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未来の会

第89回 厚労省人事ウォッチング
成功するか!? 厚労省のアルムナイ採用

第89回 厚労省人事ウォッチング成功するか!? 厚労省のアルムナイ採用

 転職等で会社を退職した元社員を再び雇う「アルムナイ採用」が霞が関で脚光を浴びている。若手の退職が相次ぐ厚生労働省の元キャリア官僚で構成されるアルムナイの会のメンバーは50〜60人に上るという。厚労省人事課はこうした人材の採用に本腰を入れ始めたが課題は多い。

 アルムナイは卒業生や同窓生を意味する英単語だ。採用や教育にコストを掛けずに即戦力を採用出来るとして民間企業を中心に浸透しつつある。働く側としても慣れた職場である為、双方にメリットが有るとして広がりを見せている。中堅や若手官僚の退職が相次ぐ霞が関でもアルムナイ採用は注目を集めており、厚労省でも伊原和人事務次官を筆頭に熱心だという。厚労省アルムナイの会は、医政局医療政策企画官だった千正康裕氏を中心に年に数回程会合を開き、近況報告や情報交換をしているという。メンバーは20〜30代が多く、この世代で8〜9割を占める。外資系コンサルやベンチャー企業への転職が多いものの、大学教員や弁護士、社会福祉法人職員等に転じるケースも有るという。医師免許を持つ医系技官でも中堅・若手の流出が止まらず、同様に別のアルムナイの会が有るという。

 厚労省を辞めた元キャリア官僚は「厚労省時代の激務から解放されて、のびのびと生活していたり、外資系コンサルタントに転身して年収が2倍になったりした人もいる。しかし、元々は公共の精神を持っていただけに、民間企業に転職して皆がやり甲斐を感じて幸せになっている訳でもなさそうだ」と明かす。こうした状況を見逃さず、先日、厚労省人事課とアルムナイのメンバーで懇親会が開かれたという。厚労省の目的はアルムナイ採用に向けたスカウトだ。地方自治体や民間企業からの中途採用で補充している厚労省だが元キャリア官僚は即戦力だけに喉から手が出る程欲しい人材だ。

 「只、アルムナイ採用はそんな簡単には行かない」と指摘するのは、先述の元キャリア官僚だ。厚労省内に民間企業時代の実績を評価する基準が無いのが問題だと言う。例えば、20代で民間企業に転職し、30代で厚労省に再び採用されても、20代の時と同じ階級で働くケースも有るという。「民間企業での実績が全く評価されないのであれば、厚労省に戻るインセンティブは無い」(先述の元キャリア官僚)との声が漏れる。一方、厚労省幹部は「厚労省で歯を食いしばって働き続けている人材と、民間企業で様々な経験を積んでいるとは言え、厚労省から一時的にいなくなった出戻りの人材を同じ様に評価するのは感情的にも難しい」と苦しい胸の内を吐露する。

 更に働き方改革が進み、嘗て程には残業しなくなったとは言え、未だに労働時間は多い。別の元キャリア官僚は「現在の厚労省の働き方を聞いている限り、子供が大きくなる迄、今の生活スタイルを変えて戻る事は出来ない。年収を大きく増やした人も戻るのは難しいのではないか」等、複数の課題を挙げる。既に何人かアルムナイ採用に成功している厚労省だが、それに続く人材が現れるかは複数の元キャリア官僚が指摘する課題を解決出来るかに掛かっている。民間企業で経験を積んだ元官僚を再び採用するのは組織が活性化するといったメリットも期待出来る。現状で抱える課題を解消して、アルムナイ採用を進められるかは不透明だが、他の省庁は厚労省の成功事例に興味津々だ。

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