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未来の会

「医療・介護ロボット」最新動向

「医療・介護ロボット」最新動向
生体の〝柔らかさ〟生かした「ソフトロボット」続々

人手不足が懸念される医療・介護分野でロボットの活用が期待される中、日本ロボット学会がこのほど東京・新宿区の早稲田大学内で開いた学術講演会で、医療・介護分野の最新ロボットの概要が発表され、実演デモも行われた。

 早大発のベンチャー、株式会社INOWA(東京・新宿区)は妊婦超音波検査ロボット「Tenang(テナン)」(写真①)を公開した。このロボットは妊婦の腹部にセンサーを接触させ、超音波検査を行う。センサーにバネを使い腹部に垂直に当てることで鮮明な画像を撮影したり、センサーをらせん状に動かすことで腹部に滑らかに接触し妊婦の痛みを軽減したりできる。

 今村紗英子社長は妊婦健診の現状と課題として「妊婦にとって健診場所は遠くて待ち時間が長い。また、超音波検査は産科医の技術の熟練度に依存している」と指摘する。

 その状況を変えるため、将来的には、Tenangをデータ取得端末として、データをクラウドに蓄積、人工知能(AI)が深層学習(ディープラーニング)により解析し、結果をパソコンやスマホなどで医師や妊婦に通知できるような遠隔でのロボット妊婦健診を想定する。INOWAは2020年度内に臨床試験向け製品モデルの完成を目指している。

がん腫瘍に正確に針刺し樹状細胞投与

 世界初の再発・進行がん根治に向けたがん治療ロボット「IRIS(アイリス)」(写真②)を開発したのは株式会社ROCK&LOTUS(東京・千代田区)だ。同社はHITV療法でのIRISの活用を想定している。

 HITV療法は末期がんや再発がんに対して行われる免疫療法だ。体内の異物に対して免疫細胞に攻撃命令を下す「樹状細胞」をがん腫瘍に直接投与し、がん細胞の目印(抗原)を認識させることで、殺傷力の高いCTL(キラーT細胞)を誘導し、がん細胞の消滅を図る。

 ただ、がん腫瘍に針を正確に刺して樹状細胞を注入するには高度なスキルが必要だ。極細い針はたわみやすく正確に刺すことが難しいが、IRISは針の左右を回転させるとともに、微細な振動を加えることで、正確にコントロールできる。また、CTスキャンを繰り返しながらがん腫瘍の位置を確認して針を刺すやり方と比べて、医師も患者もCTスキャンによる被ばく量を抑えることができる。

 ROCK&LOTUSは今後、臨床試験などを進めていき、2023年頃の実用化を目指している。

 株式会社オムツテック(東京・港区)は、被介護者のおむつに敷いて排泄の有無を検知し、自動通知できる「次世代オムツセンサー」(写真③)を発表した。センサーは電子回路が印刷されたオブラートに小型のICチップを貼り付けたもの。超薄型・小型で被介護者にとって装着時の違和感はない。センサーは水に濡れると、溶けて壊れる仕組みだ。

 排泄が行われる前に、ベッドに設けた受信機とセンサーの間で非接触通信を行い、ナースステーションや介護施設の管理室に信号を送る。排泄してセンサーが溶けると信号が停止するため、被介護者が排泄したことが分かる。

低コストで介護負担減・おむつセンサー

 排泄を検知するセンサーはこれまでもあったが、汚れる度に洗って再利用するため、衛生面に問題があったり、職員に負担がかかったりしていた。使い捨てタイプのセンサーもあるが、1回当たり500円程度のランニングコストがかかるため、継続的な利用が難しかった。一方、次世代オムツセンサーはベッドに設ける受信機に初期費用がかかるが、1枚当たり数円から数十円で生産できるため、ランニングコストを抑えられる。また、使い捨てにしても環境に問題のない素材を使っている。

 5年後には介護人材が約37万人不足すると予測されている。介護人材不足の要因の1つが排泄チェックの問題だ。斎藤こずえ取締役は「介護現場では2〜3時間ごとに排泄チェックが行われている。これは介護職員にとって、眠りを妨げられる被介護者にとっても大きな課題となっている」と述べ、次世代オムツセンサーによる検知で介護職員の見回り回数を減らすことができるメリットを強調した。オムツテックは20年度の商品化を目指している。

 東京工業大学・岡山大学発ベンチャー、株式会社s-muscle(エスマスル、岡山・倉敷市)は「細径空気圧人工筋肉」(写真④)を披露した。同社は空気圧駆動の柔軟な人工筋肉の研究開発・設計製造販売・用途開発に取り組む。“繊維のまち”倉敷らしく、人工筋肉はゴムチューブとそれを覆う繊維層から構成され、安全で軽量な駆動源としてパワーアシストウェアやロボット、福祉介護用具など幅広い応用が期待されている。

 今夏からは新規開発のゴムを使った高耐久の人工筋肉(EMシリーズ)の販売を始めた。ゴムチューブ外径が2mmのEM20と、4mmのEM40で、単純ぶら下がりの繰り返し伸縮動作で100万回以上の動作耐久が確認されているという。

 このようなロボットは、生体システムが持つ「柔らかさ」を生かす「ソフトロボット」の考えに基づいて開発された(写真⑤)。2010年頃から認知が広がった新しい学術領域で、文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究(2018〜22年度)「ソフトロボット学」が始まっている。

 s-muscle代表取締役で、同領域代表の鈴森康一・東京工大教授は「今までのロボットには速度・力・精度・確実性が求められてきたが、ソフトロボット学は従来の価値観とは真逆のロボットを創り出そうというプロジェクト。例えば、赤ちゃんを優しく抱きしめるロボットとか。“いい加減”も1つのキーワード」と説明する。

 

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