新型コロナウイルス感染症の広がりを受け、特例で認められた初診からのオンライン診療。
菅義偉首相が「恒久化」に向け年内の制度設計を指示した事で一時医療界には激震も走ったが、結論は来夏に持ち越された。
流れは、初診を「かかりつけ医」に限定する方向にある。厚生労働省にすれば、想定に近い落としどころに向かっている。
オンライン診療は2018年度に保険適用されたものの、初診は認められていなかった。対象疾患も限定する等極めて限定的だった。
それがコロナ禍で様相は一変。医療機関での感染を避けるため、収束するまでの特例として4月に全面解禁された。
12月21日の政府の規制改革推進会議で首相は「将来も(特例の)今の基準を下げるべきではない」と述べ、21年6月までにルールを決めるよう求めた。
初診からのオンライン診療について、菅首相は首相就任直後、田村憲久厚労相に恒久化の検討を指示。規制改革推進会議の民間議員らは、過疎地でも高度な専門医を受診出来たり、患者が通院不要になって自宅近くの薬局等で処方薬を受け取れたりする利点を強調した。
一方、慎重派の日本医師会(日医)はオンライン診療を「対面診療の補完」との姿勢を堅持。疾患の見逃しや重症化を懸念し、初診についてはかかりつけ医に限るよう反論していた。
「利便性か医の安全か」という争点以外にも、推進派は情報通信技術(ICT)産業の進展を思い描いている。
片や日医等慎重派の側には、場所を選ばないオンライン診療では受診が評判の良い医師に集中し、競争の激化で医師が淘汰されかねない、との不安がある。
また、オンライン診療は診療報酬が低く設定されている上、検査料等を得られないという事情もある。
厚労族中核の田村厚労相は日医側の思いを熟知している。10月8日に河野太郎規制改革相、平井卓也デジタル改革相と協議した際に新患をオンラインで診る危険性を訴え、「初診はかかりつけ医に」との流れを作った。
11月2日にスタートした厚労省の検討会でも、同省は「数多くの疾患が原因となり得る腹痛等」等、初診からオンラインではリスクが伴う事例を列挙。疾患見逃し等の訴訟トラブルに発展した場合、「オンライン診療をした事自体が問題視され得る」と駄目押しした。
12月21日には、希望者は事前に医師に相談するルールを提案してハードルを上げた。同省幹部は「推進派も過激な人は一部で、我々とそれほど争いはない」と話す。
ただ検討会の議論では、「オンラインであれば受診する層」が一定数いる、との指摘もあった。健康診断で受診を促されても多忙で医療機関に行けない会社員らを想定している。
大橋博樹・多摩ファミリークリニック院長は、日頃から診察している患者については画面越しでも違いを感じる事が出来、薬の安易な長期処方等も防げる、と指摘する。
また、大橋院長は「『対面』と『受診しない』の間にオンライン診療がある」と訴え、オンライン診療が入院、外来、在宅とは別の第4の診療形態に発展する可能性に言及した。
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