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未来の会

第195回 政界サーチ 政治の激動孕み通常国会始まる

第195回 政界サーチ 政治の激動孕み通常国会始まる

政変を孕みながら2025年の通常国会が揺れている。当面の山場は3月末から4月初めが想定される当初予算案の成立だ。国民生活に大きく影響する為、成立は確保される見通しだが、石破茂政権にとっては行く末を左右する重要な局面となる。予算成立を契機に自民党内で「石破降ろし」が吹き荒れ、「予算花道論」で辞任に追い込まれるのか。或いは、予算成立を政権浮揚のきっかけとし、政権運営に弾みを付けられるのか。昭和100年、戦後80年の節目となる巳年の政局は、初っ端から目を離せない展開になっている。

 少数与党に陥った石破政権は、そもそも国政に↘空白を生じさせない為の緊急避難内閣である。「普通の内閣」になる為に乗り越えるべき壁は2つ。1つは、当初予算の成立、もう1つは国政選挙での勝利とされる。躓けばその時点で終わりだ。

 石破首相に近い自民党幹部が語る。

 「厳しい日々だが、その中で、首相は平身低頭、心を尽くしている。その誠意が国民に伝わるかどうかで展開が変わる筈だ。同じ少数与党で政権運営に行き詰まった韓国の政治状況が反面教師になると俺は思う」

 隣国の韓国では、尹錫悦大統領が昨年12月3日、予算案に合意しない野党側の対応等を理由に一切の政治活動を禁じる等とした「非常戒厳を宣布す↘る」と発表したのを契機に政治混乱が続いている。大元の原因は少数与党で、政権運営に行き詰まった末の事だった。国家の予算は経済や国民生活に大きく影響する。隣国の混乱ぶりから、国民の不安感を煽る様な予算審議にはならないだろうというのが与野党の暗黙の了解になっている。多少の修正は有っても当初予算は成立させるというのが専らの見方だ。

 政局の鍵になるのは予算成立時点での内閣支持率だという。ストレートに言うと、国会での予算審議を通じた野党との連携の動きを国民が多少なりとも評価し、支持率が改善すれば石破政権に続投の芽が出るという事らしい。この幹部によると、注目しているのは相対的にニュートラルだというNHKの↖世論調査だ。因みに昨年12月の調査は支持38%、不支持38%と同率だった。予算成立前後に支持が不支持を「それと分かる程度」に上回る事が必要条件だという。「党内がある程度納得するには4、5ポイント抜けないといけない」というのがこの幹部の見立てだ。

 参考迄に、NHK以外の報道各社の昨年12月調査を見ると、読売新聞が支持39%、不支持48%、朝日新聞が支持36%、不支持43%、毎日新聞が支持30%、不支持53%。NHK調査での支持率改善は最もハードルが低そうだが、国民の支持回復に「兆し」が感じられれば後の展開が望めるという事らしい。裏を返せば、支持率に回復傾向が見られなければ、「石破首相では夏の参院選は戦えない」という声が噴き出して退陣に追い込まれるという見通しなのだ。

 この場合、石破首相は予算成立後に辞任し、新たな総裁が選ばれる事になる。とは言うものの少数与党なのだから、新総裁がすんなり首相になれる訳ではない。石破首相と同様に国民新党等野党勢力の一部が自民党に協力姿勢を示さなければ、政権が野党に移る可能性すら有る。只、野党各党は参院選をメインターゲットに置いており、首相取りへの消極姿勢も滲ませている。何れにしても、国民世論の動向が政局に大きく影響しそうだ。

穏健な多党政治の可能性

 では、無事に予算が成立し、支持率も「石破降ろし」が起きない程度に回復した後はどうなるのだろうか。当然だが、石破政権は延命工作に邁進するしかない。地方再生等の独自政策の推進は元より、米国、中国等との外交政策で目に見える成果を上げる必要がある。最も重要なのは政権基盤の強化だろう。これと密接に関わるのが7月の参院選だ。参院選を巡る野党各党の思惑を巧みに利用する。目指すのは自民党の体力アップではなく、石破政権の土台作りである。

 先の自民党幹部が語る。

 「安倍晋三元首相の時代は2大政党化が弱まり、1強多弱体制だった。現在は強者不在の時代。石破政権は可能性の政局運営をするしかない」

 「可能性の政局」とは言葉が弾んでいて、興味深い。90年代の政界再編の頃の様だと告げると、自民党幹部が乗って来た。

 「あくまで私見だが、与野党問わず、求めるべきは国家の安寧であって党の安定ではない。政党が入り乱れていても政治が安定していればそれで良い。極端な話、立憲民主党等との大連立だって選択肢の1つだ。今の時代、日本の政党間にイデオロギー対立は無い。一部の例外が有るだけだ。〝穏健な多党政治〟に移行してもいい、と俺は考えている」

 そもそも、石破首相の誕生には国民民主党の存在が欠かせなかったし、昨年の補正予算では立憲民主党が修正の上、賛成している。石破政権は建前上、自民、公明両党の連立政権ではあるが、政権運営の実態はイデオロギー対立の少ない政党による多党制に近いと言っていいだろう。

 自民党幹部は、この路線を窮余の一策ではなく、民主主義の成熟期を迎えつつある日本の新たなスタンダードと前向きに捉えている様だ。「単独政権は驕りが目立つし、2大政党制は激変に伴う混乱を招き易い。多様化した民意を上手く汲み上げられるのは穏健な多党制だ」。

 勿論、反対論も根強い。自民党の大勢は多党制を邪道或いは方便と考えている為だ。先の自民党幹部が「あくまで私見」と前置きした所以である。只、多党制のメリットは学識者等の間では注目されている。政局や国政選挙の動向にもよるのだろうが、1つの政治スタイルとして心に留めて置いても良いだろう。

蠢く衆参同日選の虚実

延命工作の先に待ち構えるのは7月の参院選だが、ここに来て、昨年末から囁かれていた「衆参同日選」の可能性がクローズアップされている。自民党内では「現状の少数政党が入り乱れる政治は一過性のもので、2大勢力が切磋琢磨する本来の姿に戻すべきだ」との意見が強まりつつある。同日選は80、86年の先例が有り、2回とも自民党が勝利している。但し、過去2回は何れも中選挙区制の時代であり、現在の小選挙区制でも自民有利となるかどうかは未知数だ。危険な賭の匂いも漂う。

 もう1つの難題は、公明党の同日選アレルギーである。支持母体の意向も有って、公明党は国政選挙が重なり合うのを嫌う。只でさえ、今年は公明党が最重要視している東京都議選を控えている。公明党周辺からは「3大選挙を背負うのは到底無理だ」との本音が既に漏れている。昨年10月の衆院選で石井啓一代表を落選させたトラウマも有る。

 穏健な多党政治、与野党による大連立、野党連立政権の樹立と自民党の下野……。歴史的な政治体制の転換をも秘めた今年の政局で、じんわりと存在感を増しているキーマンがいる。昨年の臨時国会で、野党出身者で30年ぶりとなる衆院予算委員長になった立憲民主党の安住淳・元財務相である。

 安住氏は早大雄弁会出身で、NHKの政治記者から国政に転じた。自民党や官僚に知己が多く、各党の内情や国会運営の肝にも精通している。ジャーナリスト出身者は一般に「筋に拘り柔軟性を欠くタイプ」が多いとされるが、安住氏は「柔軟でバランスが取れている」のが持ち味だとされる。予算委員会の運営も「既往の事に囚われず、現場の流れを摑んでいた」と与野党双方の幹部から評価が高い。

 国民民主党の玉木雄一郎代表がスキャンダルで役職停止処分となり、与野党間のバランスが変わる中、自民党幹部等は最大野党の立憲民主党の動きに神経を集中している。

 「あらゆる政党との交渉を重視するという基本は変わらないが、予算成立とその後の政権運営を見通せば、石破首相と同年齢で国家観が近い立憲民主の野田佳彦代表と安住氏の『野田・安住ライン』との折衝が最も重要になって来るだろう」。自民党長老は今年前半の政局をそう見ている。

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