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未来の会

第50回「精神医療ダークサイト」最新事情
殺人隠蔽、懲罰拘束、医師法違反……

第50回「精神医療ダークサイト」最新事情殺人隠蔽、懲罰拘束、医師法違反……
地獄病院が存在し続ける日本を嘆く

この連載のタイトル「精神医療ダークサイド」は、2013年に上梓した講談社現代新書の本のタイトルでもある。同書は10数年前の精神医療の闇がてんこ盛りだが、タイトルを「ブラック精神医療」にしなかったのは理由がある。精神医療界には、以前紹介した笠陽一郎さんのような医師も存在し、「ブライトサイド」が確かにあるからだ。

この連載でもブライトサイドを度々書いてきた。前回は、「民間精神科病院撲滅」を目指す市民らがへそを曲げるのは覚悟の上で、頑張っている病院を取り上げた。その続きで、今回もブライトサイド病院を紹介する予定だったのだが、民間病院のおぞましさがまたも暴かれてしまった。

25年2月、青森県八戸市の医療法人杏林会みちのく記念病院(精神病床を中心とする413床)で、医師2人(理事長の石山隆容疑者と弟の石山哲容疑者)が犯人隠避の容疑で逮捕された。院内で起こった殺人事件を隠蔽するため、被害者の死亡診断書に「肺炎」と嘘の死因を記入させた疑いがある。こんなことがまかり通ったら医療への信頼が地に堕ちるので、心ならずも、またダークサイドを書かざるを得ない。

殺人事件は23年3月12日深夜に起こった。50代の男が、同室の70代男性患者の目のあたりを歯ブラシの柄で突きまくり、深刻な負傷を負わせた。看護師が騒動に気づき、男は自分がやったことを認めたが、同病院は男を隔離しただけで警察に通報しなかった。事件発生時、院内に石山兄弟はおらず、看護師が電話をしても駆けつける様子がなかったため、十分な対応ができなかった。男性はそのまま放置され、翌朝までに死亡したとみられる。

みちのく記念病院(筆者撮影)

翌朝、病院に現れた石山兄弟は責任追及を恐れ、殺人をなかったことにしようと企んだ疑いがある。筆者が昨年から得ていた情報によると、「肺炎」の死亡診断書を書いたのは、同病院に認知症で入院していた80代医師の可能性がある。以前は同病院に勤務していたというが、既に正常な判断ができる状態ではなかったようだ。さらに同病院は、遺体の頭部などを包帯でグルグル巻きにして遺族に負傷を隠し、火葬を急がせたとされる。同病院から内部通報があり、火葬前に警察が遺体を確保したことで事件が発覚したが、なんとも手慣れた印象を受ける。

この事件の闇は深い。内部関係者は筆者に「以前から看護師の勝手な判断で、多くの患者を紐で縛っていた。懲罰で拘束することがよくあった」と明かす。犯人の男は懲役17年の青森地裁判決が確定したが、犯行動機を「懲罰の抑制が嫌だった。事件を起こせば逮捕されて退院できると思った」と語っている。男を異常な心理に追い込んだのは、異常極まりない病院だったのである。

事件発生時、被害者も紐で縛られていた。判決文はこう書いている。「就寝前に看護師によって両手をベッド柵に紐で縛り付けられていた被害者は、逃げることも身を守ることも困難な状況の中で、突然、理由も分からないまま執拗な攻撃を加えられ、耐えがたい苦痛の中で命を失っており、その無念さは察するに余りある」。まさに生き地獄である。

なぜ、こんな地獄病院が今も存在するのか。すっとぼけることだけが巧みで、惨事が起こらないと何もしない日本という国がホトホト嫌になる。


ジャーナリスト:佐藤 光展

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