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未来の会

アクティビストの功罪

アクティビストの功罪

物言う株主が市場を動かす時代

一昔前の株式市場に於いて、上場企業の経営者は株主軽視とも言える姿勢を取るのが当然の風潮が有ったが、今の時代、その様な事をしたら糾弾されてしまう。時代が変化してグローバル化が進展、株主の権利が尊重される様になる中で存在感を発揮しているのがアクティビスト、所謂物言う株主だ。アクティビストの動きによって上場企業が株主に対して利益還元を積極的に行う等株式市場が活性化するとの見方が有る一方、行き過ぎた要求によって企業に混乱を引き起こすリスクも生じる。嘗ては「ハゲタカ」等とも呼ばれ、忌み嫌われた事も有ったが、評価する声も多くなって来たアクティビストの功罪について探ってみたい。

株主の地位が向上する中でアクティビストが活躍

アクティビストは、投資先企業の経営方針や事業に積極的に働き掛ける株主を指す。日本語では「物言う株主」と言われ、株主を軽視する傾向が強かった昭和の考えから抜け出せない経営者にとっては煙たい存在だ。ある程度まとまった株式を保有して発言力を高めた上で、資産や事業の売却、コストカット、経営陣の交代を求める事が主な行動だ。最終的にはその会社の収益が向上する事によって株価が上昇、利益を得る事になる。

株主を軽視する風潮が強かった80年代のバブル期迄、企業の最高決定機関である株主総会は、如何に早く終了させ、株主が経営に口を挟まない様にするのが、最高の総会と言われた。議事を速やかに進行させる為に、総会を仕切る、所謂総会屋を雇い、経営に文句を言いそうな株主の意見を封殺する事も有った。総務部に総会屋担当を置く企業も在る程、会を無事に乗り切る事は重要なミッションだった。

一方、スキャンダル等を粗探しして、しつこい発言で総会を妨害する野党的な「総会屋」もいる。彼らは、現在のアクティビストの様に発言するのだが、「物言う株主」の方のアクティビストが企業価値向上を狙って行動しているのに対し、総会屋は質問を取り下げる事を取引条件に金銭を要求するというのだから、そもそも姿勢が違う。現在、総会屋はほぼ壊滅したが、アクティビストとは明確に区別されている。又、投機的な売買を繰り返す事で株価を吊り上げようとする投資家、或いは投資家グループを指す「仕手筋」は、何れも最終的には利益を追求するという意味ではアクティビストと同じではあるが、投機と投資とではスタンスが大きく異なる。

日本に於いても、グローバル化が進展した事も手伝い、広義の意味で株式市場が開かれた場となり、それに伴い企業も株主還元に力を注ぐ様になった。アクティビストが活躍出来る素地が世の中に出来たのである。

その一方で、緊張感を強いられる事になったのは企業だ。企業価値を向上させ、常に利益を上げる事を株主側から求められるが、結果が出なければ、経営陣の退陣を求められるというケースも今や少なくない時代になったからである。実際、纏まった株式を保有している事を武器として提案を活発化する向きも有り、それを受け入れさせられ、配当金の増加など様々な資本政策を実施する企業が増えて来た。

圧力によって株主還元を積極化するケースも

アクティビストの存在そのものが圧力となり、株主還元を積極的に行うケースも見受けられる。今年2月に、中期経営計画の策定や自社株買いのニュースで注目された愛知製鋼は、その典型例と言える。

同社はトヨタ自動車系で唯一と言える素材メーカーで、本社は社名の通りで愛知県に在る。株主還元に積極的な企業とは言い難かったが、2025年3月期〜27年3月期の3カ年の株主還元を400億円超引き上げる他、24〜30年度に成長投資として約1000億円を充てるとする経営計画を策定。間を置かず、自己株式を除く発行済み株式の3・3%に相当する65万株、43億9400万円を上限に自社株買いをすると発表した。

これらは当然の事ながら買い材料で株価は上昇した。実は、これらの実施には伏線が存在する。同社に狙いを定めたかの様に株式を購入していたアクティビストが株式保有比率を引き上げた事が大きい。

この件に介入したのは、国内系の代表的な存在として知られる旧村上ファンド系の投資会社数社。24年9月に突如5・08%を取得したとの報告書を関東財務局に提出してから、その後も買い増しし、25年2月には所有株数が増えて9・67%迄増加している。保有目的として「投資及び状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為等を行う事」としているものの、実際に村上氏が何を目的にして、どの様に考えているのかは分からない。

そして、愛知製鋼側では、株主還元を含む中期計画を策定した訳だが、これら一連の施策を発表したタイミングが、旧村上ファンドの買い増しが明らかになった直後だけに、市場では経営陣がアクティビストの圧力に屈したとの見方が広がった。同社の後藤尚英社長は記者会見の席上で一連の施策に関し「足元でアクティビストが株式保有比率を引き上げる動きが有るが、しっかり話し合って行く」と述べた上で「株主還元の強化はこれ迄準備して来た事で(買い増しが)直接引き金になった訳ではない」と圧力が理由ではないと示した。会社側では否定しているものの、アクティビストの存在が株主還元を急がせた事は想像に難くない。アクティビストの存在は既存の投資家にとって、朗報となったケースと言えそうだ。

株主提案数は過去最高の水準に

仕手筋や総会屋といった特殊株主が多かった時代と異なり、愛知製鋼のケースの様に現在は経営改革に繋がる提言も増え、それが株価上昇に結び付いた例も多い。

例えば、世界最大規模の米投資ファンド「エリオット・マネジメント」が投資した大日本印刷のケースを挙げてみる。両者は複数回に亘って面談を行い、ファンド側が不動産売却や自社株買いの提案した後、会社側はこれらの提案を含む中期経営計画を策定。同社の株価はこのファンドが投資してから1年半で2倍近く迄上昇した。この他著名な例では、香港の「オアシス・マネジメント」による北越コーポレーション、アメリカの「バリューアクト・キャピタル」によるオリンパス、シンガポールの「エフィッシモ・キャピタル・マネージメント」による学研ホールディングス等が注目された。

さて、どれ位のアクティビストが行動を実際に起こしたかというと、24年6月株主総会シーズンの株主提案数は113社と過去最高を更新。内アクティビスト等の機関投資家による株主提案数は59社と前年61社に引き続き高水準で推移した。恐らく、25年6月株主総会シーズンに向けても、アクティビストの活動は更に活発化すると想定されている。実際、一部のアクティビストは24年7〜12月に書簡送付、株主提案等を公表したという。

企業側は「上場する意味」が問われる事も

だが、こうしたアクティビストの行動が全てハッピーであるとは言い切れない。嘗て「ハゲタカ」と呼ばれた様な、会社を食い物にする様な「物言う株主」が存在する事も事実だからだ。

アクティビストによる企業価値向上に向けての聖域無き検討要求が強まり、企業価値向上に向けての説明責任が高まる一方、過度な要求をするケースも少なくない。自らがスポンサーとなって買収提案を仕掛ける例も有り、アクティビストの活動が経営リスクになる事もしばしば。過度な要求に対しては断固拒絶する姿勢が企業側に求められている。

一方、買収逃れや、経営者交代を迫るアクティビストの提案を避ける為に、非上場を選択する企業が増加中。24年には、永谷園やベネッセ、ローソン等の著名企業ほか94社が東京証券取引所で上場廃止となった。こうなると、そもそも株式上場とは何なのか? との疑問も生じるだろう。アクティビストの活躍は、市場を活性化させるのは確かだが、その一方で、同意無き買収リスクを高める事で、企業に「上場する意味」を改めて問う事になりそうだ。

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