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未来の会

ロッキードと500回面会した防衛省の「共犯」意識

ロッキードと500回面会した防衛省の「共犯」意識
モラルを捨てた「安倍‐菅」官邸と官僚組織の底なし沼

「特定の企業を優遇することはない」——。これは、民間に事業を発注する政府機関として至極当然の答弁だろう。しかし、わずか半年の間に特定の「業界関係者等」と500回以上も面会しておいて、これを「優遇ではない」と強弁するのは無理筋というものだ。

 日本政府が2018年にいったん導入機種を決めた陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」。その後、陸上配備の断念に追い込まれたわけだが、名目を海上配備に切り替えて計画は継続中である。その機種選定作業が行われた同年2月から7月までの半年間に防衛省・自衛隊の担当者らが計529回にわたって「業界関係者等」と面会していたことが明らかになった。

 内訳は、陸上イージスを受け持つ陸上自衛隊が半数近い259回▽防衛政策の企画・立案で首相と防衛相を補佐する内部部局151回▽航空自衛隊38回▽防衛装備庁33回▽統合幕僚監部23回等となっている。

歪められた陸上イージス

 元々陸上イージス導入の決定経緯は異例尽くしだった。17年1月に就任したトランプ米大統領から米国製武器の購入圧力を受け、導入方針の閣議決定に至ったのが同年12月。機種選定に着手したとされる18年2月の時点では、既に米海軍が次世代イージス艦への導入を決めていたレイセオン社製の高性能レーダー「SPY6」が有力との見方もあった。蓋を開けてみたら、試作品すら出来ていなかったロッキード・マーチン(LM)社製の「SPY7」が選定され、物議を醸した。

  その選定過程にあった半年間、防衛省に足繁く通っていた「業界関係者等」とは誰か。防衛省側は面会相手を明かしていないが、LM社の関係者である事は明白だ。レーダー2機種の提案者はSPY6が米国防総省のミサイル防衛庁、SPY7がミサイル防衛庁とLM社。つまり「業界関係者」はLM社に限られる。そして「業界関係者等」の「等」がミサイル防衛庁を指すとみられる。

 529回に及んだ「接触」記録の報告書を共産党が入手して公表したのは今年2月。衆院予算委員会で穀田恵二氏が追及したのに対し、岸信夫防衛相はミサイル防衛庁のグリーブス長官が来日して防衛省幹部と面会していた事を認めた。接触の日付は18年7月23日。防衛省がSPY7を選定する1週間前だ。

 試作品で確かめる事もせずに決めた不自然な「カタログ買い」である。当時、その理由を防衛省幹部に質したら「ミサイル防衛庁の提案書を見れば、誰でもLMSSR(当時のSPY7の呼称)を選ぶしかないような書きぶりになっている」との答えが返ってきたのを思い出す。提案書は見せてくれなかったが。

 ミサイル防衛庁がSPY7推しで動いていたとすると、長官来日は最後の念押しか、LM社関係者が500回以上の営業訪問に励んだ後のダメ押しだった事になる。

 こうした経緯だけでも怪しさ満載なのだが、不思議極まりないのが、防衛官僚や自衛隊幹部らが500回以上の面会に堂々と応じた事だ。相手はあの「ロッキード」。下手すれば「第2のロッキード事件」に巻き込まれかねないと警戒するのが普通の感覚ではないか。防衛省と言えば07年に立件された事務次官経験者の収賄事件の記憶も新しい。

 金銭のやり取りや接待にまで至らなくとも、特定の業者と繰り返し面会するリスクは公務員にとって自明であり、それを避けようとする自己防衛本能がなぜ働かなかったのか。

 想定される唯一の要因は首相官邸のお墨付きだ。安倍長期政権下で「首相のご意向」という威光をバックに官邸官僚が幅を利かせ、内閣府から財務省、文部科学省、国土交通省、厚生労働省等々まで、組織を挙げて特定の業者を優遇した疑いが濃厚なのが森友・加計問題である。

 加計学園が国家戦略特区での実現に成功した獣医学部新設をめぐっては、特区諮問会議の議長を務める安倍晋三首相(当時)自らが「親友」の学園理事長とゴルフや会食を繰り返し、そこには秘書官や官僚が同席した事もあった。特区認定で首相が権限を行使した事が明らかになれば、贈収賄事件に発展してもおかしくない。少なくともそうした疑念を持たれないように、言動を律するのが権力者の心得であるはずだ。

 しかし、安倍氏は人目を憚る事なく親友との蜜月関係を官僚たちに意識させ、野党やメディアからの追及が強まると、獣医学部新設の計画自体を「知らなかった」と抗弁した。

 「共犯」意識を擦り込まれた官僚組織はその先、忖度で動く。官邸側は刷り込んだ時点で目的を達したも同然。後は嘘つきと謗られようとも開き直って世間の忘却を待つ。

 擦り込まれた官僚側も開き直るしかない。菅義偉首相の長男から繰り返し接待を受けていた郵政官僚は、国家公務員倫理法の対象となる利害関係者とは「認識していなかった」と強弁した。それが嘘かどうかをいちいち論じるのも馬鹿らしい。長男の勤め先が郵政の所管する放送事業者だと知らなかった? 事業者側が高級飲食店で自分達を接待する理由が分からなかった? そんなわけないだろう。

 生真面目に公務員倫理を守ったところで、首相官邸の意に逆らって飛ばされたのでは浮かばれない。それよりは多少の不正行為に手を染めても権力の「共犯者」になった方がいい。勝ち組の「春」を謳歌出来るし、不正がばれても「安倍‐菅」政権が得意の強弁で守ってくれるはずだ。

 実際、首相の長男による接待問題で武田良太・総務相は「放送行政が歪められた事実は確認されていない」との強弁で乗り切りを図った。しかし、本稿冒頭の「特定の企業を優遇する事はない」と同じだ。事業者側はあからさまに行政を歪め、優遇措置を得ようとしているのに、何を根拠に「ない」と言えるのか。

「国防よりメンツ」の国難

 こうなると、一事が万事に思えてくる。菅首相が旗を振った「GoToトラベル」。首相は「新型コロナウイルスの感染を拡大させたエビデンス(根拠)はない」と強弁したが、GoTo利用者の追跡調査を徹底的に行って初めて言い切れるはずのフレーズだ。権力者の言葉が真実から遠ざかり、事実と科学に基づくべき行政が歪められ、国民に奉仕すべき官僚組織のモラルも底が抜けた。

 安倍政権を支持した保守派の言い分の1つに、外交・安全保障で国家のために良い政策をやっているのだから、モリ・カケの「小悪」など取るに足らないという主張があった。だが、陸上イージスを巡る混乱は日本の防衛装備体系を歪め、核・ミサイル開発を進める周辺国に誤ったメッセージを送る事になった。

 17年秋の衆院解散・総選挙に踏み切る際、安倍首相は北朝鮮の核・ミサイル開発を「国難」と呼び、国難に立ち向かうための解散だとして国民に支持を訴えた。その具体策が、3年を浪費した今も実体のないSPY7レーダーのカタログ買いだった。中国や北朝鮮の脅威から日本の国土を守るミサイル防衛網の整備はハッタリだと公言したに等しい。

 その場しのぎの武器爆買いの「共犯者」とされた防衛省は、国防より官邸のメンツ防衛に汲々としているように見える。モラルの崩壊にとどまらず、国家の要諦である安全保障政策の底も抜けてはいないか。これこそまさに国難である。

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