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参院選後に打ち出した医療・介護費「負担増」の露骨

参院選後に打ち出した医療・介護費「負担増」の露骨

診療報酬改定を絡め「医療の給付カット」の動きも

医療保険制度改革を巡る政府内外の攻防が白熱化してきた。政府の社会保障制度改革の新たな司令塔「全世代型社会保障検討会議」のスケジュール感が当初の想定と違ってきたためだ。同会議は年金、介護と雇用を優先し、医療改革は来年から議論する予定だった。それがここへきて一転、医療の給付カット策に関しても年内にまとめる中間報
告に含めようという動きが出てきた。主導しているのは財務省で、2020年度の診療報酬改定も絡めて働き掛けを強めている。

 11月26日夕、首相官邸。第4回目となった全世代型社会保障検討会議では、75歳以上の医療費の窓口負担割合(原則1割)を2割に引き上げる案や、外来診療に訪れた患者の自己負担に一定額を上乗せする受診時定額負担などの医療改革案も議論された。安倍晋三首相は「医療等の分野も含め、年末の中間報告や来年夏の最終報告に向けて具体的な調整を進めていく必要がある」と微妙な言い回しに留めたのに対し、麻生太郎・副総理兼財務相は医療の負担増策について「機は熟した。中間報告でまとめて欲しい」と踏み込んだ。

医療絡めた「ワンパッケージ論」が浮上

 この日は経団連の中西宏明会長が「働き方も医療も介護も年金もワンパッケージで」と主張し、他にも「ワンパッケージ論」を口にする人が続いた。また、増田寛也・元総務相らは窓口負担増に関し「実施へ向け具体論を詰めるべきだ」と語った。

 一方、加藤勝信・厚生労働相は「医療の問題は、来年夏に向けて(厚労省の)関係審議会で具体的な検討をお願いする」と反論。厚労省の国立社会保障・人口問題研究所の遠藤久夫所長も慎重な姿勢を示し、財務VS厚労の構図が浮かび上がった。

 「医療は年が明けてから、という事だったと記憶している。齟齬が生じているんじゃないか」。検討会議の動向について、公明党の石田・政務調査会長は11月27日の記者会見で困惑を隠さなかった。

 政府の当初方針は、高齢者雇用、年金、介護の改革の方向性を12月の中間報告に記し、医療改革は来年6月の最終報告で、というものだった。だが財務省は、121兆円の社会保障給付費の3割を占め今後伸びていく事が確実な医療を「本丸」と見て、着々と布石を打ってきた。同会議の事務局には主計局の太田充局長、宇波弘貴次長や、厚労担当の一松旬主計官ら各世代のエース級を送り込み、首相官邸や安倍政権を仕切る経済産業省と調整してきた。財務省が消費増税に伴う国民への各種ポイント還元等に渋々協力したのは、消費増税を確実にすることとともに、「予防医療」に傾く経産省に医療改革で足並みを揃えてもらいたい、との思惑があったからこそだ。

 11月8日にあった第2回の検討会議。「メンバーに医療関係者がいない」との批判に応える形で、この日は横倉義武・日本医師会(日医)会長ら「3師会」の医療団体トップが呼ばれ、ヒアリングを受けた。医療界代表の出席は横倉氏が麻生財務相に談判して実現したとはいえ、横倉氏が動いたのは「財務省の動きに釘を刺さしておかないといけない」と考えたためだ。

 「75歳以上の2割負担」とともに財務省が虎視眈々と狙う受診時定額負担は、1回100円を上乗せして払うことなどを前提に「ワンコイン負担」とも呼ばれている。11月8日の検討会議で横倉氏はワンコイン負担について、「反対だ。患者の受診抑制に繋がり、重症化を招く」と訴えた。一方で75歳以上の窓口負担割合アップについては、「一律の線引き」による負担増には反対しつつ「負担能力に応じた形にしてもらいたい」と述べ、「低所得者への配慮」をすれば受け入れる姿勢を示唆した。

最大の焦点となった「ワンコイン負担」

 同検討会議の関係者は「ワンコイン負担は首相官邸も推している」と明かす。2018年度時点で39・2兆円の医療給付費は、高齢化がピークを迎える40年度に68・5兆円に膨らむと推計されており、このままでは現役世代の保険料の大幅アップが避けられないためだ。負担増に直結する経済界も財務省を後押しする。

 だが、75歳以上の窓口負担割合アップに対する全面反対の看板を下ろした日医も、ワンコイン負担には強く反対している。ワンコイン負担の導入案はこの十年来、医療制度改革を議論するたびに浮上しては萎んできた。反対派の主張は、負担出来ない患者が受診を我慢してしまうというものに加え、「健康な人は負担しないため、病人という弱者同士で助け合う制度となる。違和感がぬぐえない」(厚労省幹部)といったものだ。12月10日にあった自民党の「人生100年時代戦略本部」(本部長=岸田文雄・政調会長)の会合でも、反対論が圧倒的だった。

 財務省が全世代型社会保障検討会議の中間報告に「医療」も含めようとしていることに対し、自民党厚労族でつくる「国民医療を守る議員の会」は11月26日に総会を招集。「反対」をアピールした。それでも、明快な財源対策を持ち合わせているわけではない。政府はまだ医療改革の具体案づくりには踏み込まないものの、窓口負担割合については年齢によらず「応能負担」とする改革の方向性は書き込む方針で最終調整している。

 「年内」を意識する財務省について、厚労省幹部は「年末に決まる20年度診療報酬改定と絡めて日医を牽制できるとみての動きだ」と指摘する。実際、財務省は診療報酬改定を巡り、早々に「マイナス改定」の方針をぶち上げた。ただし、このところ恒例化している、「本体部分」と「薬価」を合わせた全体像でのマイナスだ。医療機関の収入となる本体部分に関しては若干のプラス改定となることも織り込んでいる。

 本体増額に充てる財源は、薬価の引き下げで賄う。用途が広がった薬について、類似の既存薬を参考に価格を引き下げる事等も厚労省と調整している。一方で、働き方改革に関連してスタッフを手厚くした医療機関を厚遇する事等は認める。こうした「アメ」をちらつかせる事で、日医など医療団体の納得を得たい考えだ。

 11月26日の全世代型社会保障検討会議の後、西村康稔・経済財政担当相は中間報告に医療を含めるかどうかについて、「今後の調整次第だと思う」と述べたが、調整の結果は財務省の粘り勝ちといったところだ。政府は医療改革と並行し、介護保険でも利用限度額のアップなど負担増を検討している。7月にあった参院選をにらみ、いずれも選挙後になって打ち出されたものばかりだ。

 「選挙前にだんまりを決め込む事は政治が決めた事だから大きな声では言えないが、選挙が終わった途端、年内に医療も介護も負担増をお願いしますなんて、露骨と言えば露骨だよな」。厚労族議員の1人は、そう言って苦笑いした。

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