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未来の会

第129回 ワクチン接種という〝好機〟を前に「株価低迷」

第129回 ワクチン接種という〝好機〟を前に「株価低迷」

虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 2月17日から、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった。厚生労働省の当初の発表だと、まず全国約100医療機関の医療従事者約4万人を対象とし、3月中旬をめどに約370万人の医療従事者に拡大する予定とされた。

 3月1日に3回目の米ファイザーのmRNAワクチンを積んだ航空便が到着し、これまでそろった量は約22万7300バイアル。1バイアルで6回の接種が可能で約136万3800回の接種が出来、1人当たり2回の接種が必要なため68万1900人分となる。

 だがその後、当初約370万人とされていた医療従事者は全国で約470万人と修正。

 「3月中旬をめど」という期日も4月中旬になったが、あと400万人分以上のワクチンが必要になる。

 4月12日から65歳以上の高齢者の接種が始まるというが、こちらは約3600万人。更に膨大なワクチンが必要となるが、行政改革相の河野太郎は2月26日の記者会見で、「6月中に自治体への(高齢者向けワクチンの)配送を完了する」と大見えを切った。

「供給日程は実質的に白紙の状態」

 ところが『週刊朝日』2月26日の巻頭記事「ワクチン契約の失敗」によると、政府関係者の証言として政府が公表を拒んでいるファイザーとの契約では、「全国民にワクチンを行き渡らせるのに十分なものではなく、供給スケジュールも実質的には白紙の状態」で、しかも、今後の供給も「見通しを立てようがない」とか。

 これから混乱が予想されるが、これもファイザーのワクチンが米国内外で争奪戦状態になっているため。そうなるとファイザー以外のワクチンが気になるが、現実的な選択肢として、そうしたワクチン供給を政府と契約している武田薬品に注目が集まっても良さそうな時世だ。

 既に武田は米モデルナ社のワクチンを2500万人分輸入する契約を結んでおり、1月21日から臨床試験を開始。今後、「治験結果を受けて厚生労働省に承認申請し、6月までに国内供給の開始を目指す」(『共同』1月21日配信記事)という。更に、米ノババックスのワクチンについても2月に国内Ⅰ/Ⅱ相試験を開始し、こちらはライセンス生産して今年後半の供給開始を予定している。

 普通なら、これほどの好材料があれば株価反転が期待出来るが、3月2日時点で株価は3676円と相変わらずの低調ぶり。時価総額も中外製薬、次に第一三共にも抜かれて「業界3位」が指定席となり、『日経』(電子版)2月4日付は「製薬大手の株価二極化が定着している。新型コロナウイルス禍で医薬業種が注目される中、創薬力や新薬の勢いで投資家が選別する動きが強まった」として、株価でも中外製薬に大きく差を付けられた武田を暗に皮肉っている。

 一方で市場も、おそらくコロナワクチンは武田の好材料にならないと読んでいる可能性が無きにしも非ず、だ。考えられるその理由の第1は、ワクチンが〝際物〟であるという事。

 厚生労働省のHPにある「ファイザー社の新型コロナワクチンについて」という項目では、「ワクチンを受けた人が受けていない人よりも、新型コロナウイルス感染症を発症した人が少ないということが分かっています」と明言した次に、「現時点では感染予防効果は明らかになっていません」(?)とある。

 しかも、「主な副反応は、頭痛、関節や筋肉の痛み、注射した部分の痛み、疲労、寒気、発熱等があります」、「本ワクチンは、新しい種類のワクチンのため、これまでに明らかになっていない症状が出る可能性があります」と続く。これを読んだ国民が、混乱して接種に二の足を踏んでもおかしくない。

 実際、今回のワクチンは早くとも10年かかる研究開発期間が1年前後に短縮。米国政府は通常1年はかかるワクチンの審査期間も、3日とした。ワクチンには必ず付きものの副反応のリスクと、今後もコロナ禍が続くリスクの両方を計算しての決断だろうが、米国の疾病予防管理センター(CDC)が2月19日に発表した「コロナワクチン安全性モニタリングの最初の1カ月」によると、昨年12月14日からこの1月13日までの間に、ファイザーとモデルナ製ワクチンは1379万4904回の接種が行われた。

 副反応が起きたのは6994件で、軽傷が6354件、重症は640件。死者は113人だが、「ワクチンと死因との間のいかなる関連性も示されていない」として、全体として「ワクチンの安全性が示された」と結論付けている。だが問題は副反応が接種の長時間後に出るケースで、それこそどのような症状が起きるか「明らかになっていない」。おいそれと武田の株に期待出来ないというのが、市場の判断ではないか。

MMRワクチン髄膜炎事件の〝前科〟

 第2に、武田はワクチンとの関係で陰惨な記憶が消し難いからだ。はしかとおたふく風邪、風疹の予防ワクチンを混合した、MMRワクチン(新三種混合ワクチン)による無菌性髄膜炎事件——。1988年4月に厚生省(当時)の公衆衛生審議会伝染病予防部会予防接種委員会が「MMRワクチンを接種出来るように積極的にすすめるべき」とする意見書を出し、同省がはしかの定期接種でMMRワクチンを使用出来る予防接種規則を改正。89年から93年にかけ接種を受けた子ども達に、国に報告されただけでも無菌性髄膜炎の症例が1754例に達した。

 93年には、2児が死亡した両親ら3家族が国を相手取って提訴(2審で勝訴確定)。死亡認定3人(非認定者3人)、被害認定者は1041人に及び、難聴、小脳失調症、急性脳症、てんかん等の重篤者が多く含まれる戦後有数の薬害事件に発展した。武田はこのMMRワクチンのうち、風しん用のワクチンを製造していた。

 他に多くの薬害被害者を出したワクチンとしては、77年から87年まで義務接種の対象だったインフルエンザワクチンや、子宮頸がんワクチンがある。武田はこれらに直接関与していないが、2010年から翌年にかけ、予防ワクチンの効果を論議する厚労省の「ワクチン評価に関する小委員会」の委員長と2人の委員に「寄付金」と称して50万円から500万円も手渡していた事が発覚。自社の「インフルエンザ菌b型のワクチン」が評価対象になっていたからと見られる。

 武田らワクチンメーカーが築いたこうした厚労省とその周辺の学者との醜い癒着関係が、日本のワクチン行政の歪みをもたらしたという指摘は少なくない。

 武田にとってワクチンとは、ことほどさように自社のイメージ向上に繋がる要素は乏しい。こうした心理が、「好機」を前にしながらの市場での株価低迷と無関係とは考えにくいだろう。「武田のこと、今コロナワクチンではしゃいでいても、また何か落とし穴があるのでは」と楽観視しないアナリストがいてもおかしくはない。  (敬称略)

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