国会周辺がきな臭さを増している。与党幹部らから「8月盆明け解散」やら「経済対策とセットで9月に解散」等、時期を明示した解散説が相次ぎ、解散風が吹いているのだ。
新型コロナが終息しない現状を踏まえ、「感染のリスクを広げ兼ねない衆院選等出来ない」との慎重論も依然あるが、歯車は回り始めた感がある。安倍晋三政権の起死回生の一策か、あるいは政権維持のための虚栄のブラフ(脅し)か。解散風の周辺を探った。
「もう動いている。8月解散なのか9月解散なのかは分からないが、秋には衆院選があるという事で。冬にはインフルエンザも流行るから、安部首相もワンチャンスなんじゃないの」
神奈川県の地方議員は衆院選に備え、6月から活動を本格化させたという。詳しく聞くと、解散情報には2つの波があると分かった。第1波は、東京五輪・パラリンピックの延期が決まった春先の波だ。夏場の空白期間を利用し、安部首相が解散するという自民党内の政局分析が背景にあった。しかし、新型コロナの感染拡大に伴い、この波は一時沈静化する。
解散風と麻生副総理の皮算用
第2波は、黒川弘務・前東京高検検事長の辞職に続き、参院選を巡る買収事件で前法相の河井克行・衆院議員と妻の案里・参院議員が逮捕された5月下旬から6月中旬にかけ、複数の波が重なる形で、出来上がった。発言者は複数いるが、渦の中心にいるのは麻生太郎・副総理兼財務相だ。
麻生副総理は6月1日と10日に、安部首相とサシ(1対1)で会談している。過去にも積極的な解散戦略を勧めた事があり、メディアの関心も高かった。
麻生副総理は会談内容をつまびらかにしていないが、党内には「麻生副総理が安部首相に『夏の内閣改造で二階俊博・幹事長と菅義偉・官房長官を更迭し、9月に解散・総選挙に打って出るべきだ』と進言した」というどぎつい情報になって伝わった。
その後も、安倍・麻生会談は頻繁に行われ、6月30日には2人の会談の後、安倍首相が公明党の太田昭宏・前代表を首相官邸に招いて、約1時間会談した。その後、自民党の下村博文・選対委員長とも30分協議しており、「スワッ、解散か」と周囲をどよめかせた。
麻生副総理と安部首相との会談は、6月だけで計8回にも上る。麻生副総理は29日に公明党の斉藤鉄夫・幹事長に「衆院解散は今秋が望ましい」との考えを伝えており、「今秋解散に向け、首相の説得を重ねている」と見られている。
麻生副総理が秋の総選挙を推しているのは、残り任期が1年余となった政権の現状と経済状況を踏まえての事だ。
コロナ禍からの経済回復には時間がかかり、本格回復は再来年以降になるとの見立てが背景にあるとされる。経済のじり貧が続く来年の衆院選は厳しいとの判断だ。政治的にも、来年は公明党が最重要視する東京都議選があり、衆院選とのかぶりを嫌う公明党の協力が得られないとの計算が働いている。
もう1つ重要なのが、延期された東京五輪・パラリンピックの行方だ。アジアや欧州の一部では「ウィズコロナ」の体制が出来つつあるが、ロシア、ブラジル、インド等大国を含め、多くの国で収束が見通せていない。世界中の参加を前提にした開催には、暗雲がかかったままなのだ。
開催の可否の判断は秋から年末にかけて下されるとみられるが、仮に開催中止となれば国民のショック、経済的損失を含め、安倍政権は大打撃を被る事になる。「五輪禍」を避けるためには、早めの解散・総選挙が有利と映るのだ。
自民党幹部が苦笑いしながら語る。
「麻生劇場だな。早期の解散・総選挙は出来るならやればいいし、出来なくてもいい。出来ない場合はブラフだ。スキャンダルとポスト安倍で浮足立っている党内を引き締め、安倍首相の求心力を保つのが1つ。もう1つは、内閣改造を見据えた観測気球かな。〝菅・二階を切る〟という怪情報が流れたでしょ。あれ、敵と味方を見分けるために意図的に流したんじゃないの。安倍首相が党内の様子を見ながら、内閣改造や解散時期を探るための〝麻生演出〟という事じゃないの」
自民党幹部の分析はやや好意的だが、麻生副総理と距離を置く勢力からは「公明党をエキストラ参加させて、苦し紛れの猿芝居をやっている。自分で解散風を起こして解散も出来ない体たらくと分かったら、一気に求心力を失うだけだ」(自民党中堅)との冷めた声も出ている。
ポスト安倍の有力候補の1人、石破茂・元幹事長は、二階幹事長に秋波を送り、二階幹事長も〝麻生劇場〟とは距離を置いた菅官房長官と呼吸を合わせているとされる。麻生劇場は、分断が進む党内の現状を体現していると言える。
自民敗北でも改憲勢力は伸長?
麻生劇場に刺激され、メディアでは秋に衆院選が実施された場合の議席予想も相次いでいる。1例を挙げると、自民党284→228▽立憲+国民105→157▽維新11→34▽公明29→26(いずれも現有勢力→予想議席)等となっている。
スキャンダルが続出した自民党の大敗予測が大半で、自民党大勝の予測は皆無だ。新型コロナの影響で若者の多くが生活に困っており、いつもは選挙に消極的な若年層が「アンチ自民」で大量投票するとの予想が背景にある。欧州等では新型コロナの影響で、対策に注力した現政権の支持が高まる傾向を見せたが、日本ではこれとは逆の見方が主流になっている。
解散イコール大敗という予想に対し、自民党選対関係者は「自民党が多少減るのはそうだろうが、維新の会が伸びるだろう。立憲、国民は微増どまりで、公明党は現状維持。改憲勢力で見れば、むしろ増えるんじゃないの」と案外強気だ。
「解散せずに総裁任期を終え、次期総裁に委ねる事も考えているんだろう。ただし、何もせずにこのままずるずる行けば、安倍首相や麻生副総理の意中の人物が総裁になれるとは限らない。麻生発言は沈んだ党内の空気を変えるためのアクションだろう。国民全体へのコロナの経済対策、つまりは現金給付の第2弾と併せて衆院を解散するのは悪い手ではないと思う。いずれにしても野党は勝てない」
自民党長老は安倍首相の胸中を思いながら、「秋の解散は五分五分だ」と分析している。カネで釣られるような衆院選は民主主義の本質を損なうとは思うが、新型コロナの行方次第では避けて通れないのかもしれない。
LEAVE A REPLY