1月20日招集の通常国会に提出される、介護保険制度改革に関する法案がまとまった。サービス利用時の自己負担割合(原則1割)が2〜3割となる対象者を広げる案等は見送る一方、介護施設入居者らの食費補助をカットし、所得の低い人の負担を増やす案等は実現に移そうとしている。
ただ、経済界等からは「踏み込み不足」との指摘が相次ぎ、厚生労働省も「今回は1回お休み」(幹部)との認識だ。それでも介護の現場からは強い反発も出ている。
2019年の暮れも押し迫りつつあった12月16日。この日の社会保障審議会介護保険部会では、厚労省が改革案の全体像を示した。制度の持続可能性が議論となり、健康保険組合連合会の河本滋史・常務理事は「心もとない」と憂いた。自己負担割合のアップ、ケアプラン作成費への自己負担導入、要介護1、2の人の生活援助サービスの市区町村事業への移行といった当初案がいずれも見送られていたためだ。
厚労省幹部は河本氏の指摘を認めつつ、「医療・年金の見直しと、ぶつかるしね。介護であまり波風は立てられない」。
とはいえ、負担増案も並んでいる。一つは、一部の低所得の人に食費の自己負担を月に2万2000円増やすものだ。
特別養護老人ホームなど介護保険施設は、部屋代や食費は原則自己負担となっているものの、住民税非課税世帯(年収155万円以下)のうち、預貯金等が1000万円以下(単身の場合)であれば、収入に応じた補助、補足給付を受けられる。この資産要件を①「650万円以下」(年収80万円以下)②「550万円以下」(年収80万円超〜120万円以下)③「500万円以下」(年収120万円超)——の3区分とする。③の場合は補足給付の食費部分が月に2万2000円カットされる。30万人程度に影響する可能性がある。
また、月額の自己負担に上限を設けている「高額介護サービス費」は高所得世帯の上限を見直す。現在は4万4400円となっているが、年収約770万円以上の世帯は2倍以上の9万3000円に、年収1160万円以上の世帯は14万100円に引き上げる。対象者は約3万人となる見通し。いずれも21年度からの実施を目指している。
一連の負担増には介護の現場から「利用手控えを招く」との批判が出ている。都内郊外の特養では、夜に入居者を巡回すると、時折布団が異常に盛り上がっている。寝る家がない中年の娘が潜り込んでいるからだという。施設の責任者は「本人どころか家族まで支援を必要とする人が増えている。国の方針は現状に逆行している」と話す。
18年度の介護費用は総額で前年度比2・2%増の10兆1536億円で、00年度の介護保険制度発足以来、初めて10兆円を超えた。高齢化がピークを迎える40年度には約25兆円に達するというのが政府の見立てである。今回見送った負担増案についても、社会保障審議会介護保険部会に示した文書に厚労省は「引き続き検討を行うことが適当」と記している。
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