
認知症施策推進基本計画(基本計画)が2024年末、閣議決定された。「同年施行の共生社会の実現を推進するための認知症基本法(基本法)」に基づき、認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることが出来るという「新しい認知症観」を打ち出している。厚生労働省幹部は19年に決定された「認知症施策推進大綱(大綱)」からの流れを振り返り「漸く此処まで来た。次は自治体がどう取り組むかだ」と話す。
認知症に対しては依然、「何も分からなくなる」との根強い偏見が無くならず、社会的に孤立している当事者、家族は少なくない。40年には高齢者の3人に1人が認知症やその前段の軽度認知障害になると推計され、誰もが当事者に成り得る。基本計画は認知症の人の意思が尊重されない現状を改善する狙いを込め、認知症の人の社会参加機会の確保等を謳っている。
計画は29年迄の5年間が対象だ。当事者の視点を踏まえ、①学校や職場で認知症への理解を深める教育を推進、②認知症の人に便利な交通手段の確保、製品やサービスの開発、③本人ミーティングの開催やピアサポート活動の推進、④認知症の原因解明や診断法、治療法に関する研究を推進——等12の基本的施策を推進するとしている。
「経済産業省色をかなり薄める事は出来た」。基本計画に関し、厚労省幹部はそう語る。国の認知症の施策を巡っては、認知症の人との「共生」に重きを置く同省と、ヘルスケア産業の振興に結び付けたい経産省との綱引きが続いて来た。経産省が幅を利かせていた安倍晋三元首相政権下で策定された「大綱」は、認知症の「予防」が前面に出ていた。「認知症になった人は予防を怠った人、という誤解を助長する」との批判を受け、予防に関する数値目標等は削除されたものの、「認知症になるのを遅らせる」「認知症の進行を緩やかにする」という趣旨の予防が強調された。
これを受けた基本法の制定も曲折が有った。19年6月に国会に提出された与党案は第1条で「予防等の推進」に触れた上で、「施策の推進」を重視していた。しかし、認知症の人と家族の会等、当事者団体等からは認知症の人の権利や尊厳の保持を求める声が高まった。「当事者中心の法律に」との要望に与党も折れ、仕切り直しとなった。
そして21年6月には超党派の議員連盟が発足、当事者も加わって議論を進め、23年6月に基本法として成立する。第1条からは「予防」の文言が消え、「認知症の人との共生社会の実現」を目的とした内容となった。
この基本法で国の責務とされたのが、今回の基本計画策定だ。計画では基本法に沿って「当事者の参加」が重視され、「予防」に関するトーンは弱められた。基本法の議論を見守って来た厚労省幹部は「やはり当事者の方や家族が議論に入った事が大きかった」と言う。
基本法は都道府県や市区町村には当事者や家族の声を聞き、国の基本計画に沿った推進計画の策定をする努力義務を課している。今後は自治体による当事者らの意向を踏まえた計画作りや施策の展開がポイントとなる。只、国の基本計画も理念が中心で、「何が出来るのか」と困惑している自治体も少なくない。こうした自治体に対する国の支援が不可欠となる。
厚労省幹部は「基本法、基本計画は当初想定していた内容に近いものに落ち着いた」と言いつつ、自治体の動向には懸念も口にする。「まだまだ自治体による温度差が大きい。しっかりと支え、『形だけ整えればいい』という市区町村に目を光らせる必要がある」。
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