし、3年間は月の外来医療費が3万円を超える時は、自己負担の増加幅を最大で3000円に抑える。
戦後ベビーブームの団塊の世代が22年から75歳になり始め、医療費の増大が懸念されている。法案はこれにギリギリ間に合った格好だ。75歳以上の後期高齢者医療制度は医療費の5割を公費、4割を現役の支援金でまかなっており、21年度の支援金総額は6・8兆円となる見通し。このままでは25年度に8・1兆円に膨らむという。
こうした事態を受けて、政府は全世代型社会保障検討会議の昨年末の報告書に、現役世代の負担軽減策の柱として、75歳以上の窓口負担増を明記した。
ただ、370万人が2割負担となる事による現役の負担軽減効果は、25年度時点で約830億円にとどまる。事業主負担分を除くと、1人当たり月に30円程度にすぎない。
負担増となる該当者の決定を巡っては、「原則2割」を主張する財務省から、「2割は例外」を唱える公明党まで幅広く、決着は長引いた。最終的に菅義偉首相が自ら調整に乗り出して年収基準が固まった経緯がある。
法案の審議入りに関しては、与党内に「4月末の3つの国政選後に」という声もあったが、首相の強い指示で4月8日となった。
新型コロナウイルスへの対応で政権への批判が強まっている状況に、厚労省幹部は「もし遅れていたら、まともに審議出来ないまま(10月に衆院議員の任期が切れるため)廃案になっていたかも」と胸をなで下ろす。
当初、同省が落としどころと考えていたのは、対象者を「年収240万円以上」(単身世帯)とする案が軸だっただけに、同省にとっては首尾上々とも言える。
ただし、企業や現役の負担軽減効果が小さい事に、経済界や自民党の一部には強い不満も残る。田村厚労相は「今後も大きな見直しが必要」と、更なる格差是正の必要性を認めている。
とはいえ、負担増が続くと、高齢者の受診抑制に繋がりかねない。今回は国民民主党等の一部野党も賛成に回ったが、「大きな見直し」のめどは全く立っていない。
厚労省内には「これからも尺取り虫のようにじわじわ進むしかない」(幹部)という声が出ている。
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