
近年、経済発展が進むアジア諸国では、健康への意識や予防医療に対する関心が高まっており、高額の医療費を払っても高度な医療や健診を受けたいという富裕層は少なくない。実際、外国人患者の受け入れを行っているシンガポールやタイ、韓国には多くの外国人が治療目的で訪れている。
2023年3月には、政府による「観光立国推進基本計画」の閣議決定が新たに行われ、これに伴い厚生労働省でも日本の先進医療や健診と観光コンテンツの融合実証実験等を行う等、民間医療機関の支援を始めた。こうした流れを受け、全国各地で健診や健康作りからがんの先進医療まで、様々な取り組みが行われている。
ホスピタリティと最先端医療の融合
医療ツーリズムへの注目が集まる中、リゾートトラストは、国内ヘルスケア関連産業の成長や地域経済の活性化に繋げて行く事を目標に、三菱商事との連携に関するニュースリリースを2024年11月14日付で発表した。全国で会員制リゾートホテルを経営しているリゾートトラストは、1994年にメディカル事業に参入。会員制の強みを活かし、手厚く高級志向の健診サービスを提供して来た。
その後、2007年に東京・六本木に、健診やドックの他、多様な診療科が揃う東京ミッドタウンクリニックを開業し、実績を重ねて来た。更に、10年から注力しているのが先端医療分野に於ける臨床・研究で、特にプレシジョン・メディシン(個別化医療)については、グループ内の東京ミッドタウン先端医療研究所と連携し、次世代シークエンサーを用いた「リキッドバイオプシー検査」を全国に先駆けて導入。患者1人1人のがんを遺伝子レベルで解析して治療法を提案する「がんゲノム医療」にも力を入れている。他にも、重大疾患の早期治療・予防の選択肢として、幹細胞治療の提供も開始している。
三菱商事との連携では、元々の強みである観光事業やホテル運営等のノウハウに加えて、こうした先端医療技術を臨床に生かしているミッドタウンクリニックの存在が大きな役割を担う。
国際基準の医療を日本の中心地から

ミッドタウンクリニックは、立ち上げ時より「国際スタンダードの医療を提供する」という理念の下、世界水準の医療を提供すべく患者の安全確保と医療の質向上を目指して来た。
15年には、同クリニックの4部門(一般外来、人間ドック、健康診断、特別診察室)が、国際的な医療機能評価機関JCIから、日本のクリニックとして初めての認証(外来診療プログラム)を受けている。これは、国際基準の機能を持つ医療機関として認められた事を意味し、「国際基準の医療サービスとホスピタリティ」を掲げる法人にとって、理想の実現への一里塚となった。
又、20年には東京・日本橋にも一般内科や検診を行う「日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック」を開設。同じくホスピタリティに拘わった医療サービスを提供している。両クリニック共、一般内科等の外来診療や健康診断等に加えて、先述の最先端治療を実施する他、訪日外国人向けの人間ドックや、高精度な検査を希望する外国人エグゼクティブ向けの先進機器を使ったプレミアム人間ドックを用意している。プライバシーが守られる特別診察室での検診で、待ち時間が極力短くなる様に徹底されたオペレーションの下、コンシェルジュによるエスコートも完備。既に外国の富裕層を受け入れる態勢はほぼ整っていると言える。
アジアの富裕層へ照準。国際経験を融合
今回の連携では、医療ツーリズムを一層推進する為、リゾートトラストグループ内でエイジングケアを手掛けるアドバンスト・メディカル・ケアと三菱商事の両社の合弁会社のNoage Internationalを設立。ミッドタウンクリニックへの支援態勢を強化する。
具体的には、日本の検診技術やヘルスケアサービスに対する海外のニーズを探る為、アジア諸国の市場調査を実施する他、治療や検診を希望する訪日外国人を日本へ送り出すスキームの構築に向けた検討を行う。現状の送客プロセスの課題を洗い出した上で、強化施策を打ち出して行く予定だ。又、三菱商事のグループ会社、インダストリー・ワン、エムシーデジタルと共に開発を進めているAI技術を駆使した医療特化型多言語コミュニケーションツールの有効性についても、同クリニックで検証を進め、実用化を目指す。
これに呼応して、ミッドタウンクリニックも訪日外国人向け検診事業の拡大を図る。現在、休診日となっている土・日曜を稼働し、年間60日、診察日を増やす予定で、その他にも新たなサービスの開発に取り組む。メインターゲットは、東南アジアや中国の富裕層や企業で、先進医療に興味の有る人達の個人旅行の他、社員旅行の受け入れ等を目指す。旅行や観光に人間ドックの受診をセットにした旅行商品の開発も検討している。
更に、三菱商事の国際事業の知見を、日本の医療機関の海外マーケティング強化や、外国人患者を日本に受け入れるスキームの構築に生かして行く方針だ。又、外国人患者の受け入れ態勢の充実に向けては医療現場の効率化も欠かせない為、AIソリューションの導入等の取り組みを支援し、外国人患者の受け入れが可能な医療機関の拡大も図る。
「ウェルネスツーリズム」を見据えて
日本の医療の質の高さは世界的にも高い評価を受けており、海外の富裕層の間では、日本での受診を望む声が高まっている。今後は観光だけでなく、健康を求めて日本を訪れる新たな流れが益々加速する。リゾートトラストと三菱商事、ミッドタウンクリニックがその先に目指すのは、「ウェルネスツーリズム」だ。単に病気を治すだけでなく、文化や自然に触れ、様々な体験を通して心の癒やしや新たな発見を得る事で、心身の健康に繋げる。そうした、「より良い生き方を追求する旅」を日本で実現して欲しいとの願いが、本事業の根底には込められている。
ミッドタウンクリニックは、訪日客を医療と観光の両面から支え、心身共に健やかに笑顔で帰国する姿が当たり前となる未来を目指し、日本の医療ツーリズムを牽引して行く。
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