
医療分野に於けるSociety5.0の役割は医療の地域格差の是正
2024年12月2日をもって新たな健康保険証の発行は終了し、原則としてマイナンバーカードを保険証として使用する事になる。23年6月に改正マイナンバー法が成立し、マイナンバーカードと健康保険証を一体化する等、マイナンバーカードの利用範囲の拡大が進められる事になった。
マイナンバー関連法改正案には立憲民主党と共産党、れいわ新選組、社民党、参政党が反対した。反対理由の多くは既存の保険証の併用を主張したり、入力作業がトラブルが多い、高齢者や身障者の中には手続きに役所まで行けない人がいる、マイナンバーカードを紛失した際の再発行が有料となり1000円必要となる事等を挙げている。
マイナ保険証に一本化する必要性は、既存の保険証による不正利用が可能である状態だからである。既存の保険証には顔写真やデータチップの埋設は無い。以前より無保険者や不法滞在外国人による保険証の貸し借り等の不正利用が疑われる事案が散見されていた。その様な状況を是正する事がマイナ保険証へ一本化する大きな目的である。既存の保険証を併存させる事を主張する多くの政党は、保険証の不正利用が出来る状態を看過するべきだと考えているのだろうか。
データの入力作業にミスが多いというのも理由にならない。嘗ての年金問題を忘れたのであろうか。マイナンバーも既存保険証も人による入力作業は伴う。リスクは同じだ。役所に行けない高齢者や身障者は代理人による申請が可能である。ハンディキャップが有り役所に行けない人はマイナンバーカードの手続き以外でも同じく、マイナンバーに限らず当然の事として救済措置として代理人が申請出来る事になっている。よって、反対理由にはならない。再発行に1000円掛かるのは当然の事ではないか。再発行にはカードの原価も掛かるし手間も掛かる。再発行を無料にすると税金の使途がフェアでなくなる。再発行手数料を徴収する事は行政として平等な国民負担を図る為に必要な措置である。
政党によるネガティブ運動は政治的駆引きの一環に過ぎない。反対理由が論理的でなくてもそんな事は関係ない。国会での採決がイデオロギー闘争の延長に置かれているという事。但し、世間一般社会ではその様な行為は疎まれ倦厭される。
24年4月末時点でマイナンバーカードの普及率は73・3%、その内マイナ保険証の登録率は78・5%の7255万人となっている。厚生労働省はマイナ保険証の利用促進に力を入れて来たが、利用率は目標と比較して低くなっており順調とは言い難い状況にある。24年5月末時点で病院では14・83%、歯科11・95%、薬局で7・40%、医科診療所で6・47%となっている。7月末時点でマイナ保険証の利用率の目標を20%としていたが達成する事は難しい。但し、5月末時点でのマイナ保険証の利用実績は1425万人となっており登録者全体の約20%に相当する。18歳以上の2000人に対するオンラインアンケートではマイナンバーカード保有者の33%が健康保険証として使用したと回答している。又、マイナ保険証を「利用したことがある」と回答した方の内、約73・9%、約4人に3人がマイナ保険証を「今後も利用したい」と考えている。マイナ保険証の利用に対して消極的な人は28・8%であった。
63・57%の医療機関の受付窓口での声掛けを「保険証、見せてください」から「マイナンバーカードお持ちですか」等に切換えている。厚労省は高利用施設に対する更なる利用率の向上を促す為、利用人数の増加に応じて、診療所・薬局に対し一時金として最大20万円(病院は最大40万円)を支給している。併せて顔認証付きカードリーダーの導入費用の1/2を補助して来た。利用者の増加に応じて医療機関に補助金を支給している。
マイナ救急の導入が既に始まっている
マイナ保険証への一本化を政府が進める意図は健康保険制度のDX化を図り実務を効率化するだけではない。全国の67消防本部660隊において、本年5月から救急隊がマイナ保険証を活用して傷病者情報を正確かつ早期に把握する事で救急活動の迅速化、円滑化を図る実証事業(マイナ救急)を実施している。この取り組みによって自分の病歴や飲んでいる薬を救急隊に正確に伝える事が出来たり、救急隊が病院の選定や搬送中の応急措置を適切に行える様になり、搬送先病院で治療の事前準備が出来る事等が効果として期待されている。マイナンバーカードはDX化の核であり、医療に於いてもビッグデータの活用や医療費の適正化に繋がる。将来的に電子カルテの標準化が進めば医療の質も向上するだろう。診察券も電子化しマイナンバーカードに付加する事で利便性も向上する。
昨年、政府はマイナンバー法を改正し現行の健康保険証の廃止に向けた制度を整えた。健康保険法に於いても電子資格確認が定義され、電子資格確認によって受給資格を確認する事としている。法で規定された事であるから保険医療機関は物理的な整備を行わなければならない。厚労省もカードリーダーの導入費用に1/2を補助している。それにも関わらず医療機関の約1/3が未だにオンライン資格確認システムの導入がなされていない。厚労省も医療機関に任せっ切りにするのではなく進行状況をしっかりと把握し導入を促して行かなければならない。医療機関の対応の遅れがマイナ保険証への一本化を先送りする原因にならない様に進捗を管理する必要が有る。導入義務化は全ての医療機関に平等であるし法に規定された事。厚労省は経過措置の余地は無いものと心すべきである。
テクノロジーは進化する。停滞を招いてはいけない。消費税率が変更になるとレジスターの設定や商店の価格表示の変更に対応して来た。紙幣が新デザインになると券売機や自動販売機等の読取機のセンサーを更新する必要に迫られるが多くの事業者が無事に対応している。東京ドームの売り子や売店では数年前から電子決済のみとなっているが売上が減少する事は無かった。電車の乗車券も多くが電子カードによる決済に移行し券売機に人が並ぶ事も少なくなった。高速道路もETCが普及し渋滞緩和に一役買っている。世界も日本もテクノロジーの進化を享受しつつ時代は変遷して来た。DX化の波を止める事は不可能である。
マイナ保険証はSociety 5.0への入り口に過ぎない
今有る情報化社会Society 4.0は「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」としてSociety 5.0へ向けて走り出している。それが「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せを実現できる社会」を実現すると信じて。医療分野に於けるSociety 5.0の役割は医療格差の是正。地方に住んでいて医療や介護が行き届かないケースも少なくない。Society 5.0では実際に病院まで行って診断を受けなくてもパソコンや専用端末でオンライン診察を受けられる社会を目指す。更に医療を提供する側も電子カルテ等を活用すれば情報を共有する手間が省け、より効率的な診療が可能になる。又、介護面でもAIロボットがお手伝いする事で介護する側の負担も減り効率良く行える。膨れ上がる医療費もIoTやAIの活用によって削減に繋げる事が期待出来る。収集したビッグデータを活用して流行病の発生を予測し、影響を最小限に抑える事が出来るかも知れない。
Society 5.0は遠い未来の計画ではない。現在の延長上に在る。多くの自治体や企業が既に取り組んでいる。技術革新に反応し、社会転用するスキルが行政に求められる。AI、IoT、ビッグデータを活用し経済成長と安全で価値有る社会を目指さなければならない。
変革には紆余曲折が有って然りである。マイナンバーカードやマイナ保険証は変革の入り口に過ぎない。明るい未来を展望し遅れる事無く取り組むべきである。行政には弱者に対する扶助を欠かさぬ様にと願いたい。政府には英知の結集が求められる。
LEAVE A REPLY