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病院の経営悪化で危機的状況に悲鳴上がる

病院の経営悪化で危機的状況に悲鳴上がる

診療報酬改定が追い付かず、5病院団体が記者会見


経営面で苦境に陥る病院が相次いでいる。物品費や光熱費の高騰、医師の働き方改革に伴う人件費アップ等、収益を圧迫する要素は事欠かない。だが、収入の柱は診療報酬という公定価格だけに、柔軟に値上げする事が儘ならない。診療報酬改定は2年に1度。次は26年度改定を待たねばならないが、病院側からは「このまま25年度を迎える事は非常に危険だ」(望月泉全国自治体病院協議会長)と悲鳴が上がっている。

 「24年度診療報酬改定で医療従事者の処遇改善等が図られたが、更なる病院の持ち出しも有って病院の経営状況は一段と悪化し、危機的な状況となっている」「危機的状況が余り知られていない。一度破綻すると再構築は非常に難しい」

 1月22日、5病院団体による記者会見で、太田圭洋・日本医療法人協会副会長はこう語り、民間の病院経営は抜き差しならない状況に在ると訴えた。

 この日、5病院団体は福岡資麿厚生労働相に緊急要望書を提出した。①病院に対する緊急的財政支援の実施、②診療報酬に物価・賃金に適切に対応出来る仕組みを導入、③社会保障予算の伸びを高齢化の伸びの範囲内とする取り扱いの見直し——といった内容だ。

 経営難の要因として、5団体は24年度の診療報酬改定(本体)が0・88%増に止まった一方で、物価は3%近く上昇し、医療従事者の処遇改善を求められた事、公定価格の診療報酬の場合、物価上昇分を価格転嫁出来ない事等を挙げた。そして各団体の代表は「会員から銀行に全く融資して貰えなくなったと聞く」(加納繁照日本医療法人協会長)、「経営が非常に厳しいのは収入増を遙かに上回るスピードで経費が増えているためだ」(相澤孝夫日本病院会長)等と、口々に危機感を露わにした。

 病院の危機的状況はデータにも表れている。日本病院会等3団体による「24年度病院経営定期調査」によると、22年度と23年度の状況(稼働病床100床当たり)を比べた所、▽経常利益(コロナ補助金含む)は22年度が1億3344万円の黒字だったのに、23年度は3722万円の赤字に転落▽医業が赤字の病院の割合は両年度とも約75%に達する。又、経常赤字の病院は22年度が23%なのに対し、23年度は53・4%。23年度の場合、コロナ補助金を除くと65・3%の病院は経常赤字と言う。

 24年度診療報酬改定の影響を見る為、改定前の23年6月とプラス改訂後の24年6月で比べても、医業利益率、経常利益率ともマイナスになったと言い、病院関係者からは「24年度改定は実質マイナス改定だ」との恨みも漏れる。

 苦しいのは自治体病院も同様だ。23年度上半期と24年度上半期を比べると、医業収益は1・8%増えたものの、経費(3・5%増)が大きく上回り、増収減益となっている。自治体病院協の望月会長によると、24年度は10億円超の赤字病院が出て来るという。

 人口減少に伴って患者の数自体も減っており、病院経営は元々過酷さを増していた。一般病院の1日当たり平均外来患者数は123万人(23年)。ピークだった00年(181万人)からすると3割落ち込んでいる。病床利用率も70%台に止まり、空きベッドが病院経営を圧迫している。厚労省が旗を振る、医療機関の再編による病床削減は遅々として進まない。

 東京都内の中規模の民間病院長は、24年度は赤字転落が避けられない、と嘆く。診療報酬本体の改定率が大きく伸びない中、診療報酬の各種加算を取る事を重視して来たと言うが、「専門的な人員の採用、設備の導入、事務作業増等のコストが膨らみ、思う様な経営改善が出来ない」と話す。

 消費税も病院に重くのし掛かる。病院は薬や機材、物品を買う際、消費税を払う。一方で医療費は非課税の為、患者からは消費税を受け取る事が出来ない。診療報酬改定時に消費税相当分の補填はされていても、トータルすれば持ち出しが多いと言い、この病院長は「高額の設備投資をすれば消費税も膨らむ。私の所でも百万円単位の負担増になっている」と顔をしかめる。病院側の訴えを踏まえ、厚労省は入院時の食事療養費を25年度から20円引き上げる事を決めた。2月12日には「令和6年度医療施設等経営強化緊急支援事業の実施について」との通知を出し、24年度補正予算に計上した病院への支援事業の詳細を明らかにした。▽今年度に賃上げをした病院等に関し、許可病床1床に付き4万円を補助▽補正予算成立後から今年度末迄に病床を減らす病院等には、削減病床1床に付き410万4000円を補助——等だ。

早急に求められる診療報酬の見直し

只、病院収入の柱の1つ、診療報酬の入院基本料は消費税率アップへの対応等を除くと12年度からほぼ据え置かれている。物価や人件費の上昇、市中ホテルの料金もアップしている事を踏まえれば診療報酬で対応すべき、というのが病院団体側の言い分だ。病院の危機的状況に関しては1月15日の中央社会保険医療協議会でも議論となり、長島公之日本医師会常任理事は「診療報酬に物価や賃金上昇にタイムリーに対応する何らかの仕組みの導入が必要だ」と指摘した。

  だが、診療報酬を柔軟に見直す事は難しいという。厚労省の中堅は「物価や賃金が定量的に変動するならともかく、実態は絶え間無く変動している。2年に1度の診療報酬改定では対応出来ない」と話す。「診療報酬でも薬価は毎年改定に変わったが、市場価格を見ていればいい。その点、本体は改定項目の検証が必要だ。毎年、検証結果を改定に反映させて行くなんて出来っこ無い」と言い切る。診療報酬をインフレに対応させる改定は70年代に一時行われたという。只、当時は医療費も大幅に伸びていた時代だ。今なら「デフレ時はマイナス改定にすべきだ」と財務省が主張するのは目に見えている。又、診療報酬の各項目には技術的な評価が込められているが、物価等の増減で変わるなら評価の根拠が揺らぎ兼ねない。日本病院会の相澤会長は2月18日の記者会見で「(診療報酬での対応が困難というなら)例えば入院環境料等の名目で、1日1000円や2000円といった特別負担を患者に求める事等も考えなければいけなくなる」と踏み込んだ。

 或る病院関係者は「医療機関が出来る確かな増収策は差額ベッドを増やす事だ」と言う。民間病院なら病床の5割まで差額ベッドにする事が可能だ。厚労省の調べでは、23年の差額ベッド数は26万6024床と全体の2割を占める。人口減が続く地方は1日5000円程度の所が多い様だが、東京や大阪の場合、個室なら5万円台の病院も有る。特別室扱いで数十万円を徴収する施設も有る。

 筆者の身内が都内の大学病院に入院した際、差額ベッド代を巡って病院側とやり合った事が有る。仕組みをよく知らない家人に対し、病院側は個室に入らざるを得ないかの様に巧みに誘導し、同意書にサインをさせていた。退院時、1日当たり2万円近い差額ベッド代を請求されたと知り、筆者は病院を訪ねて同意書の不備を強く主張した。その結果、その時は病院側が折れて差額ベッド代の徴収を諦めたものの、似た手法で収益を得ている病院は少なくないと思われる。

 何とか経営を維持する為、CT等医療機器更新の延期を検討している病院も少なくないと言い、病院団体側は「この状況を何とかしないと、我が国の病院医療は崩壊して行くと危惧している」(相澤会長)との切迫感を共有している。

 帝国データバンクによると、24年に倒産した病院は6件、休廃業・解散は17件だった。厚労省は40年迄の「新たな地域医療構想」で地域の実情に合わせた数の病床を配置しようとしている。だが、このままでは必要な病床数を確保出来ず、必要とする医療を受けられない人が出て来る事が懸念される。日本の高度な医療が沈没する事だけは回避して欲しい。

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