
連載第176回でニルセビマブ、177回でパリビズマブを取り上げ、新生児のRSウイルス(以下RSV)感染による重症化を防止するとの目的で販売されているモノクローナル抗体は、いずれも効力は疑問で、害が大きく、使用すべきでないことを述べた。では、妊婦に接種して、児のRSVによる下気道疾患防止を目的として、2024年に使用が開始されたRSVワクチンのアブリスボ®はどうか。薬のチェック誌で詳細に分析したので1)、その概略を紹介する。なお、同製剤は、60歳以上の高齢者のRSウイルスによる感染症予防でも承認されており、その点も同時に検討した。
RSV感染抑制効果は見かけのみ
アブリスボ®はRSVが感染する際に利用するF-たんぱく質を遺伝子組み換えで作成したワクチンである。妊娠24〜36週の妊婦に接種して、児のRSV感染による「受診下気道疾患(MA-LRTI)」の抑制を検討したプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)で、生後90日までの抑制率81.8%、生後180日までは69.4%と報告され、これが添付文書上で公式のワクチン効力とされている。しかし、額面通りに受け取ることはできない。
第1に、全MA-LRTIはどの時期も、両群で差がなかった。検査陽性のMA-LRTIは減少したが、検査陰性のMA-LRTIが増加したからである。
第2に割付に偏りが強く疑われ、第3に、妊婦にも児にも、重度または命にかかわる有害事象が有意に多かった。
検査陽性RSV感染は減少、陰性感染は増加
生後180日までの検査陽性のMA-LRTIは、アブリスボ群1.6%で、プラセボ群の3.4%よりも1.8%少ないが、陰性MA-LRTIが9.6%とプラセボ群の8.2%よりも1.4%多く、合計は11.2%と11.6%で差はなかった。検査が偽陰性化したか、あるいは、RSV感染が抑制され、他のウイルス感染が増加した可能性が考えられる結果であった。
割付けの偏りを強く示唆する結果
本来RCTでは、無作為割付がなされるため、先天奇形など感染症が無関係な疾患には影響はないはずである。ところが、ワクチン群よりもプラセボ群の児に重度の先天奇形が有意に多く(26%増、p=0.038)、総死亡も多い傾向があった(5人対11人、p=0.13)。このことは、試験対象者(妊婦)の割付が、ワクチン群に有利(より健康)に偏っていたことを強く示唆する。
接種後妊婦と児に重度または致命的有害事象
ワクチン接種妊婦に、接種後1カ月間に生じた重度または命にかかわる有害事象が45%増(p=0.032)、特に妊娠高血圧腎症2.4倍(p=0.032)、重度早産が3.8倍(p=0.041)と有意に多かった。
児の生後1カ月間の重度または命にかかわる有害事象も、ワクチン群に2割以上多かった(p=0.088)。割付がワクチン群に有利であったと考えられるにもかかわらずである。
高齢者対象でも圧倒的に害が大きい
60歳以上に対する試験ではRSV陽性の下気道疾患の減少は微々たるもので、有害事象としての呼吸器疾患の増加で相殺され、効力はなかった。また、死亡を含め重度以上の有害事象のワクチンによる増加分は、RSV感染の減少分の数倍に及び、しかも自己免疫性末梢神経障害が増える傾向にあり、害が目立っていた。
結論
アブリスボ®は、新生児の重症RSV感染による下気道疾患を防止する目的での妊婦への接種も、高齢者に対しても推奨しない。
参考文献
1)薬のチェック、2025:25(118):28-33
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