官邸や事務方との調整がうまくいかないケースが
新型コロナウイルスのワクチン接種が成功するか否かが、菅義偉政権の命運を握っていると言っても過言ではない——。
昨年9月の政権発足後、日本学術会議の任命拒否問題で躓き、新型コロナの対策でもGoToトラベルキャンペーンの見直しの遅れ等、新型コロナ対策では「失態」が続く。
内閣支持率の低下に歯止めが掛からない中、「起死回生」の一手として政権が期待を寄せるのが、新型コロナウイルスのワクチンの普及だ。
その命運を共にするのは、河野太郎・行政改革担当相だ。菅首相は1月18日夜、新型コロナウイルスのワクチン接種の担当に、河野氏を任命した。
自民党総裁で衆院議長を務めた洋平氏を父に持つ河野氏は、サラブレッドながら歯に衣着せぬ発言等で知られる。ツイッターのフォロワー数は220万人を数え、国民的人気も高い。
58歳ながら当選は8回を数え、外相や防衛相、国家公安委員長を歴任している。
神奈川県平塚市や茅ケ崎市等を含む衆院神奈川15区選出で、同じ県選出の菅首相とは旧知の仲だ。
その発信力に期待を寄せる菅首相は「これまでそれぞれの各大臣の下で行ってきたが、今回態勢を強化した」と述べ、河野氏については「規制改革担当大臣としてそれぞれの役所にわたる問題について解決してきた」と抜てき理由を説明する。
各省の調整には相当な「力」が必要
ワクチンを予定通り確保し、国民の接種を促すのが河野氏の役割。「ワクチンが感染対策の切り札」と語る首相は、政権の命運を河野氏に託したのだ。↖
ある大手メディアの政治部記者は「河野さんの発信力に期待した、というところでしょう。支持率も低迷しているし、首相は説明能力に疑問符が付いている。河野さんの起用により、そうした懸念を一挙に払拭しようという腹づもりなのでしょう」と解説する。
しかし、ワクチン接種と一口に言っても、政府内での担務は多岐に渡っている。
ワクチンの承認や注射する医師は厚生労働省、保管する冷蔵庫は経済産業省、物流の許認可は国土交通省、注射針等の廃棄物処理は環境省、集団接種が想定されるため会場確保のために学校を使用すれば文部科学省、接種主体の市町村との調整は総務省、その予算になると財務省との調整が必要になる。
海外からワクチンを輸入する交渉は外務省、医師や看護師の応援が必要ならば防衛省も関係するかもしれない。
このように、関係していない省庁を探す方が難しいぐらいで、その調整には相当な「力」を必要とするはずだ。
河野氏は自分にその「力」がある事を誇示しようとしたのか、就任早々の1月20日、NHKの報道に早速噛み付いた。
NHKがワクチン接種のスケジュールを報道したのだが、河野氏はツイッターで「うあー、NHK、勝手にワクチン接種のスケジュールを作らないでくれ。デタラメだぞ」と全面否定したのだ。
NHKの報道は、既に官邸の事務方も入って練り上げ、厚労省が発表した案をベースにしているのだが、河野氏はそのスケジュールを白紙に戻す「ちゃぶ台返し」を検討していたため、こうした発信に繋がったとみられる。
政策決定過程も変化しつつあるようだ。
政治面での「主導」が足りないとみるや、河野氏は衆院議員が入居する赤坂宿舎で、菅首相や小此木八郎・国家公安委員長、小泉進次郎・環境相の4人で集まって、週末にワクチン接種について話し合っているという。
4人は神奈川選出で、気心の知れた仲だ。どうやったら国民にワクチン接種が進んでいるかをアピール出来るか、等を中心に話し合っているという。
とは言え、ワクチン確保には難題が山積する。
1月末に欧州連合(EU)はEU外へのワクチン輸出について時限的に許可制とすると公表したのだ。表向きは輸出の透明性の確保だが、世界的なワクチン争奪戦の一環とみる向きもある。
河野氏も記者会見で「供給スケジュールが確定せず、日本にも影響が出ている」と述べる等、苦慮している様子だった。
また、一部の自治体をモデル地区として、住民全員のワクチン接種を他の自治体より先行させる案も検討していたが、事務方と調整がうまくいかず、暗礁に乗り上げる事もあった。
菅首相とは「蜜月」と思われた河野氏なのだが、官邸との調整もうまくいっていないとみられるケースもあった。
緊急事態宣言を延長した2月2日夜、菅首相は1万人の医療従事者向けのワクチン接種時期について、従来の2月下旬から中旬に前倒しする考えを公表した。
これに一番驚いたのが河野氏だ。首相が表明する直前、接種スケジュールについて「現時点で確固たるものはない」と記者団に述べていたばかりだったからだ。
厚労省のある幹部は「河野大臣には情報がなかったようだが、厚労省内では2月中旬に接種を前倒しするという方針は確認していた。それだけに、首相の発言を知らされていなかった河野氏は相当怒っていたようだ」と明かす。
こうした「齟齬」が起きても、ワクチン接種のスケジュールが前に進むのは、和泉洋人・首相補佐官がワクチン接種について昨年秋頃から官邸内にタスクフォースを立ち上げ、準備していたからだ。
大坪寛子・厚労省大臣官房審議官をはじめ、総務省や経産省から人を集めて、自治体と連携したり、海外の製薬企業と交渉したりしてきたという。
和泉氏からみれば、突然現れ、ちゃぶ台返しをしようとする河野氏は目の上のたんこぶだ。
ある内閣府関係者は「河野さんと和泉さんのところはどうもしっくりいっていないようだ。ギクシャクして、お互いに連携しているようにはみえない。首相の前倒し発言もこうした中から河野氏に伝わらなかったのではないか」と推測する。
コミュニケーション能力に疑問も
河野氏の人柄についても、「枝葉末節でこだわりが強い。全てコントロールしたがる傾向があり、人に任せる事を知らない人」(永田町関係者)という評判もある。
レクチャーをした事があるという官僚の1人は「政策面では理解力の高い人ではあるが、質問の仕方やその口調等はとても厳しい。叱責された事もある」と漏らす等、コミュニケーション能力という意味では疑問な点もある。
当初、「国民的大事業」であるワクチン接種について、主導権は河野氏にあったかのように見えたが、再び和泉氏に戻ったのではないか、と推測する関係者もいる。
今後、副反応への対応等、難しい局面が想定されるワクチン接種。成功裏に収めたいところだが、その内情は心許ないと言えるだろう。
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