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診療報酬改定「本体維持」、日医・横倉会長「5選」に追

診療報酬改定「本体維持」、日医・横倉会長「5選」に追
財務省のきな臭い動ききっかけに引退から出馬へ変心

 「ねずみ年にまいた種が健やかに成長し、大きな花を咲かせられるよう、日本医師会(日医)は本年も全力で努めて参りますので、皆様方もどうぞよろしくお願いをして、新年の挨拶と致します」

 日医の横倉義武会長は1月8日夕に東京・本駒込の日本医師会館で開かれた年頭記者会見の冒頭発言をこう締めくくると、満面の笑みを浮かべた。今年は2年に一度の会長選の年であり、自信満々の横倉氏の表情は、詰め掛けた多くの報道陣に5選出馬への強い意欲を感じさせた。

5選すれば武見太郎氏に次ぐ在職日数

 現在、会長4期目の横倉氏は75歳で、既に世界医師会会長の重職も務めている。今年6月の会長選で5選を実現すれば、同じく会長4期と世界医師会会長の両方を達成した坪井栄孝氏の記録を追い越す。創設100年を超える日医の長い歴史の中で、25年の四半世紀にわたり君臨した武見太郎会長に次ぐ実績を残す事になるのだ。

 ただ、横倉氏自身はそうした栄誉にあまり興味はなく、昨年夏頃までは周囲に「世界医師会で前会長の役職が2019年秋で終わるので、会長も4期で辞めたい」とたびたび漏らしていた。仮に5期目となると、任期の後半には、団塊世代の後期高齢者入りに伴う社会保障費の急増で、抑制圧力が必至の22年度診療報酬改定の難しい交渉が予想されるからというのもあったという。

 そんな引退に傾いていた横倉氏が心変わりしたのは、財務省のきな臭い動きがきっかけだった。財務省は横倉氏と安倍晋三首相との太いパイプを背景にした強い政治力を持つ日医が「ポスト横倉」で弱体化する事を見越して攻勢を掛けてきたの↖だ。昨年7月の参院選以降、政府内で次の目玉政策として「全世代型社会保障改革」を前面に打ち出す流れが出来た事に乗じて、外来の受診時定額負担の導入や後期高齢者の窓口負担の原則2割への引き上げといった医療費抑制策に切り込んできた。

 会長選の行方に大きな影響を及ぼす20年度診療報酬改定でも圧力を強める財務省に危機感を抱いた横倉氏は昨年8月末、地元の九州医師会連合会の会合で事実上の5選出馬を表明。その後、11月の政府の全世代型社会保障検討会議に強く要望して自ら出席し、受診時定額負担に対する反対論等を訴えた他、年末の診療報酬改定を巡る交渉でも、財務省が求める医師らの技術料や人件費にあたる本体部分の引き下げに真っ向から抵抗した。「本体マイナス」は会長選で対抗馬からの格好の攻撃材料となるからだ。

 横倉氏の5選出馬の情報が広まるにつれ、財務省への風向きは徐々に逆風となっていった。財務省にとって全世代型社会保障検討会議の中間報告への医療費削減策明記、診療報酬本体部分のマイナス改定という満額回答は望めなくなり、条件闘争へ転換せざるを得なくなった。「本体プラス」を容認する代わりに、全世代型社会保障検討会議の中間報告に受診時定額負担や後期高齢者の2割負担を明記するといった作戦だ。

 だが、これにも横倉氏は反発。本体部分は前回改定率の0・55%以上の引き上げを要求した上で、さらに中間報告でも、後期高齢者2割負担の新設の明記は容認するものの、受診時定額負担の導入については一切拒否した。この間には安倍首相を筆頭に菅義偉・官房長官、自民党の二階俊博・幹事長ら政府・与党の幹部へのアピールも忘れなかった。

 その結果、財務省も撤退戦を強いられ、昨年10月の消費税増税に伴う薬価部分の臨時改定で財源が例年よりも見込めない中、本体部分の改定率は前回と同様のプラス0・55%を獲得。財務省のささやかな抵抗で、医師の働き方改革対応に充てる0・08%分を除くとプラス0・47%に留まるが、働き方改革分は勤務医を抱える病院に重点的に配分されるため、「医科、歯科、調剤のうち医科は実質的に前回よりもプラス改定になる」(厚生労働省幹部)という。横倉氏は改定率決定後の12月18日の記者会見で「満足はいかないが、厳しい国家財政の中で一定の評価をしたい」と語った。

 加えて、地域の病院再編・統合を促す地域医療構想をさらに進めるため、病院が病床を10%以上削減する場合の「ダウンサイジング支援」として、新たな全額国負担の補助金が創設される事も決まった。20年度予算案では特例措置として84億円が計上され、21年度以降は消費税を財源とした仕組みを設ける事になる。横倉氏も「病床削減は人を減らす事だが、現状では退職金の準備等が出来ていない。混乱をもたらさないよう補助金を使うべきだ」と強調した。

 一方、診療報酬改定の交渉と同時並行で作業が進んでいた全世代型社会保障検討会議の中間報告は、当初案では受診時定額負担について「中長期的にさらに検討を行う」と明記されていたが、最終的にその段落は横倉氏の要求どおりに丸々カット。後期高齢者の2割負担に関しても、横倉氏の主張に沿って、対象者の範囲が広がって必要な患者の受診抑制が起きないよう「原則」2割負担という表現は使われなかった。

 中間報告の発表を受け12月19日に記者会見した横倉氏は「自民、公明両党の提言よりも少し踏み込んでいる点に懸念もあるが、日医の提言により国民皆保険の理念が守られた内容となった」と評価。受診時定額負担に対しては「将来のビジョンもないまま、財政的に支えられないからといって、基本的なルールを変えて患者にさらなる負担を求める事は、国民皆保険の理念に反する」と改めて苦言を呈した。

「ポスト横倉」争いは「対横倉」の構図へ

 こうした昨年末に繰り広げられた「横倉完勝」の一連の流れを内心苦々しく思っていたのは、日医内で今年6月の会長選への出馬を模索している面々だ。会長選は、当初の横倉氏の引退を前提にした「ポスト横倉」を巡る争いから、「対横倉」へと構図は変わってきており、「本体マイナス」や「受診時定額負担の中間報告明記」等が実現されていれば、〝反横倉〟勢力にとっては追い風になるところだったが、全く逆の展開になってしまった。

 年明け以降は、全世代型社会保障検討会議の最終報告の取りまとめに向け、後期高齢者2割負担の対象者の範囲についての議論が行われる見通しだが、横倉氏を追い詰める材料としては決定力に欠ける。各地で難航している地域医療構想を巡っても、再編統合の議論が必要な424の公立・公的病院に関する結論の期限が今年9月末から事実上延長されることになっており、こちらも会長選の火ダネにはなりにくくなっている。

 会長選には中川俊男副会長や東京都医師会の尾﨑治夫会長らの出馬が取り沙汰される。中川氏は地元の北海道や東北の医師会等から支持を集めているとも噂されるが、副会長続投を狙うとの見方もある。横倉氏の2選目から無風が続く会長選に今回は風が吹くのか予断は許さない。 

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