富の再配分の観点から内部留保450兆円に課税を
緊急事態宣言が5月25日に解除された後も、新型コロナウイルスの国内感染者は増加が止まらない。7月19日現在、全国の累計感染者は2万4642人。特に東京都では2日に新たに107人の感染者が見つかり、5月2日以降、初めて100人以上を記録。7月17日には新たに293人の感染が確認され、過去最多を更新した。。
菅義偉・官房長官は16日の会見で、緊急事態宣言を再び出す可能性について「直ちに緊急事態宣言を出す状況ではない」と発言したが、先行きは不安だらけだ。
日本経済もあらゆる産業に悪影響が及んでいる。日銀が1日に発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、業況判断指数は大企業の製造業でマイナス34と3月の調査より26ポイントも落ち込んだ。大企業の非製造業はマイナス17だったが、これも同じく25ポイントの落ち込み、下落幅は過去最悪とか。中小企業も製造業が30ポイント下落のマイナス45。非製造業は25ポイント下落のマイナス26となり、いずれも下落幅が過去最悪となった。
コロナ関連破綻や失業率が上昇
東京商工リサーチの調査によると、6月30日の段階で「コロナ関連破綻」は累計294件。業種別では飲食が46件と最多で、次いで宿泊39件、アパレル36件となっているが、今後も増加するのは疑いない。これに伴い、5月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0・12ポイント低下の1・20倍で、下落幅としては過去2番目の水準と言う。
同月の完全失業者数(季節調整値)は前月比で19万人も増えて197万人となり、5カ月連続で増加。解雇や派遣切りによるものだが、特に非正規の従業員・職員が直撃された形で、昨年5月から1年間で、就業者数が61万人も減少している。このままだと雇用不安が深刻化し、年末には正規労働者の解雇も避けられなくなりそうだ。
だが、安倍晋三政権の経済対策に期待を託している国民はどの程度いるだろうか。例の中小企業や個人事業主らを対象にした持続化給付金の事務事業一つにしても、ただでさえ給付までの時間がかかり過ぎているのに、電通とその子会社に計107・5億円も「中抜き」させている。多くの中小企業、商店が生きるか死ぬかの瀬戸際にあるこの期に及んでも、政権私物化は健在だ。
それでも、経済対策はもはや待ったなしの段階にある。「第2波」どころか、現在の感染拡大がいつ一段落するか不明なのに、8月から予定されている旅行や外食等の消費を後押しするという愚策の「GoToキャンペーン」等は中止すべきだろう。加えて2020年度第2次補正予算成立後も、雇用調整助成金や特別貸付の更なる継続、医療機関・保健所の抜本的強化、自営業者の生活支援制度拡充、雇用保険失業給付金の支給限度額と支給日数の引き上げ等々の新たな経済対策は、不可欠だ。
ただ、財源の問題は避けられない。過去最大の規模となった第2次補正予算の31・9兆円は、全て20年度の新規発行国債90・2兆円から賄うが、その結果、一般会計予算の歳出総額は160・3兆円に達し、公債依存度は56・3%と過去最高を更新。利払い等に充てる国債費を除く歳出から、税収・税外収入を差し引いた20年度の基礎的財政収支(PB)は66・1兆円となり、更なる財政状況の悪化は必至となる。
いくらコロナ対策とはいえ、財政危機をとめどもなく悪化させていいはずがない。当面、大型公共事業や米国製兵器の「爆買い」等それこそ「不要不急」の支出削減が急務のはずだ。同時に、新たな財源論議も避けられなくなっている。その場合、以前から指摘されている大企業の膨れ上がった内部留保への課税が優先すべき検討課題となろう。
平均賃金は減り、役員報酬は増加
財務省の18年度の法人企業統計調査によれば、資本金10億円以上の大企業(金融・保険業を含む)が貯め込んだ内部留保は、同年度末で449兆1420億円と11年連続で過去最高を記録。07年の約1・6倍だ。政権与党ですら「雇用や設備投資に回さない」と以前から批判を口にしているが、日本経済の浮沈を賭けた経済対策が求められている今こそこれを放置しておく手はない。「二重課税」との批判は予想されるが、富の再配分の観点から会社の純資産に対する課税は検討に値する。
一方で世界的にも企業経営が悪化しているため、「手厚い内部留保」が「日本の経営モデルとして再評価」されるだの、「企業の強さを図るカギ」になる(岩村充・早大大学院教授)と主張する論者も近頃散見されるが、いかがなものか。
そもそも経済協力開発機構(OECD)加盟国35カ国中、2000年と比較して17年度の段階で平均年間賃金がマイナスになっていたのは実に日本だけ(マイナス7・3%)だ。時給で見ても、1987年から18年まで、日本だけがマイナスの8・2%だ。日本以上の貧困率となっている米国ですら81・5%だから、マイナスという数値がどれだけ異常であるか窺えよう。
反面、大企業の役員報酬は13年の3月期決算と19年のそれを比較すると、ちゃっかり2・9倍にまで達している。繰り返すように内部留保は11年間で1・6倍だから、大企業は儲けた分でひたすら株式や債券を購入したり、現預金や役員報酬に回したりしているのが実態だ。これを財界あたりは別として、少なくとも大多数の勤労者が「日本の経営モデルとして再評価」するだろうか。
加えて、1989年の消費税創設以来、19年までの31年間で消費税の累計総額は397兆円にも上りながら、ほぼ同じ時期に、法人3税は財界が政権与党にやらせた相次ぐ減税で298兆円減っている。法人税の減税分を一般国民から徴収する消費税で穴埋めした形だが、それだけではない。アベノミクスによって内部留保の増加率はピッチを上げたが、「異次元の金融緩和」による円安誘導で企業収益が増大した面が大きく影響したのは言うまでもない。
そこまで本来勤労者に支払うべき適正額の賃金を渋り、その昔流行語の感があった「市場の事は市場に任せろ」どころか、国にとことん依存しながら溜め込んだのが、世界にも例がないような巨額の内部留保だ。
にもかかわらず、戦後最大規模の経済危機に直撃されて真っ先に中小企業や零細自営業主が破綻に見舞われ、非正規雇用をはじめとした社会的弱者が困窮し、国民全体の消費もさらに低迷している今になっても、びた一文それを吐き出そうとしない財界・大企業の姿勢は、「二重課税」の是非論議以前に社会的責任意識をあまりに欠いてはいまいか。
こんな事では仮に新型コロナウイルスの感染拡大が収束したとしても、その後も依然として設備投資や人件費が抑えられかねず、経済の浮揚は望み薄だ。ならば、課税しか方法はない。1割課税しただけで、「過去最大規模」の今年度第2次補正予算に回してもお釣りがくる。未曽有の危機の時代、いつまでも前例踏襲では先は見えまい。
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