
デュタステリドやフィナステリドは、テストステロンを最強の男性ホルモン「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換する5-α還元酵素の阻害剤(5ARI)である。これらは、男性ホルモンを抑制するだけでなく、最強女性ホルモンであるエストラジオールを増やす作用を併せ持つ。いずれも男性型脱毛症に適応があるほか、デュタステリドは前立腺肥大症(BPH)にも適応がある。
薬のチェックでは、勃起不全や射精障害・うつ病や自殺・認知障害・発がんなどの害が大きく、使用すべきではないとしてきた1)。最新号2)で、血栓症の害に注目して報告した。その概要を、症例とともに紹介する。
症例:日本の35歳の男性。身長177cm、体重80kg。男性型脱毛の予防目的で約6カ月間フィナステリド1mg/日を内服。頭痛とけいれん発作を発症し、CT静脈造影で脳静脈洞血栓症(CVST)と診断された。フィナステリドを中止し抗凝固剤を使用し、約300日後にはCVSTは正常化した3)。なお、海外では、25歳でフィナステリドを9カ月使用後、CVSTを起こした人もいる。
深部静脈血栓症と疫学的な関連あり
英国の診療データシステムを用いたコホート内症例対照研究で、BPHの治療に用いた5ARIの、静脈血栓塞栓症(VTE:肺塞栓症と深部静脈血栓症を含む)の危険度が検討された。5ARIが50回以上処方された人は、アルファブロッカー(AB)の単独処方を受けた人に比較して、VTEの危険度がオッズ比で2.3倍であった。この報告の著者らは「5ARI の現在の使用、特に長期使用は、AB のみを使用してきた患者と比較して、VTE の発症リスクの増加と関連している」と結論付けている。
日本の自発報告でCVST8人、PE9人
薬のチェック誌が医薬品医療機器総合機構(PMDA)を「脳卒中、脳出血、梗塞、血栓症、塞栓症」で検索したところ、2024年12月現在、重複を除いて75件の報告があった。脱毛に使用42人(フィナステリド40人、大部分が60歳未満)、BPHに使用が33人(全例デュタステリド、大部分が60歳以上)であった。
脱毛例で、CVSTが8件、肺塞栓症(PE)が6件報告され、BPH例では、CVSTは報告がなく、PEが3件であった。脳梗塞や心筋梗塞など動脈系血栓症はそれぞれ、25件と27件とほぼ同数であった。死亡4人、未回復(後遺症を含め)6人と重篤な例も少なくない。
動脈系でも静脈系でも高齢者ほど血栓症は高頻度であるのに、CVSTやPEが脱毛例(若い人)で多いのは、高齢者では起こっても害反応として報告されていないだけと考えられる。
エストロゲンによる血栓症は確立
エストラジオールを含む経口避妊剤が血栓症を起こすことは確立している。デュタステリドやフィナステリドで5ARIが阻害されると、テストステロンからアロマターゼを経てエストラジオールへの変換が増加する。したがって5ARIが血栓症を起こすのは当然である。
しかし、添付文書に血栓症に関する害、特に静脈血栓症に関する注意が記載されていないために見過ごされている可能性がある。
実地診療では
脱毛は本人にとっては気になることではあるが、命に関わる疾患ではない。男性型脱毛症に対する「効果」と、血栓症や発がん性といった「命に関わる害」のバランスの悪さは言うまでもない。
参考文献
1)薬のチェック、2016:16(64):31-34.
2)薬のチェック、2025:25(117):18-19.
3)辻佑木生ら、臨床神経学、2014:54(5):423-428.
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