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コロナ対応で「国民の支持」失いかねない日医

コロナ対応で「国民の支持」失いかねない日医
真偽不明の「中川会長交代説」も浮上

「現場から遠く離れた『金の亡者』が評論家気取りで現状を述べているとしか思えない」「自分達が非難されない状態になるまで(緊急事態)宣言延長を働き掛け、そのトレードオフとして国民に苦痛を強要する。しかもいつも通り訳知り顔で説教じみた物言い。国民はあなた方を決して許しません」

 3月10日午後、新型コロナウイルス対応に関する日本医師会(日医)の定例記者会見の記事が日本最大級のニュースサイトであるヤフーニュースに掲載されると、中川俊男会長らに対する辛辣なコメントが相次いで書き込まれ、「そう思う」という賛意を示すボタンも多数押された。日医を支持するコメントはほぼ皆無だった。

「身を切らない」との厳しい目

 記者会見で中川氏は、新型コロナ感染者数が下げ止まっている事について「社会全体の危機感や緊張感は薄れてきており、〝緊急事態宣言慣れ〟といった感も否めない」とした上で、「第3波が下げ止まっている現在、リバウンド(感染再拡大)によって更に大きな第4波を招来する恐れがある」と警告した。

 中川氏は第4波防止に向けて「これまでの対策の徹底と新たな対応が必要だ」と述べ、国民にマスク着用や手洗い、外出自粛等を初心に帰って徹底するよう呼び掛けた。

 ただ、日医のコロナ対応を巡っては「医療提供体制の確保とワクチン接種体制の構築に全力で取り組んでいる」とアピールする一方で、全ての医療機関で「コロナ以外の日常診療」にも対応していると強調した。

 「身を切らない」といった国民からの厳しい視線を意識しての発言だが、日常生活で我慢を強いられている国民が日医に求めているのは、開業医も含めた全医療機関挙げてのコロナ対応への協力姿勢だ。営業時間の短縮を求められて閉店する飲食店が際立って目立つ中、病床逼迫が指摘されながら身近なクリニックが何も対応せず普段通りに診察を行っているのも、不公平感を助長する一因となっている。

 日医としては、今年1月20日に四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)、全国自治体病院協議会とともに「新型コロナウイルス感染症患者受入病床確保対策会議」を初開催した。

 2月3日には同会議が「具体的方策」も取りまとめる等、遅ればせながらコロナ患者受け入れの団体間調整に本腰を入れてきたところであり、日医内からは「何もしていないというのは心外だ」(中堅職員)との声も聞こえてくる。

 中川氏自身も、ワクチン接種を巡り、米ファイザー製品の超低温管理の難しさ等から集団接種が主流となりそうだったところ、地域の事情に合わせ、かかりつけ医での個別接種を柔軟に組み合わせられるよう河野太郎・ワクチン担当相らに提案し、それが認められるといったリーダーシップを発揮。ファイザー製品の配送については、日本医薬品卸売業連合会との調整に奔走した。

 こうした日医の活動が国民の支持に結び付かないのは、コロナ感染者が国内で初めて確認されて1年以上が経過しているのにもかかわらず、未だに十分なコロナ患者の受け入れ体制が構築されていない責任の一端が日医にあるとみられているからだ。

 政府はコロナ患者を受け入れる医療機関に対して手厚い補助金を支給しているが、感染者数が増加するたびにコロナ患者向け病床が逼迫を繰り返す様子に国民は辟易している。コロナ禍で日医は医療界の代表としてカネばかり要求して、中小病院による軽症者の受け入れ等、事態の改善に消極的だとの固定観念を持たれてしまった。

 また、中川氏が記者会見でたびたび強調する国民への協力要請も、日医の責任逃れと捉えられがちだ。

診療報酬改定や日医会長選にも影響

 世論の支持を失った日医が今後「欲張り村の村長の集まり」と定番の批判を浴びるのは想像に難くない。そうした逆風の際には診療報酬をはじめとする医療費の削減の要求にさらされるのも長年の歴史だ。財務省内には「今年の年末の予算編成では日医を攻撃し放題だ」(幹部)との見方も出ている。

 このような財務省の圧力に対し、日医は自民党の厚生労働族議員をはじめとした政治の力を使って対抗してきた。

 ただ、日医の政治への存在感は年を追うごとに低下しているのも現実だ。2019年7月の参院選比例代表では、組織内候補である自民党の羽生田俊氏の個人名得票数は15万票余りにとどまった。巨額の政治献金による影響力は依然あるものの、「日医の言う事を何でも通せる状況ではない」(閣僚経験者)というのが今の相場観だ。

 横倉義武前会長の時代は、横倉氏の温厚な人柄と幅広い人脈をフル活用して「横倉会長に恥をかかせてはいけない」というムードを醸成し、政治力のマイナスを補ってきた。その横倉氏が去った後は「日医の化けの皮が剥がれた」(政府高官)とも指摘され、中川氏率いる日医は正念場に立たされている。

 先行きに暗雲が漂う2月下旬、日医関係者の間で「中川氏が会長を辞任せざるを得ない状況にあり、近々名誉会長の横倉氏と交代する」との真偽不明の噂が浮上した。

 根も葉もない話のようで、地方医師会幹部は「仮に会長が辞任した場合は改めて選挙になるだけで、禅譲みたいな事はあり得ない」と解説するが、会長就任から半年あまりしかたっていない中川氏の権力基盤の弱さを象徴する出来事でもあった。

 昨年6月の日医を二分する戦いとなった会長選のしこりは今も残り、早くも来年の会長選に向け中川氏の対抗馬を模索する動きが出てきている。筆頭格は昨年の会長選で横倉キャビネットの副会長候補だった日医の今村聡副会長、愛知県医師会の柵木充明会長、大阪府医師会の茂松茂人会長の3人。中川氏は会長選前の2年間、副会長の職務と並行して小まめに全国を回って支持を広げただけに、反中川派としても早めに会長候補を決めて全国に浸透を図りたいところだが、3人とも横倉氏のようなカリスマ性は持ち合わせておらず、会長候補としては決め手に欠くのが現状だ。

 一方、会長選で中川氏を支持したグループでは、東京都医師会の尾﨑治夫会長の動向が注目されている。コロナ対応を巡っても、「政治家は国会の中で閉じこもっていないで現場を見に来い」等と政権批判を恐れない歯に衣着せぬ発言は、中川氏以上にマスコミの注目を集めた。

 尾﨑氏は菅義偉首相との関係構築に成功し、現政権の判断には一定の配慮を示す中川氏とは、ライバル関係に発展する可能性もある。

 会長選に勝利するには日医内に僅差でも多数派を形成すればいいが、長期政権を築くには一般の国民からも支持を得る事が不可欠だ。中川氏が次の会長選で再選を果たせるかは、コロナ対応で国民の評価が得られるような行動を目に見える形で実行出来るかに掛かっている。

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