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未来の会

コロナ禍が「社会保障制度改革」に及ぼす影響

コロナ禍が「社会保障制度改革」に及ぼす影響

患者2割負担の対象議論、不妊治療延期の検討等々

新型コロナウイルス感染症の広がりは、政府の社会保障制度見直しにも様々な影響を与えそうだ。コロナ対策優先で75歳以上の医療費窓口負担増等の法案は来年への先送りが決まり、3月末の閣議決定を予定していた「少子化社会対策大綱」の取りまとめも大幅に遅れた。

 一方で、厚生年金の適用拡大を目指す関連法案は企業の負担増を求めていた野党が軟化し、すんなり今国会で成立した。

 5月22日、首相官邸で2月19日以来となった「全世代型社会保障検討会議」が開かれた。とはいえ、主なテーマは「コロナの感染拡大を踏まえた新たな課題」。安倍晋三首相は6月を想定していた最終報告の取りまとめ時期について、「2020年末とし、7月に2回目の中間報告をしていただく。引き続きご協力をお願いしたい」と語り、半年延期する考えを示した。

社保審で十分議論出来ない事態に

 政府が掲げる「全世代型の社会保障制度改革」の柱の1つは、75歳以上の医療費の自己負担割合(原則1割、現役並み所得の人は3割)について、一定の所得のある人を対象に「2割負担」を導入する事だ。今年夏までに対象者の所得水準等を詰め、年内に法案を国会に提出する意向で、昨年末にまとめた中間報告に盛り込んでいた。

 ところが、2月から本格化した新型コロナの蔓延により、厚生労働省は所得基準を議論するための社会保障審議会を十分開けないまま、ここまで来た。

 コロナ対策に追われる政府は21年度予算概算要求を1カ月程度遅らせる他、6月に予定していた骨太方針の決定も7月にずれ込む。秋の臨時国会を想定していた法案提出も必然的に21年の通常国会以降となる見通しだ。

 ただ、新型コロナは多くの人の雇用を奪い、景気を急激に冷え込ませている。今後、雇用情勢がさらに悪化する可能性があり、野党ばかりでなく与党からも「患者の負担増に繋がる議論は慎重にすべきだ」(自民党幹部)との声が出始めている。2割負担とする対象者を巡っては、財務省や経済界等“広げようとする側”と、日本医師会等なるべく“絞り込もうとする側”の綱引きが続いていたが、絞り込もうとする側に追い風が吹き始めた。

 厚労省が懸念するのは、法案提出がずれ込んだ挙げ句、施行時期に影響が出てしまう事だ。同省は団塊の世代が75歳に差し掛かる22年度までに2割負担を導入して現役世代の負担を抑える考えだが、議論がもつれると内容、施行時期ともに影響する可能性がある。

 新型コロナによる「医療」へのしわ寄せはあらゆる方面で起きている。日本病院会等がまとめた調査(速報値)によると、回答した1049病院の4月の平均損益は約3600万円の赤字。約400万円の黒字だった前年同期に比べ、大幅に悪化した。院内感染を怖がって通院を控える患者が急増したり、院内感染を警戒する病院側が入院を減らしたりしている事が響いたという。

 一方、支払い側の大企業を中心とする健康保険組合は景気低迷による保険料収入の落ち込みに加え、感染拡大によって保険料の支払い猶予等をしている組合もあり、収支が悪化しているという。

 5月末になって新型コロナ対策の緊急事態宣言は解除された。それでも厚労省幹部は「今後、感染拡大の第2波、第3波が来るのは避けられない。先が見通しにくい」とため息をつく。

 元々、全世代型社会保障検討会議では少子化対策の議論が遅れ気味で、昨年末の中間報告には含める事が出来なかった。

 政府は当初方針より大幅に遅い5月29日にようやく「第4次少子化社会対策大綱」を閣議決定した。育児休業を取得中の人に支払われる給付金の拡充や、2人目以降の子どもに対する児童手当の上乗せを検討する事等を盛り込んだ。「希望出生率1・8」の実現に向け、若い世代が自分達の希望する時期に結婚し、子どもを育てられる環境を整備するとしている。

景気後退が少子化を加速する可能性

 それでも、新型コロナによる景気後退は更に少子化を加速する可能性が指摘されている。収入が安定しない非正規労働者が増える中、所得の低下は結婚や出産の手控えに繋がるからだ。政府の大綱は不妊治療の普及を重視している。ところが、日本生殖医学会は4月、妊婦が新型コロナに感染した場合の重症化リスクを踏まえる等し、不妊治療延期の検討を促す声明を発表した。一部の医療機関では治療の中止を推奨する等している。

 保険料収入の落ち込みで苦境に立たされているのは、介護や年金も変わりない。それでも、パート等短時間労働者に厚生年金の適用を拡大する年金改革関連法案は、5月の連休明けには立憲民主党や国民民主党も賛成に回り、衆院を通過。参院に移っても審議はスムーズに進んだ。背景には新型コロナが野党の対決姿勢にブレーキを掛けた事がある。

 現在、従業員501人以上の企業の場合、パートらにも厚生年金に加入させる事が義務付けられている。ただ、従業員規模の要件がハードルとなり、現在のパート加入者は約45万人にとどまる。

 こうした状況を受け、厚労省は、企業に加入を義務付ける従業員規模を22年10月に「101人以上」に広げ、24年10月には「51人以上」に引き下げる内容の厚生年金法改正案を国会に提出した。しかし、これでは約65万人が新たに加わるにすぎず、野党は24年10月に従業員数の要件を撤廃するとした修正案を出していた。

 要件の「緩和」か「撤廃」か——。国会では与野党による対立が見込まれていた。ところが、新型コロナの感染拡大により経済が急速に悪化し、外出や営業の自粛等が中小企業の経営に大打撃を与えた。従業員に支払う賃金や休業手当にさえ四苦八苦する事業所が少なくない中、野党は「中小事業所も新たに年金保険料を負担せよ」とは言い出せなくなった。与党の歩み寄りもあり、法案採決では野党も一転、政府案に賛成した。

 ただ、厚労省の年金局幹部は「年金といえば与野党対決、という図式が崩れたのは有り難い」と言いつつ、表情は曇りがちだ。

 パートを多く抱える外食産業は、厚生年金適用拡大に強く反対してきた業種だが、今回最も新型コロナの直撃を受けた立場でもある。営業自粛要請が解除されても、すぐに客足が戻る見通しは立たず、外食産業でつくる日本フードサービス協会は改正法施行を5年延期するよう求めている。

 新型コロナの今後の動向次第では、政府の想定が崩れる事態もあり得る状況だ。

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