平年より2週間ほど早い桜の季節はアッと言う間に過ぎ去り、初夏の日差しが感じられる季節になった。身内のスキャンダルに足をすくわれた菅義偉政権はかろうじて失墜を免れ、窮地を乗り切った。
新型コロナの感染者数にリンクするように内閣支持率は上下動するものの、低空安定飛行の状態は維持出来ており、現行憲法下で2度目、1976年以来となる任期満了の衆院選実施が囁かれ始めた。
「NHKのレポートは面白かったな。支持率も解散時期もコロナ次第というのは皆の認識だけど、データを例示して解説されると妙に納得がいく。数字の説得力というやつかな」
自民党の幹部は、時折飛び出す衆院解散説に心穏やかじゃない若手議員らを、なだめるように言った。
「いつ解散してもいいように、準備だけはしておけ。ただし、任期満了の衆院選というのもあるんだよ。1976年の三木武夫首相以来の事だから、まずは、ニュース性がある。国民への説明だってしやすいじゃないか。『コロナの完全克服には至っておりませんが、任期満了ですので、衆院選をやらせていただきたい』と頭を下げればいいんだから。オレの考えじゃなく、NHKの受け売りだけどな」
内閣支持率は感染者数と連動
自民党幹部が引用したレポートは「菅政権の支持率はコロナの感染状況と連動する」との言説を自前の調査をベースに読み解き、解散時期を探るという趣向だ。
まずは、昨年9月の菅政権誕生から毎月実施してきた7回の世論調査とコロナの感染者数をグラフ化し、その連動ぶりをグラフで示した。支持率は当初の62%から感染者数の増加に反比例するように減少をたどり、2度目の緊急事態宣言のさなかに38%と最低を記録する。
緊急事態宣言に伴う自粛生活で、感染者数が減少し始めると、少し時間差を置いて支持率は2ポイント改善し、今年3月の調査では40%に戻った。感染者数の増減とのタイムラグはあるものの、感染者数と反比例する形で支持率が動いているのが分かる。
この中で、NHKが着目したのが特定の支持政党を持たない「支持なし層(無党派層)」の動向だ。支持なし層の菅政権への支持率は、2月調査では野党支持層と並ぶ低水準の22%だったが、感染者数が落ち着いた3月調査では28%に反転し、自民党支持層や野党支持層とは異なる顕著な反転がみられるとしている。
右派的言動から男性、若年層の手堅い支持を受け、マッチョ色の強かった安倍晋三政権に比べ、菅政権は固定ファンが少なく平板だとされる。NHKの調査でも、安倍政権の支持率の男女差は平均8ポイントだったのに、菅政権では5ポイントにとどまっている。
これは自民党支持層でも同様で、安倍政権は自民党支持層の平均支持率が83%だったのに対し、菅政権では10ポイント少ない73%で推移している。
一方、支持なし層の平均支持率は安倍政権の27%に対し、菅政権は33%と上回っている。
詰まるところ、菅政権の支持率のカギを握るのは支持なし層の動きであり、支持なし層の最大の関心事であるコロナの動向次第で、政権の行方が大きく左右されるのだろうとレポートは推察している。
必然的に、菅政権にとって、コロナ対策の成否は生命線となる。
とりわけ、大きいのはワクチン接種を順調に進められるかどうかだ。自民党幹部が語る。「感染第4波も心配だが、これは1〜3波での経験を生かして対処出来る話だろう。一方、ワクチンは供給、安全性、有効性等様々な課題がある。全てはこれから。政局はコロナ次第と言うより、ワクチン次第だな」。
政局を巡る与野党間の闘争もコロナ対策と感染状況、国民の反応を注視しながらの展開になっている。
衆院選敗北でも菅首相は安泰?
先に切り出したのは立憲民主党の枝野幸男代表だった。首都圏より早く、緊急事態宣言解除に踏み出した大阪、兵庫で感染者数が増加に転じた機会を見定め、政府対応や自治体対応を批判し、「このままだと、何度も同じ事を繰り返す。政権を代える以外に危機を乗り越える事は出来ない」と指摘した。
また、安住淳・国会対策委員長もこれに続き、政権に衆院解散を迫る内閣不信任案の提出に言及した。
自民党も黙っていない。二階俊博・幹事長がただちに応戦し、「内閣不信任案提出なら、ただちに解散で立ち向かうべきだと菅首相に進言する」と切り返した。
二階発言は老獪な政治家が党内外の情勢を見定めるためにあえて使う「観測気球」だとの見方が一般的だ。野党の支持率が伸び悩み、選挙態勢も整っていないのを見越し、探りを入れたのだ。
真っ先に反応したのは野党ではなく、与党の公明党だった。山口那津男代表は「内閣不信任案が出て、どう判断するかも含めて、首相が判断すべき事だ」と二階幹事長の〝解散進言〟を牽制した。都議選を最重要視する公明党は衆院選との同日選を極度に警戒している。支持勢力の動きが分散され、都議選にも衆院選にも悪影響を及ぼしかねないと恐れているのだ。
一方、野党側では、共産党の小池晃・書記局長が記者会見で「解散だ、解散だと何の権限もない人が振り回すのは、不見識のそしりを免れないのではないか」と二階幹事長を批判した。
また、野党による内閣不信任決議案の提出に関し、「感染がこれだけ広がっている今の時期に提出をする、解散をする事は、適切ではない」と否定的な考えを示した。
こうして、野党は足並みの揃っていない姿をいとも簡単にさらけ出した。
不協和音は自民党内にも存在する。党内には「感染を抑え込み、ある程度、経済が回復してからでないと選挙にならない」「ワクチン接種の会場と投票所がかぶる」等を理由に早期解散に消極的な意見が根強いのだ。
二階幹事長の観測気球は与野党の現状を見事にあぶり出したようだ。
衆院議員の任期満了は10月21日まで。残り5カ月余となる中、菅首相の解散権行使のチャンスはどんどん狭められているが、自民党長老は存外な事を口にした。
「衆院選は負けたっていいんだよ。30〜40議席を失ったって、与党で安定多数は握れるんだから。それより、国民に強引だとか不自然だとか思われない事が大事なんだ。任期満了でいいじゃないか。皆が納得出来る話なんだから。安定多数なら、菅首相は続投だろ。だって、他に首相候補がいないじゃないか」
野党軽視が鼻につくものの、菅首相の本音も実はこの辺かもしれない。現行憲法施行以来2回目の任期満了選挙が現実感を帯びつつある。
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