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第96回 消費増税「再見送り」を警戒する厚労省

第96回 消費増税「再見送り」を警戒する厚労省

kourou2 来年4月に予定している消費税率10%への引き上げをめぐり、安倍晋三首相の言い回しが微妙に変化している。政界では「増税延期の布石では」との見方も出始めた。財務省は「増税は予定通り」と全面否定するものの、社会保障費の新規財源の多くを消費増税分に頼る厚生労働省には、10%への増税が延期された「一昨年の悪夢」を思い起こす官僚が少なくない。

「税率10%への増税」に関し、首相は「リーマン・ショックや大震災のような事態が起こらない限り、確実に予定通り実施する」と繰り返してきた。2014年秋、15年10月に予定していた増税を1年半延期することを決めた際、首相は衆院を解散するとともに、増税法案から経済情勢の悪化時には増税を見送る「景気弾力条項」をなくし、増税先送りには法改正が必要な状況に自らを追い込んだ。 しかし、中国経済の減速や株価の下落といった国内外の不透明な経済情勢が続く中、今年になって首相の発言には言葉が追加されるようになった。

最初は1月19日。参院予算委員会で、増税先送りの条件として用いた「世界経済の大幅な収縮」という表現だ。さらに2月19日の衆院予算委では「世界経済の収縮が実際に起きているかの分析も踏まえ、(増税先送りの有無を)政治判断で決める」と強調した。菅義偉官房長官も同26日の記者会見で、「税収が上がらない状況で消費税を引き上げるという判断はあり得ない」と首相発言をフォローし、与野党内に「再び首相が増税先送りに動き始めた」との観測を呼んだ。 首相が3月1日、伊勢志摩サミットに向け、世界経済の情勢を議論する「国際金融経済分析会合」の設置を表明したことも臆測を広げた。こうした状況に厚労省は過敏にならざるを得ない。

14年秋の増税延期の際、増税分の充当を予定していた社会保障制度拡充案を土壇場で見直すよう迫られ、低年金の高齢者に最大月5000円を給付する低年金者対策や年金受給資格期間(25年)の10年への短縮の先送り、介護保険料軽減制度の縮小を余儀なくされ、介護報酬の大幅カットにもつながった。厚労省幹部は「あの時でさえ七転八倒し、予算を作った。また増税延期なら、低年金者対策や子育て支援の拡充は困難になる」と漏らす。 もっとも、当の安倍首相は「世界経済の大幅な収縮」との発言に関し「増税延期の条件となるリーマン・ショックのような事態とはどういうことか、との問いに答えただけ」と説明し、増税先送りを「個人消費の落ち込み」「株価の変動幅」などだけで判断することはない、との考えも重ねて示している。

3月1日の衆院財務金融委員会では、再び「リーマン・ショック、あるいは大震災級の出来事がない限り、来年予定通り消費税を引き上げていく考えだ」と強調してみせた。 それでも首相官邸は今年に入り、各省庁に増税延期に踏み切る条件について、「世界経済の大幅な収縮」という表現で足並みをそろえるよう指示を出している。自民党幹部は「首相は、増税見送りを争点に衆院を解散し、衆参ダブル選に持ち込む選択肢を作ろうとしている。ダブル選になれば、厚労省には泣いてもらうしかない」と語る。

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