新型コロナウイルスの感染拡大は、一部の通所型デイサービス業者を休業に追い込む等、在宅介護現場を揺さぶっている。しわ寄せは、訪問介護をするホームヘルプサービス業にも及んでいるが、行政のバックアップは弱い。介護の現場からは「厚生労働省のこれまでのホームヘルプサービス抑制路線が裏目に出ている」との批判も出ている。
東京都内のあるデイサービス事業所は、政府の緊急事態宣言を受けて通所サービスを休業している。施設は手狭で、人と人の「密接」を避けられない。それでも、利用者には老老介護の人も少なくないし、独居の人もいる。職員は「私達も感染が怖いのは確かだが、自宅でずっと過ごす事が出来るのかと心配になる人が2、3人は頭に浮かぶ。ものすごいジレンマを感じています」と言う。父親がこの施設を週に3回利用している女性は「父は軽い認知症なので、症状が進まないか心配」と話す。
通所サービス等について、政府の専門家会議は「感染が流行している地域」での一時利用制限(中止)を検討するよう求めてはいるものの、政府の休業要請の対象にはなっていない。それでも厚労省の調査(4月13〜19日)によると、全国で858の通所・短期入所系の事業所が休業していた。
今回の騒動を受け、厚労省は休業したデイサービスの職員が利用者の自宅に出向いてサービスを実施する事を認めている。ただ、通所系施設の職員には訪問系のサービスに不慣れな人もいる。このため訪問系事業所への代替需要が高まっている。
しかし、医療職が常駐し、感染症への対応方法もある程度把握している介護施設と、零細事業所も多い訪問系では条件が大きく異なる。訪問系は食事や排せつ、身体を拭く等の介護が多く、利用者との濃厚接触を余儀なくされる。にもかかわらず、消毒液やマスクの入手にさえ四苦八苦している事業所は少なくない。
こうした事態を受け、「暮らしネット・えん」「東京山の手まごころサービス」等首都圏のNPO事業所の代表は4月10日、安倍晋三首相宛に要望書を提出した。感染の疑いがある介護職、利用者双方への検査、単独で訪問するヘルパーへの感染症に対する知識の徹底、マスクや防護服等の優先的支給等に加え、濃厚接触者への訪問介護を評価する介護報酬の新設を求めている。
訪問系サービスに関し、厚労省は「ヘルパーを家政婦代わりに使う人が多い」として報酬を下げ続けてきた。その結果、極端な人手不足を招き、2018年度の訪問介護職の有効求人倍率は13・1倍となった。全職種平均(1・46倍)の9倍だ。人手不足対策として創設された外国人の在留資格「特定技能」は訪問系サービスに従事する事が出来ない。前出のデイサービス事業者は「訪問系に委託するのも人手不足でままならない。国が訪問系を軽視してきたツケが回ってきている」と指摘する。
新型コロナウイルスを巡っては、介護職のみならず医療職の不足も際立ち、医療崩壊も懸念されている。厚労省幹部は「日本の社会保障の最大の懸念材料の1つが人手不足。コロナ騒動の中で、その事が浮き彫りになった」と話す。
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