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未来の会

「イソジン知事」と揶揄される吉村大阪府知事の〝科学力〟

「イソジン知事」と揶揄される吉村大阪府知事の〝科学力〟
大阪発ワクチン開発では〝人体実験〟まがいの発言も

「嘘みたいな本当の話で、嘘みたいな真面目な話をさせていただきたいと思います」

 そんな「本当の真面目な話」が嘘だったとなれば、何を信じて良いのだろう。それが日本第2の都市のトップの発言となれば尚の事だろう。

 8月4日、大阪府の吉村洋文知事は「ポビドンヨードのうがい薬が新型コロナウイルスに効果がある」とする研究結果を突如、発表した。市場は反応し、全国のドラッグストアからはうがい薬が消えた。

 しかし、うがい薬がコロナに効くという研究結果には多くの疑問が。その後も、吉村氏の危うい発言は止まらず……。

 大阪・河内長野市出身の吉村氏は九州大学法学部卒業後、司法試験に合格し、消費者金融大手「武富士」の弁護人を務める等、弁護士として活躍。2011年、大阪維新の会の公認で大阪市議選に初当選し政治の道に入った。

 衆議院議員を経て大阪市長となるも、大阪都構想を巡り民意を問うため、大阪府知事だった松井一郎氏と入れ替わる形で府知事選に出馬し初当選した。北海道の鈴木直道知事に次ぐ全国で2番目に若い43歳だった。

 「弁護士資格を持つ府知事という経歴は橋下徹氏を思わせる。弁が立ち、パフォーマンス重視のところも似ている」と在阪の全国紙記者。

 しかし、そんな吉村氏が今、「大阪イソジンの会」の「吉村イソジン知事」と揶揄されているのだ。

 そのきっかけが前出の8月4日の会見だ。

「陽性逃れ」にうがい薬悪用される恐れ

 「吉村氏は研究を行った大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターの松山晃文・次世代創薬創生センター長を伴い、イソジン等の商品で知られるポビドンヨードのうがい薬でコロナの陽性率が下がったという️研究結果を発表した。会見場にわざわざ商品を並べ、発熱等の症状のある人や家族、接待を伴う飲食店の従業員や医療、介護関係者にポビドンヨードによるうがいを呼び掛けた。会見はテレビやネットで生中継され、直後からドラッグストアでイソジンを買う人が目立つようになった」(同記者)。

 発表によると、研究ではホテル等で療養中の新型コロナ患者41人を、ポビドンヨードを含むうがい薬で1日4回うがいをするグループとうがいをしないグループに分け、4日目の陽性率を比較。「うがい薬でうがいをした」グループは9・5%だったのに対し、「うがいなし」のグループは40・0%だったというものだ。

 しかし、この研究には医師等から疑問が噴出。都内の内科医は「そもそも41人は少な過ぎるし、うがい薬の効果を調べたいなら、うがい薬でうがいをするグループと水でうがいをするグループを比較しないと意味がない」と一刀両断する。

 センターの資料には、うがいにより唾液中のウイルスが低減、消失が加速される、重症化の予防にも繋がる等と書かれていたが、「ウイルスの量が減る事と重症化しない事はイコールではない。予防についてはこれだけでは全く分からない」(都内の別の医師)と明らかに勇み足と読み取れるのだ。

 研究が「観察研究」だった事も問題視された。イソジン等のうがい薬には副作用もあり、1日4回うがいをするよう患者に指示したのなら「観察研究」ではなく「介入研究」だ。医療センターの倫理委員会は今回の研究を条件付きで承認しているが、研究デザインも含め不明点が多く、「このまま論文にするには穴だらけ」(関西地区の医師)だ。

 それどころか、PCR検査を受ける前にうがい薬でうがいをして「陰性」にする、つまり〝陽性逃れ〟にうがい薬が悪用される恐れを指摘する声も出ている。

 エビデンスレベルが高いとは言えない研究を根拠に「コロナ予防に良い」と医薬品を持ち上げた時点で、吉村氏の「科学力」は大丈夫かと心配になる。

 案の定、会見後、全国でうがい薬が品薄となり、インターネットでは違法な転売も起きた。

 一方で、子会社がイソジンを取り扱う塩野義製薬やうがい薬を取り扱う明治ホールディングスの株価は上昇。特に塩野義株は会見前から急上昇しており、ネットではインサイダー取引を疑う声も上がった。

 吉村氏の会見を生中継した「ミヤネ屋」に出演していたテリー伊藤氏は、8月9日の情報番組「サンデー・ジャポン」の中で、会見の1時間半ほど前に内容を知っており、医薬品メーカーの株を買えると思った等と発言。その後、発言を否定したが、インサイダー疑惑が濃厚となり、吉村氏が火消しに走る騒ぎとなった。

 冒頭の在阪記者は「吉村氏の勇み足は今に始まった事ではない」と呆れ顔だ。

 6月には大阪大発の製薬ベンチャー「アンジェス」等が開発を進める新型コロナワクチンの治験について、「市大の医学部附属病院の医療従事者にまずは20例から30例の投与をする予定」と記者会見で発言した。

 大阪市大の審査委員会の承認前にもかかわらず、〝人体実験〟を強要するかのようなこの発言には、大阪府保険医協会が声明を出す等大きな反発を受けた。

大阪に重症多い理由に対し仰天発言

 7月には、大人数での会食を控えるよう呼び掛ける国に「(具体的な)人数を設定すべきだ」と反発し、5人以上の宴会を控えるよう府民に呼び掛けた事も。5人という数字に科学的根拠はなく、「分かりやすい発信を心掛けているのだろうが、科学の世界には白黒つかない事が多いと理解出来ていない」(同記者)。

 1カ所で5人以上の感染者が出た場合にクラスターとされる事から、同記者は「5人未満にすればクラスターの発生がないと考えたのではないか」と分析するが、とても科学的な視点とは言えない。

 更に、8月14日に新型コロナの重症患者数が全国最多となった理由を問われた際には「大阪は出来るだけ早めに気道切開して人工呼吸器を付ける治療を優先している」と仰天発言。大阪の医療者から「人工呼吸器を付ける基準を大阪だけが変えている事実はない」と反論された。

 国や東京都に対抗意識を持ち、自説を曲げない事でも知られる吉村氏。「イソジン」への批判は相当悔しかったようで、会見から3週間近くたっても「新型コロナウイルスにおけるうがい薬を用いた殺ウイルス効果の研究レポート」とツイッターでドイツの論文を紹介。しかし、試験管の実験で意味はないと、更に反論される結果に終わった。 

 「科学」は政治判断の材料となり得るが、その材料を読み解く科学力に不安があると政治判断は迷走するだけという事を露呈させた吉村氏。イソジンに、支持率低下の予防効果はないらしい。

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