自民党内に社会保障を議論する若手中心の新組織が発足した。稲田朋美政調会長肝いりの「2020年以降の経済財政構想小委員会」だ。しかし、既存の党厚生労働部会や社会保障特命委員会の面々は「屋上屋を重ねるものだ」と不満を強めており、板挟みとなる格好の厚生労働省は困惑している。
「一体何をしようというのか。我々はいろいろな団体と調整しながら社会保障政策を進めてきた。既存の部会とのすみ分けをどうするつもりか」 1月20日の自民党厚生族幹部の集まりで、田村憲久前厚労相はこう言って不満をぶちまけた。怒りの対象は、2月3日の自民党財政再建に関する特命委員会で設置が決まった、同小委員会。稲田氏が仕切る同特命委の下部組織で、小委員長を橘慶一郎氏、事務局長を小泉進次郎氏が務める。厚生族がいきり立つのは、自分たちの領域を侵されかねない上、小泉氏らの役割が財政再建のための社会保障抑制策の議論に偏る見通しであるからだ。
表向きは中立を決め込む厚労省幹部も、「やりにくくなる」と本音を漏らす。 社会保障費が年々増え続ける中、小委の当面の役割は、社会保障の将来像を検討することにある。発足の発端となったのは、安倍晋三首相が打ち上げた、低所得の高齢者に一律3万円を配る臨時給付金。野党から「バラマキだ」と批判を浴びているが、自民党内でも小泉氏は「(現役世代向けの)結婚、妊娠、出産支援は30億円で(高齢者向けの給付金の)100分の1。与えるメッセージが見えない」と酷評していた。これを受ける形で、自らの「親衛隊」を作って政権基盤を固めたい稲田氏が主導し、あっさり小委の設置が決まった。
臨時給付金を受け取るのは、住民税非課税の年金受給者約1250万人で、年金受給者の3割以上に上る。政府は給付金の目的について、「アベノミクスによる賃上げの恩恵を受けていない高齢者の消費を促し、経済成長につなげることだ」と説明するものの、厚労省幹部ですら「選挙目当てとしかいいようがなく、進次郎さんの言い分は筋が通っている」と言う。それでも、をこれまでこの分野の外様だった小泉氏らが社会保障を議論するということには戸惑いを隠せない。 稲田氏は、新たな小委員会の役目に関し、周辺に「発足が3万円給付への若手の反発がきっかけだから、負担するべき人に負担してもらう議論は当然のこと」と語っている。
設置が決まった3日、小泉氏は「常識を疑った方がいい。65歳が高齢者という定義を変えると日本の景色が変わる」と意気込みを語った。 ただし、自民党政調全体が熱心とは言い難いのが現状。政調会長代行の塩谷立氏は「小委員会に仕事はあるのか。ないだろう」といった調子という。政調会長代理の田村前厚労相に至っては、小委に強く反発している始末だ。 政界でのステップアップを目指す稲田氏の一人相撲との側面もうかがえる状況に、厚生族幹部は「我々がやっている利害団体との調整なんてできるのか。理念だけで政治は動かない」と主導権確保に自信を示す。厚労省の官僚からは、「政治家同士の反目は一番困る。うまくすみ分けてくれたらいいのだが」(幹部)との声が漏れてくる。
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