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未来の会

第201回 厚労省ウォッチング
生活保護費の見直し綱引きに厚労省は勝てるか

第201回 厚労省ウォッチング生活保護費の見直し綱引きに厚労省は勝てるか

年末の生活保護費の見直しを巡り、厚生労働省と財務省の綱引きが激しさを増している。引き下げを主張する財務省に対し、厚労省は慎重論を唱えて対峙している。前回、2022年末の見直しで同省は減額の試算を示したものの、与党等の抵抗に合い「引き下げの2年先送り」で決着した経緯が有る。今回は「物価高騰」を理由に「引き下げはあり得ない」(幹部)との姿勢に転じた。

神奈川県に住む無職の男性(62)は、親族から10万円を借金した事が仇となり、生活保護を受ける事が出来なかった。ギリギリの生活を送る中、相次ぐ食料品の値上げに「もう限界。家賃の値上げも通告され、もうホームレスになるしかない」と嘆く。

今年8月の全国の生活保護の申請件数は2万1359件。前年同月比0・1%増で、直近10年の同じ月で見ると最多となっている。一方、8月の新規受給者は1万8040世帯に止まり、保護率は0・1%減となった。自治体による保護費抑制に加え、スポットワーク等で生活保護スレスレの暮らしをしている人の増加が背景に有ると見られている。

生活保護費の柱、食費や光熱水費等に相当する生活扶助費の基準は総務省の全国家計構造調査(5年に1度)を物差しとし、厚労省の専門家部会が検討する。非保護世帯で年収が下から10%の低所得層と同水準の基準に設定することが基本だ。2年前の前回の見直し時は、この見直し基準に沿って大半の世帯は引き下げという試算結果となった。取り分け75歳以上の単身世帯では最大8・2%減となっていた。

但し、全国家計構造調査が19年のデータと古く、コロナ禍や21年度からの物価高騰が反映されていない点が専門家から指摘され、与党内からも厚労族を中心に批判が噴き出した。こうした状況を踏まえ、財務、厚労両省は23、24年度の生活保護費について、試算を反映させた上で特例として月額1000円を加算し、加算しても尚、元の受給額に届かなければ支給額を据え置くという異例の合意を交わした。

それから2年。財務省は財務相の諮問機関、財政制度等審議会を通じ、特例加算による保護費の伸び率が非保護の低所得層の消費の伸び率を上回っていると強調し、引き下げを強く求めている。「保護世帯と非保護の低所得世帯の消費水準の均衡を図る」という基本から外れるという訳だ。

とは言え、ロシアによるウクライナ侵攻、円安基調等の影響により、物価高は止まる気配が見られない。総務省が発表した全国消費者物価指数によると、生鮮食品を除く24年9月の全体指数(20年を100とした場合)は108・2に膨らんでいる。国民の間でも「物価高で生活が苦しい」という認識が広まっており、厚労省幹部は「財務省は今の空気が読めないのか」と漏らす。財務省の強硬さには「見解が違い過ぎる」と言い、特例の加算措置についても「今は止められない」との認識だ。

両省の水面下での折衝が続く中、微妙なのが政治の状況だ。先の衆院選で自民、公明両与党は大きく議席を減らし、厚労省が頼る厚労族も多く落選した。財務省と交渉する際の「応援団」が減り、厚労省からは「心許無い」との不安も聞かれる。

こうした中、同省の視線はキャスティングボードを握る国民民主党や、最大野党・立憲民主党にも向かう。両党共に物価高を踏まえた保護費の引き上げに関して自民、公明両党より前向きな為だ。厚労省幹部は「与党も厚労族以外はそれ程熱心でなく、引き下げ論者も一定数いる」と述べ、国民民主や立憲の動向を注視している。

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