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未来の会

新型肺炎であふれかえる「デマ」にどう備えるか

新型肺炎であふれかえる「デマ」にどう備えるか
未知の感染症に不安が募る時こそ冷静さを心掛ける

中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。2002〜03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の時は情報を隠蔽したとして叩かれた中国政府だが、今回は少しは情報を出していこうとしているように見える。この10年で格段に進歩した科学を象徴するかのように、中国国内から有用な論文も出ている。

 一方で、政府への積み重なる不信感を背景にネット上にはデマが書き込まれ、それが日本語に翻訳されて広まるという悪循環も起きた。時としてウイルス以上に危険なデマの〝世界流行〟に対策はあるのか。

 「武漢から到着した中国人観光客が熱と咳があったため関空(関西国際空港)から病院に送られたが検査を受ける前に逃げた」「USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)と京都に行くつもりらしい。大阪の人、気をつけて」

 中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」のものとみられる中国語の書き込みの画像とそれを日本語に訳したツイートが大量に拡散され始めたのは、1月23日夜頃だ。これに先立つ16日には武漢から日本に来た中国人が新型肺炎と確認され、日本で初めて患者が出ていた。「国内でも感染が広がるのではないか」と不安が大きかった時期である。

正しい情報のツイートは広まらない

 「このツイートは短期間で2万5000件以上もリツイートされた。同じ画像を使った別のツイートも複数あり、目にした人は相当いるだろう」と全国紙記者。「ツイートを見たネットメディアや新聞各社が関空の検疫所等に取材し、ツイート内容はデマだとすぐに確認されたが、デマツイートに比べて正しい内容のツイートは広まらないというのがネット社会の常だ」と記者は苦笑する。

 厚生労働省等によると、熱や咳など感染症を疑われる症状がある乗客が検疫所を通過する際は、高熱であればサーモグラフィーが反応する仕組みだ。モニターを見ている検疫所の職員が乗客に声を掛け、健康状態等を聞き取ったり簡易な検査を行ったりする。

 高熱が出ていない場合はどうか。咳等、気になる症状があった場合、通常は本人に申告してもらわない限り、検疫をすり抜ける事になる。今回の新型肺炎は「検疫感染症」に指定され、武漢等、流行地域から来た乗客全員に質問状を配る等のより高いレベルの検疫を実施出来るようになったが、デマが拡散した時点では検疫感染症になっていなかった。つまり、「ツイートにあるとおり、関空から病院に送られたなら検疫所から搬送された事になるが、デマが広まった時点では、関空の検疫所から新型肺炎を疑われて搬送される患者は出ていなかったようだ」(担当記者)。

 検疫所に勤めた事のある内科医によると、「新型感染症が疑われる患者が検疫所で見つかった場合、対応する医師や看護師、搬送する救急隊員にも感染する恐れがあり、万全の体制をとる必要がある。患者が途中で逃走する事は難しいし、そうした事案があれば表に出ているはず」と語る。

 案の定、メディア各社の取材に関空は情報を否定したわけだが、ネット上ではその後も「知人の勤める大阪の医療機関に新型肺炎が疑われる患者が来た。逃亡した患者に違いない。あのツイートはデマではない」といった不確かな情報が出回った。中国からの訪日客は多く、日本で症状が出た患者が医療機関を受診することは当然あり得る。

 他にも新型肺炎を巡りネット上で出回ったデマは数多い。中国国内では「バナナを食べると新型肺炎になる」「イチゴは予防にいい」といった根拠薄弱な情報が出回った。中国語の誤ツイートが翻訳されて日本に出回る例も多く、「日本語による日本についての発信であれば発信者がどういう人か注意して読むが、中国語の元ツイートがついた形で日本語でツイートされているものは、つい無条件で信じてしまった」(都内の30代女性)という声も多い。

 全国紙記者は「災害や新型感染症等、社会の不安が高まると、デマが多く出回る。一般の人には確認のしようがないデマも多いので、基本的には政府や公的機関等からの情報を待った方がいい」とアドバイスする。一方で「中国のように政府による情報の隠蔽、操作が日常的な国では、公的機関からの情報への信頼度が日本とは異なる。政府は隠しているが、という枕詞の信憑性が強く、災害時の不安との相乗効果でますますデマが広がりやすい」と日中関係に詳しい大学教授は話す。

「医療保険タダ乗り」絡め中国人叩き

 さらに、ネット上で注意すべきなのが、「いわゆるネトウヨと呼ばれる中国や韓国に嫌悪を示す一定層」(前出の大学教授)だ。今回も、武漢での流行が明らかになった当初から「中国からの訪日客を送り返せ」「日本を封鎖して、中国から来た人間を入れるな」といった排他的な意見が多く発信され、感情的な賛同意見とともに拡散された。

 こうした声を諫めるように、橋本岳・厚労副大臣が「ある国からの渡航を禁止したらいいというのは、例えば仕事などでたまたまその国に親兄弟配偶者娘息子がいる人にとって、とても辛く悲しく場合によっては残酷な手段であることにも想いを致した方がよいのではないでしょうか。冷静に、リスクに見合った対策を常に考えていたいと思っています」とツイートしたところ、「少数の人のために国民の命を危険にさらしてもいいのか」と逆に叩かれる事態にもなった。

 さらに、以前からネット上で話題だった「日本の医療保険にタダ乗りする中国人がいる」話が重なって、中国人叩きはエスカレート。「医療保険タダ乗り」とは、留学などのビザで来日した外国人が国民健康保険に入り、C型肝炎等の高額な薬剤による治療を保険適用して受けているとされる問題だ。他にも協会けんぽの適用を受けられる家族に中国在住の親を指定する等いくつかの方法があるが、「いずれも高額な医療を受けるのが問題になっている事例」(全国紙記者)という。

 今回の新型肺炎では「中国では良い治療が受けられないので、肺炎が疑われる状態で日本に来て、無料で日本の医療を受けている」とする情報が広まり、中国人バッシングに繋がった。「指定感染症に指定された後は入院時の医療費は公費負担になるが、これはお金がない事を理由に入院や治療が行えず、それにより感染を拡大させてはいけないという公衆衛生上の理由による。従来の医療保険の問題とは関係ないし、バッシングが広まった当時は新型肺炎は指定感染症ではなかったので、もし日本に観光等で来て医療機関にかかった中国人がいたとしたら、医療費は全額自己負担のはずだ」と前出の記者は解説する。

 冷静に考えれば嘘と分かるような話でも、「政府(マスコミ)は隠している」との枕詞が付くと何となく本当のように思えてしまうネット上のデマ。未知の感染症に不安が募るのは分かるが、そういう時こそ冷静さを心掛け、むやみにデマを広げないようにしたい。

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