「受診控え」で厳しい経営続く医療機関
新型コロナウイルスにより、過剰に受診を控える傾向が続いている事から、医療機関では厳しい経営状況が続いている。一時は、患者数が半分ほどに落ち込んだ医療機関もあり、それが回復したと言っても、以前の7〜8割という事であれば、経営は苦しいままだ。健康診断等の落ち込みも激しく、こちらも減収に直結している。患者側も、慢性疾患が重症化して救急搬送される、がんが進行した状態で見つかる、内服薬が切れたまま自己中断して悪化する……といった事で、受診控えが不利益にも繋がっている。
飲食店や観光業の打撃は大きいが、医療機関も例外ではない。スタッフを解雇したり、規模を縮小したりしても、立ち行かなくなり、廃業という苦渋の決断に追い込まれたクリニック等小規模な医療機関は全国に少なからずあるとされる。
病院であれば、年間の損失額も億単位に膨れ上がっているはずだ。これに対して、国からの補助金の支給は遅れている。決定が下りるまでに時間を要するため、年内の支給は難しいのではないかという見通しもある。
また、医療用の物資は価格が高騰している上、なお不足傾向にある。例えば、医療用グローブやマスク等は世界的に需要が高まっており、価格も数倍に高騰している。また、感染対策に欠かせないPPE(個人用防護具)等も値上がりして、速やかには手に入りにくい状態が続いているという。こうした事で医療の質を担保出来ない事になりかねない。報道で名前が出たりすると、更に受診の抑制が起こるといった負のスパイラルに陥ってしまう可能性もある。
国の支援金を待ってはいられないと、山梨県では県独自の給付金を使って、空床確保補助の一部を前払いしたというケースもあった。また、独自の支援を打ち出した地方自治体もある。例えば奈良県では、診療報酬を特例的に一定割合引き上げる事を検討しているという。また東京都は、新型コロナ感染症患者の受け入れ医療機関に対する臨時支援金のために200億円を確保している。これを重症者数等に応じて、約130の医療機関に配分するという。また、石川県や鳥取県等でも、医療機関に対して同様の協力金を支給する方針を固めている。また、山梨市では、ふるさと納税の仕組みを利用して、市内の医療機関への支援金を募っている。設備投資または従事者の支援のための交付金に充てるという。
民間の新型保険も登場
感染症対策において、陰圧装置や人工呼吸器等医療機器は補助金で賄う事が出来るが、装置を設置するためのダクト工事等設備関連には公的助成が適用されていないものが多い。遠隔での面会やオンライン診療をするためのタブレット端末やインターネット環境の整備のコストもかかってくる。病院の持ち出しとなる費用はかさむ。
新型コロナで病院が被った損害を補償するため、民間の新型保険も登場した。MS&ADホールディングスが業界で初めての試みとして発売した保険は、医療従事者の業務中の感染に加えてオンライン診療による患者情報の漏洩等にも備えられる。傘下の保険会社を通じて「医療機関総合補償プラン」として取り扱い中で、一般的なモデルの場合の保険料は、病床と職員の数が共に50、売上高10億円の病院で年間約150万円だという。金融機関による支援も広がっており、三井住友銀行は新型コロナに対応する医療機関等を対象に総額1000億円の融資枠を新設。
医療機関は、新型コロナの感染者を診ないところも含めて、国民生活にとって不可欠なインフラである。病院の経営危機もさることながら、国として、地域として、医療基盤を崩壊させないために、知恵を絞っていかなければならないだろう。
有志らが医療資源に関して提言
9月末、「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」が「医療提供体制の崩壊を防止し、経済社会活動への影響を最小化するための6つの緊急提言」を発表している。同研究会は、医療・看護等現場の専門家に加えて、経済学者、知事、政策担当者等の有志13人からなるメンバーで組織され、工学者で東京大学元総長の小宮山宏氏(三菱総合研究所理事長)が座長を務める。第一波における医療資源の配分を顧みようと研究会が立ち上がった。まず、567のDPC(診断群分類包括評価)対象病院のうちの341病院について、2020年2〜6月における新型コロナウイルス感染症への対応や経営の状況を分析しており、そのデータに基づいた提言である事が大きな特徴だ。
提言は、以下の6項目から構成されている。①医療資源を最大限に効率的に活用するため、医療機関の集約化・役割分担・連携を大胆に進める②全国の診療所や小規模病院の力を活かし、病院・保健所の負担軽減、検査の迅速化、患者の安心・安全を図る③メリハリのある思い切った財政支援によりコロナに対応するための医療提供体制を強化する④検査体制を増強するとともに、迅速な検査実施を実現する⑤高リスク者を重点的に守る⑥新型コロナウイルス感染症のリスクの理解と感染実態の分析を踏まえ、正確な情報発信を行いつつ、合理的な行動抑制を設計する。同時に偏見、差別、社会的非難を無くして行くために社会全体で取り組む。
このうち、病院経営に関わってくるのは、最初の2項目である。まず、①医療機関の集約化・役割分担・連携を大胆に推進で、重症者対応を強化するために病院の壁を越えて患者を集約し、広域の都道府県単位に複数または2次医療圏ごとに原則1つ以上確保し、中等症者対応を役割とする周辺病院との緊密な連携の確立により、地域全体で体制を整える必要性が盛り込まれている。集約化や役割分担が強調された背景には、第一波においてはICU(集中治療室)等の絶対量が不足していたわけでなく、配置がアンバランスであったという問題意識を踏まえたものだ。また、②診療所等の力を活かし、病院・保健所の負担を軽減し、検査を迅速化では、感染者の診断から重症者の治療までが大病院に集中した事の反省に立ち、診療所や小規模病院に、検体採取、検査の必要性や入院要否の判断、宿泊療養や自宅療養を行う人のフォロー等の役割を持たせるという提言になっている。
今冬はインフルエンザとの同時流行が懸念されている。もし発熱した患者が殺到するような事が起きれば、現場は大きな負担を強いられる。一方で朗報もある。新型コロナの感染対策として、手指の消毒やマスク着用を徹底する等した結果、厚労省が全国5000の医療機関から受けるインフルエンザの感染者数は、昨年との比較で激減している。予防策はインフルエンザと共通しており、国民の衛生意識が高まっている事から、当然の帰結とも言える。とは言え、気を引き締めてハイシーズンに備える事が、自院を守るだけでなく、医療崩壊を免れる事に繋がるだろう。
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