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「院内感染」の永寿総合病院、涙なくして読めない手記

「院内感染」の永寿総合病院、涙なくして読めない手記
未だ衰えない新型コロナウイルスと戦うヒントを探る

涙なくして読めない——。医療関係者以外からもそんな声が上がる手記が公表された。新型コロナウイルスの〝第1波〟で最大規模クラスターとなる214人の院内感染の現場となった東京都台東区の「永寿総合病院」の医師と看護師が記したものだ。

 あの時、病院では何が起きていて、医療者はどんな思いでいたのか。最前線で闘う医療者に必要な支援とは何か。最大規模の院内感染の現場から、未だ衰えない新型コロナと闘うヒントを探る。

 「病院の責任者として深くおわび申し上げます」

 7月1日、東京都千代田区の日本記者クラブで頭を下げたのは、永寿総合病院の湯浅祐二院長だ。同病院で新型コロナの院内感染が発覚してから3カ月以上。湯浅院長は対応に追われるさなかの4月にホームページ上に談話を出していたが、これまで直接の取材に応じる事はなかった。感染が落ち着いたとしてこの日、初めての記者会見を行ったのである。

 永寿総合病院は上野駅から徒歩約5分の場所にある地域の基幹病院だ。生活習慣病の治療等で知られており、「がんを患っていた親が糖尿病の治療でお世話になった。がん患者という事で面倒もかけたと思うが、担当医は親切で、亡き親もとても信頼していました」(都内の40代会社員)と評判は良い。低所得者も多いエリアだが、どんな患者でも受け入れる姿勢には定評があった。

 その病院を新型コロナが襲ったのは3月初旬の事。複数の患者や職員が発熱した事から、病院側は同月20日に集団感染と気付いたが、時既に遅し。感染は広がっており、5月23日までに患者とその家族ら131人、職員83人の計214人が感染した。入院患者の感染は109人で、約4割の43人が死亡。亡くなった患者を診療科別にみると、最多の23人が血液内科、6人が呼吸器内科の患者であった。

コロナを疑うには難しい時期だった

 厚生労働省の報告書によると、集団感染の元になったと考えられるのは2人の患者で、そのうちの1人は2月26日に脳梗塞で入院。3月5日から発熱する等していたが、誤嚥を繰り返していたため、誤嚥性肺炎と診断されていた。

 「2月といえば、ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染が日々、報道されていた時期。3月2日には安倍晋三首相が一斉休校を要請する等、危機感は強まったが、まだどこか他人事という感覚もあった。更に、無症状や潜伏期間であっても感染を広げる恐れがある新型コロナウイルスの特性もそこまで分かっていなかった。発熱や肺炎の症状がなかった患者に新型コロナの感染を疑えというのは難しかっただろう」と厚労省関係者は話す。

 湯浅院長自身も会見で、新型コロナを疑うタイミングが遅かった事が感染を広げる要因になってしまったと語っている。

 こうして3月上旬から広がった感染は、病院が把握した3月中旬には手が付けられないほど広がっていた。抗がん剤治療中だったり生活習慣病等の基礎疾患を持つ患者が多く、重症化しやすい条件もそろっていた。3月25日には外来診療を停止して院内感染対策に当たったが、4月上旬には患者の死亡が相次いだ。

 その頃、院内で何が起きていたのか。病院は会見に合わせ、院内の様子や職員の思いを克明に綴った3人の手記を公表した。

 「未知のウイルスへの恐怖に、泣きながら防護服を着るスタッフもいました。防護服の背中に名前を書いてあげながら、仲間を戦地に送り出しているような気持ちになりました」と綴ったのは同院の看護師。

 万が一自分が感染していた場合に、それを家族に広げる事のないよう、幼い子供を遠くから眺めるだけで抱きしめる事が出来なかったスタッフや、食事を作るために帰宅しても接触を避けてホテルで寝泊まりするひとり親のスタッフがいた事も明かしている。

 多くの感染者、死者を出した血液内科の医師は「当初は5階病棟のみの集団感染と考えていたが、4月上旬には8階の無菌室にまで広がっていた事が判明し、その時は事態の重大さにその場に座り込んでしまった」と振り返った。

 自らも感染し、一時はECMO(体外式模型人工肺)を付けるほど重症化した医師は、面会が許されない妻に携帯電話で「死ぬかもしれない。子どもたちを宜しく頼む」と伝えたという。リハビリを経て現在は職場に復帰したが、「主治医が突然不在となったことにより、大変な不安を感じられたことと思う」と患者への強い責任感を覗かせた。

 責任感という意味では、湯浅院長も同様だ。「会見中、大変な状況の中、頑張ってきた職員や亡くなった患者について話す場面で声を詰まらせていた。強い責任感と医療者としての無念の思いが感じられた」と全国紙記者は話す。

 連日、コロナ関連の話題が大きく取り上げられる中、この会見は新聞やテレビ等のメディアで大きく取り上げられた。その中で特に注目を浴びたのが、TBS系情報番組「ひるおび!」にコメンテーターとしてリモート出演した作家の室井佑月さんの発言だ。

 「こんなにコロナの患者を出しちゃった事は、やはり責められるべきで病院側、経営者は反省すべきなんだよね。(手記の公開で美談にする事は)なんかちょっとすりかえっぽく感じる」「病院から広がるなんて事はやめてもらいたいですよね」等と述べ、ツイッターで大炎上したのだ。

有志がクラウドファンディングで支援

 「確かに手記は、看護師だけでなく死者を多く出した診療科の担当医、自らも感染した医師と必要なツボを抑えていたし、院長の会見での話しぶりもよく練られていた。顧問弁護士等、良いアドバイザーが振り付けをしたのかもしれない。ただ、だとしても院長が会見で謝罪した事は事実だし、永寿総合病院が地域で愛されていた事は間違いない」(全国紙記者)。 

 その証拠に、集団感染が伝えられてから、同院には近隣住民や患者、企業等から400件を超える励ましや支援が寄せられたという。

 更に、室井さんの発言に対して怒りを感じた人達が、ある行動に出たという。「同院に以前勤務し、現在は近隣でクリニックを開業した医師有志が6月末に、同院を支援するためのクラウドファンディングを始めた。〝室井発言〟が注目された事で、このクラウドファンディングの存在もSNSで拡散され、あっという間に支援金が集まった」(全国紙記者)。

 大規模な院内感染により2カ月半もの間、外来患者と新規入院の受け入れをやめた同院は、継続が難しくなるほどの経営難に見舞われているという。行政も支援する姿勢を見せているが、クラウドファンディングで寄せられた善意の寄付は、過酷な状況を耐え抜いた医療スタッフへの何よりの励ましとなる事だろう。

 

 

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