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開発遅い「日の丸ワクチン」は東京五輪に間に合わず

開発遅い「日の丸ワクチン」は東京五輪に間に合わず
頼りの海外ワクチンも有効性・安全性の証明に難問
集中出版
新型コロナウイルスのワクチン開発について会見する山田英・アンジェス社長

8月28日、安倍晋三・前首相は来年前半を目安に「全国民に新型コロナウイルス感染症のワクチン確保を目指す」と宣言した。

 国は米ファイザー、英アストラゼネカ(AZ)とそれぞれ1億2000万回分の購入で合意している。米モデルナとも4000万回分以上を目指し交渉中だ。1人2回接種でも、日本人ほぼ全員分を確保した。希望者にワクチンの接種を無料化する方針も決めている。

 ワクチンの準備は着々と整い、年内には米国でワクチン承認・実用化があるかのような空気も漂うが、そう事は簡単ではない。

開発は飛ばし過ぎ?

 通常のワクチン開発では承認まで10年かかると言われるが、新型コロナワクチンでは、感染確認から9カ月で、10の候補が承認目前の臨床試験(治験)第3相(P3)入りした。異例の速度で進んできたわけだ。

 ここで、安全性に問題が潜んでいる事を気付かせる事件が起きた。

 9月6日、AZのワクチンのP3が、英国での重篤な副反応(副作用)発生で中断されたのだ。その後、英国等では再開されたが、10月中旬時点で米国の中断は続いている。更に10月12日、米ジョンソン&ジョンソンも被験者の1人に病気が出てp3を一時停止したと発表した。

 新型コロナワクチンの開発では有効性の面でも難題が残っている。

 AZやファイザー、米モデルナの最先行組、それに続く欧米・中国勢が開発中のワクチンは軒並み、初期治験で理論的には感染症防止効果があると期待される抗体を発現させた事を確認している。

 ただ、抗体出現でワクチンの有効性が証明されたわけではない。 

 ワクチンとプラセボ(偽ワクチン)を多くの健康な人に投与する厳格なP3で、ワクチンを接種した人の方がプラセボを接種した人よりも感染者の数が統計的有意に少なくなる事を、客観的データで実証する必要があるのだ。実際に過去のワクチン開発ではP3で有効性が示せずに失敗となる例は数多くあった。新型コロナワクチン開発の特殊性もある。新技術を使ったワクチンが複数タイプ存在する点だ。

 例えばファイザー陣営やモデルナは新型コロナウイルスの遺伝子情報であるメッセンジャーRNAを、AZも人体に危害を及ぼさないウイルスを運び屋(ベクター)にしてウイルスたんぱくの遺伝子を体内に送り込む、新タイプのワクチンを今回引っ提げている。これで接種した人の体内に抗体等の免疫が作動され、感染防止を狙う。

 メッセンジャーRNAワクチンでの承認はまだない。ウイルスベクターワクチンでもエボラウイルスで承認があるのみでは、専門研究者ほど見方が慎重なのは当然だ。安全性では特にそうだ。年内に承認されたとしても1年足らずの開発では「怖くて接種出来ない」という声も出る。

 中国やロシアは国家として既に、最終治験を終えずに見切り発車的に国内開発ワクチンの承認や緊急使用に踏み切っている。

 米国でもトランプ大統領が大統領選投票日前のワクチン早期承認を狙い政治介入の動きを強めてきた。

 十分有効なデータがないマラリア治療薬、回復期血漿療法で、米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を出させた前科があるだけに、緊迫した事態が続いた。

 10月6日にFDAは新型コロナワクチンで厳格なEUA承認基準を公表した。有効性では50%以上の感染予防効果を示す事、被験者の半分以上でワクチン接種後(2回接種型では2回目接種から)原則2カ月以上の安全性データを確認する事が必要となった。

 10月下旬にもEUA申請の可能性が指摘されてきたファイザーもこれでEUA申請は早くて11月下旬以降になる公算。

 これでトランプ大統領の危険な野望はほぼ阻止されたが、逆にワクチンの承認・実用化は後ずれ、承認のハードルも上がったと言える。

国内はまだ初期治験1社

 自国で開発・承認したワクチンを囲い込み、時に自国外交に使う動きが今回の新型コロナウイルスでは出ている。日本は海外ワクチンの調達で急場をしのぐ作戦だが、来年前半にこれがうまく日本に回ってくるかどうかは、本当は分からない。

 海外調達に頼らざるを得ないのは、国産ワクチンの開発が終始先行する欧米や中国勢に比べ、遅れをとっているからに他ならない。

 大阪大学と阪大発バイオベンチャーのアンジェスの共同開発するワクチンが現状唯一治験に入っている。

6月末に大阪市立大学病院での30人対象にした試験入りに続き、8月には阪大病院でも30人の人にワクチン投与を開始。ワクチンの安全性や抗体量等の効果の基礎データを収集している。

 この初期治験P1・P2のデータを解析、良好な結果が出れば、早ければ10月にも400〜500人規模の人を組み入れた次の段階の試験に移るというのが開発をリードする森下竜一・大阪大学大学院寄附講座教授等の構想だ。

 ただこの先、最終治験P3の日程は現時点で白紙状態。それでもその前の治験の結果が出るまでにかかる時間を考えれば、開始は来年以降になるのは極めて濃厚だ。

 更にここで問題を大きくするのは、最低でも数千人単位の人を組み込む必要がある事だ。

 P3では高齢者や基礎疾患を抱える人等の感染重症化リスクの高い人、幅広い年齢や社会集団を対象に、ワクチンに最終的に有効性や安全性があるかどうかを確かめる必要がある。そのためにも治験期間は出来る限り長く、ワクチン等を投与する被治験者数も多く集める必要がある。米国等でAZ等各社が進めるP3で軒並み3万〜6万人を集めるのもこのためだ。

 日本での新型コロナ感染が広がらない場合は、有効な感染データを得るため、治験対象人数は更に増やす必要が出るし、治験期間も長引く可能性が高い。

 国産初の遺伝子治療薬の承認をもぎ取ったアンジェスだが、こうした大規模治験の経験はない。

 同じバイオベンチャーの独ビオンテックが巨人ファイザーと手を組んだように、大手製薬企業との提携をしたいところだが、「交渉はしている」と言うが実現のめどは依然見えてこない。リスクの高い新型コロナワクチン開発に国内製薬大手は及び腰だからだ。

 「新型コロナウイルスワクチンに関して日本の大手製薬会社では唯一本気だ」(医療関係者)と言われる塩野義製薬にしても、年内に治験を開始、2021年末までに3000万人分以上の生産を目指す、という事までしか現状見えていない。

 他は推して知るべし。日の丸ワクチンが承認・実用化するのは早くて来年後半とみるのが常識的だ。

 1年延長し命運を繋いだ政府悲願の来年7月の東京五輪開催までに最後の頼みのワクチンが使えるのかどうか。国産は絶望的、海外ワクチンも予断を許さぬ状況が続きそうだ。

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