SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

危機そのものより「対応能力」疑われる安倍首相

危機そのものより「対応能力」疑われる安倍首相
まず現実を直視して正確に把握すべき

恐ろしい事態になってきた。新型コロナウイルスの感染者が広がる事によってもたらされる様々な経済危機が進行中だが、2008年のリーマン・ショックや、11年の東日本大震災と福島原発事故が重なったカタストロフィを上回る経済的打撃が避けられそうもない。

 だが、憂慮すべきは危機そのものより、危機の対応能力が疑われるような政府の存在かもしれない。本来なら避けられ、あるいは軽減出来るようなリスクや損害まで増幅させ、無用の長期化まで招きかねないからだ。そもそも危機対処の原則は、まず現実を直視して正確に把握する事から始まる。そうでないと対処を誤るのは必至となるが、安倍晋三政権にはこの点からしてまず失格だ。

 内閣府が2月7日に発表した、昨年12月の景気動向指数。そこでは、景気の現状を示す一致指数が15年を100として94・7であったと示されている。「前の年からのマイナス幅は世界的な経済危機を招いたリーマン・ショック以来の大きさ」(『日経』2月7日付電子版)のため、当然景気の基調判断は「悪化」とされた。しかも、昨年10月から5カ月連続しての「悪化」だ。

 そして2月17日には、昨年10〜12月期の国内総生産(GDP)速報値が発表された。実質で前期比1・6%減、年率換算では6・3%もの減と発表され、5四半期ぶりのマイナス成長であった事実が明らかにされた。言うまでもなく、昨年10月に強行された消費税の「10%増税」が、日本経済を悪化させた結果だ。

 いつものように消費増税の旗振り役を演じていた『日経』は、この数字について「消費増税前の駆け込み需要の反動減が響いた」(同2月17日付)としているが、正確ではない。初の軽減税率やポイント還元サービスが導入されたため、今回は「駆け込み需要」が微々たるもので「反動減」もなきに等しかった。

消費増税に加え新型コロナが直撃

 しかも17日の発表によれば、GDPの約6割を占める個人消費で見ると、前期に比べて2・9%のマイナス。年率では、11%を超えるマイナスとなる。前回14年度の増税時は4・8%であった事から、政府の中から「影響はそれほどでもなかった」というような声も聞かれるが、14年の増税率は3%で、昨年は2%だった。しかも、「反動減」がなかったのに2・9%のマイナスになったのは、それだけ前回より今回の消費増税の方が、消費不況に与えた影響が深刻であるからだろう。

 つまり日本経済は、消費税増税によって体力が一段と削がれた局面で、新型コロナウイルスの直撃を受けたのだ。第一生命経済研究所の首席エコノミストである永濱利廣氏は、この直撃によって「名目GDPを2・9兆円押し下げる可能性がある」(同研究所『ステージが変わりつつある新型肺炎の影響』より)と試算するが、従来からの消費増税に伴う悪影響がコロナ騒ぎとドッキングした「複合不況」ともなれば、前代未聞の危機が待ち構えている事態となる。

 ところが、安倍政権にはどうやら現状への警戒感が乏しいようだ。政府が20日に公表した2月の月例報告によると、「景気は、輸出が弱含むなかで、製造業を中心に弱さが一段と増した状態が続いているものの、緩やかに回復している」との認識が示されている。しかも、個人消費も「持ち直している」という。

 この月例報告は元来、政権の思惑が露骨に反映される傾向が強いが、既に見てきたように政府自身が5カ月連続して景気の基調が「悪化」していると客観的な数字を挙げて認めているのだ。なぜこれが、「緩やかに回復している」等という認識に繋がるのか。

 のみならず、総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の実質家計消費は、昨年10月から11月にかけて年額換算で332万2000円。消費税が8%に上がった前年の13年の年額である363万6000円から30万円以上も低下し、過去最低水準を記録している。この数字をどう解釈したら、個人消費が「持ち直している」という判断になるのか。

 考えてみれば、「森友疑惑」や「加計疑惑」、そして例の「桜を見る会疑惑」で示されているように、戦後、安倍ほど国会で虚偽答弁を乱発し、公的な経済指標の数字を改ざんし、提出すべき政府資料を隠蔽させてきた首相は存在しない。

 まるで、ろくにしつけられもせぬまま嘘をつく事に罪悪感を覚えず、我がままも自制出来ない子どもをそのまま大人にしたような安倍にとって、今さら「アベノミクス」や、2回も手を付けた消費増税の失政を自ら認めたくないだけなのだろう。景気が「緩やかに回復している」と言い張る以上、もはや消費税率の低減を含む緊急の経済対策が急務だという認識に立ち返るのも、困難であるに違いない。

 だが、目下の新型コロナウイルスへの対応は、日本経済の浮沈のみならず、人命にもかかわる。にもかかわらず安倍の最大の関心事は、感染者の確認を妨げる事にあるかのようだ。人口が日本の半分以下の韓国で、累計のPCR検査数が4万304件であるのに対し、日本はわずか913件だという(2月25日午後4時段階)。厚生労働省は「地方の検査数が反映されていない」と主張しているが、それでもこの大き過ぎる差については、日本では政府の方針として基本的にPCR検査が「入院を要する肺炎患者の確定診断のため」という枠が課せられているという事実以外に、説明出来る理由はない。

総裁選前に五輪で人気取り狙いか

 しかし、入院を要するようになるまで肺炎で苦しまないと検査出来ない体制と、韓国のように症状がどうあれ検査を優先する体制のどちらが感染を防ぐ上でまともな危機対処なのか。元東京大学医科学研究所特任教授の上昌広氏は「感染者を多く見せたくないのではないかという裏があるような気がする」とテレビのニュース番組で発言しているが、同じ疑念を持つ国民は多いはずだ。

 考えられる事は、ただ一つ。21年9月に任期が迫る自民党総裁の座(あるいは総理の座)に何とかしがみつきたい安倍にとって、今夏の東京オリンピックはそのための人気取りに絶対欠かせないイベントなのだ。

 だからこそ、感染者が多大であるというデータが明るみになればオリンピックどころではなくなるから、どうあっても現状を隠蔽せねばならなくなる。何のことはない。いつもの疑惑隠しと同じ心理と手口だ。

 そうこうしている一方で、中国からの部品輸入の滞りで中小の製造業や建築業の打撃が深刻化し、中国人観光客頼みの観光業も壊滅的打撃だ。それでも、いつ終息するのか先が読めないまま「コロナ不況」が日々広がる中で、これまで景気が「緩やかに回復している」だの個人消費が「持ち直している」だのと、現状を都合のいいように歪めてきた政権に、危機への対処など望むべくもない。

(敬称略)

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top